第9話 親友に打ち明けました

 お昼休み。お弁当を持って、魅音と一緒に中庭に来た。空いているベンチに座り、お弁当を広げる。

 わたしのお弁当は実にシンプル。具入りのおむすび二つだけ。朝は妹弟にご飯を食べさせ、父のお弁当を作り、皿を洗い、洗濯物を干して……と忙しいため、おむすびが一番手っ取り早い。

 中に入っている具は、唐揚げだったりウインナーだったり炒り卵だったり焼き鮭だったりと、その日の朝食に出たものが入っている。

 今日のおむすびの具は、目玉焼きの黄身の部分と、きのこのバター炒め。

 

 魅音の母親は、料理教室を開いている。そのため、魅音のお弁当は栄養バランスがいいし、彩りも美しい。

 

(アスパラの肉巻き、いいなぁ。手作りっぽいコロッケもある。しかも別な容器には、キウイフルーツ。なんと贅沢なっ!!)


 魅音のお弁当に羨望の眼差しを送る。

 魅音はぽっちゃり体型。その分声量があるので、合唱部に所属する身としてはいいのだろうけれど、やはり十六歳女子は体型が気になるというもの。

 チラ見していると、魅音はおかずをお裾分けしてくれるときがある。


「羨ましいって顔してる。食べたいなら、お弁当を交換してもいいよ」

「へっ、交換⁉︎ 本当に⁉︎」

「うちさ、あんまりお腹が空いていないんだよね。それに、ゆらり特製おむすびを食べてみたいって前から思っていたんだ。交換する?」

「わーっ! 交換するする!!」

「ただし、条件がある」

「なに?」

「ゆらりと水都くんってさ、微妙な空気だしているよね。わざと目を合わせないっていうか。前に、昔は仲良かったって言ったことあったじゃん。喧嘩でもしたわけ?」

「あー……」


 水都と絶交したことは、当時の先生にも言っていないし、父にも妹弟にも話していない。

 いじめられたことが言いにくいのもあるし、水都にひどいことをしてしまった負い目もある。


「暗い話だから、あんまり話したくないんだけど……」

「そっか。話したくないのを、無理に聞く気はない。では、お弁当交換はなし。いただきまーす。肉巻きから食べよう」

「わーっ!! 待って待って! アスパラの肉巻き食べたーい!!」


 アスパラは、節約の味方ではない。スーパーで売っているアスパラは、ひと束が大体、三本か四本。我が家は四人家族。一人一本では、寂しいものがある。それにアスパラは、欠かすことのできない食材ではない。アスパラを買うんだったら、じゃがいもやにんじん、玉ねぎを買ったほうがいい。

 そういうわけで、アスパラに飢えていたわたしは、禁断の箱を開けることにした。


「わかった、話す!! お弁当を交換しよう!」

「よしよし」


 こうしてわたしは、アスパラの肉巻きを食べた。美味しすぎて、頬がじーんと震える。

 

「美味しすぎるっ! ほっぺが落ちそう。さらりとくるりにも食べさせてあげたい!!」

「大袈裟すぎ」


 食に困っていない魅音は、呆れた顔をした。


 わたしは魅音の母親の愛情がこもったお弁当を食べながら、水都のことを話した。

 幼稚園での出会い。それから、小学校で起こった悲劇。

 魅音は黙って聞いていたけれど、話が終わると、開口一番に文句を言った。


「おむすびに塩がついていないんですけど。まずくはないけど、美味しくもない」

「米に塩をつけるなんて、そんな贅沢なことはしちゃダメ。そのままでよし!」

「貧乏、いと哀れなり。いたはしく涙いづ」

「そんなことはいいから! それよりも、その……わたし、ひどいよね?」

「なんで? ひどいのは、川瀬杏樹でしょ? 三組のあの女だよね? 髪はサラサラで綺麗だけどさ、心は腐っている。絶交するよう強要するなんて、クズな女」

「さ、さすがにそれは言い過ぎじゃ……」

「なんで? 本当のことじゃん。ゆらりも水都くんも被害者だよ」


 魅音のお腹は、おむすび二つでは満たされなかったらしい。宇宙人のお弁当ピックが刺さっているキウイフルーツに、手を伸ばしてきた。


「食べるの? お腹が空いていないんじゃ……」

「いいからいいから。それよりもさ、結婚の約束をした二人の仲を引き裂くなんて許せない。うち、姑息な女って嫌いなんだよね。川瀬杏樹に嫌がらせして、ぎゃふんと言わせてやる!」

「ぎゃふんって、なに? どういう意味?」

「ぎゃふんの発祥は江戸時代。由来は諸説ありますが、ぎゃーという驚きの言葉と、ふむふむという納得の言葉を組み合わせた……」

「由来を聞きたいわけじゃないから!」


 魅音は雑学好きなので、話がずれることが多い。けれど、話をもとに戻す役目をするのも魅音。


「で、ゆらりは水都くんのこと、今でも好きなわけ?」

 

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