第15話 自分に自信を持ちたい
わたしが鈍感? 水都が恋の病にかかっている? 水都には好きな人がいて、それで悩んでいる?
頭の中を、いくつもの疑問符が飛び交う。
「で、でも、そんなふうには全然見えないんだけど……」
「だよねー。水都くんってクールだから、顔に出さないもんね。水都くんのSNSを見て、思い詰めるほどに好きなんだって知って感動した。うちも恋したい! っていうか、激しく愛されたーい!!」
「あのー……」
発した声が掠れている。動悸が激しい。
どうやら、わたしは緊張しているらしい。その緊張に、動揺が混じっている気がする。
ゴクンと唾を飲み込んだ。
「誰が好きなのかな……」
「はぁ? それ、本気で言っている?」
「うん」
「ゆらりはポンコツだなっ!」
「なになに、どういうこと⁉︎」
オロオロしていると、魅音は「鈍感なる女、めんどくさし!」と怒って、鞄からスマホを取り出した。
「水都くんがはっきりと書かないことを、うちが言うわけにいかないじゃん。でもなー。うちは二人の恋のキューピットになるって決めたから、お節介を焼いてあげましょう!」
「う、うん……」
魅音は、【ん】さんのつぶやきをスクロールした。
「誰のことを思いながら、つぶやいているのか。考えながら、聞いて。……まず、これね。昨日のやつ。ゆらりは昨日、みなっちに何したんだっけ?」
「えっ? あぁ、えっと、謝ろうと思って後をつけました。できなかったけど……」
「うんうん。これが、そのつぶやきだ。【後ろにいて、ドキドキした】【気になる。なんだったんだろう】。尾行したのが、バレていたってわけだ」
「それはない。別のことが気になったんだと思う」
「なぜ断定できる?」
「だって、一度も振り返らなかったもん。後ろを見ないのに、わかるわけない」
「カーブミラーとか、店のガラスとかに映っていたんじゃない?」
「あっ……」
水都は敏感だし観察眼もあるから、あり得そうだ。
「では次ー。同じ日付だね。九月十日。【告白現場を見られて最悪だ】【死にたい】……告白現場を見たのはだーれだ?」
「あ……わたしです……」
「じゃあ、これは? 【目が合った。やばい。可愛い】【昔も可愛かったけど、さらに可愛くなっている】……これは誰を指している?」
「うーん……誰だろう?」
「はぁ⁉︎」
魅音は大きな目を、さらに大きく見開いた。目玉が落ちてしまうんじゃないかと心配になる。
「なんでそこで誰だろうって、鈍感を発揮するんだね⁉︎ わざとか? 鈍感なわたしって可愛いでしょ、って思っているなら違うからな! イラつくだけだぞ!」
「わざとじゃないよ! そういうんじゃなくて、だって……」
「水都くんは激重感情一途男子なんだから、あっちこっちの女に気があるわけないでしょうが!!」
「あー……そうなのかな? でも、うちらの学年って、可愛い子たくさんいるよね?」
「だが、【昔も可愛かったけど、さらに可愛くなっている】。これは、ズバリ! 長い付き合いである相手であることを示唆している。君である確率が高いんじゃないかね? どうだね、自首する気になったかね⁉︎」
「名探偵魅音って感じだね」
「名探偵ではなく、魅音警部補と呼んでくれ。……って、そんなことはどうでもよくて!!」
魅音のぽっちゃりとした手が、わたしの腕をバシッと叩いた。
「痛っ!!」
「自業自得の痛みだ! ゆらりは告白現場を見たんでしょ!」
「う、うん。声、大きいよ。まわりに聞こえるから、もっと静かに……」
「なんとも思っていない相手に告白現場を見られても、死にたいって思うほど落ち込まないと思うよ! 相手がゆらりだから、落ち込んだんだよ。そこはわかるよね⁉︎」
「そ、そうなのかな……。でもわたし、可愛くないもん……」
「あー、うじうじしている女、嫌い! めんどくさしっ!!」
わたしは口を閉ざした。本気で怒った魅音は迫力がある。圧がすごい。
「その顔で可愛くないって、うちに喧嘩売ってんのか? その喧嘩、いつでも買ってやるよ。泣いて平伏すまで、戦ってやる!」
「……すみません……」
「ゆらりこそ、自己肯定感が低すぎ。もったいない。いいところ、たくさんあると思うよ。誰かに嫌われても、うちもみなっちもいるし、それでいいじゃん。自信を持って生きろ! みなっちを励ますより先に、自分を励ませ!!」
魅音は立ち上がると、わたしの背中を力強く叩いた。
「自信注入してやる!!」
「いててててっ!」
魅音は合唱部なのに、体育会系のような熱いハートを持っている。
わたしはそんな魅音が好きだし、「誰かに嫌われても、うちがいる」との励ましがとても嬉しかった。思わず、涙ぐんでしまう。それを誤魔化すために、エヘヘと笑った。
チャイムが鳴る。
おしゃべりに夢中になっていたから気がつかなかったけれど、いつの間にか水都は登校していて、席に座っていた。
担任が教室に入ってきて、わたしは慌てて自分の席に戻った。
右斜め前方に座っている水都。その横顔はやはりかっこいい。フェイスラインがシャープなせいか、大人っぽい。半袖から見える腕には、ほどよく筋肉がついている。
元々かっこいいのに、高校生になってさらにかっこよくなった。垢抜けないわたしとは、違う。
(あーっ! 悲観モード継続中になっている。自信を持とう!!)
──ぶらりのぶは、ブスのブーっ!!
自分に自信を持とう、自己肯定感を上げようと決意した矢先。意地悪な言葉を思い出してしまった。
ぶらりとあだ名をつけられて大笑いされた時の衝撃は、今でも心に残っている。
(美少女だったら、あんなあだ名、つけられずに済んだのかな……。水都の隣を歩いていた、ハーフの女の子みたいな……)
中学時代。学校帰りの水都を見かけたことがある。ハーフっぽい美少女と歩いていた。女の子は満面の笑顔で、水都の腕に手を絡めていた。水都は無表情だったけれど、その女の子を手を振り払うことはしなかった。
彼氏と彼女に見えた。
水都がSNSで発した、【昔も可愛かったけど、さらに可愛くなっている】
誰を思いながら、つぶやいたのかな……。
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