第464話 【企画初日】うわ、きも
説明しよう。『肝試し』とは。
日本の習俗のひとつであり、遊びとしての度胸試しの一種である。
夜の森など『人間が潜在的に恐怖を感じる場所』を巡らせることで、参加者の勇気のほどを確かめながら、そこで起こる事象を楽しむ行事である(うぃきぺ先生より)。
そこで起こる事象を『楽しむ』行事である。
……というわけでね。
やや強行気味なところは否めませんが、存分に楽しんでいただこうではありませんか。
「えー、いささか突発的ではありましたが……準備のほどは良いですか? 皆さん」
「「「はぁーい!」」」
元気よくヤル気満々の返事を返してくれたり、あるいは静かに闘志を漲らせたり。
急な呼び掛けにもかかわらず集まってくれたのは、われらが『のわめでぃあ』の面々……
中身はただの人間であるお客様を脅かすには、控え目に言って過剰戦力であろう面々が、こうしてやる気満々で集ってくれたわけで。
「皆さんにお願いしたいことは、きわめて単純です。お客様を脅かす。以上です」
「はいはい御館様! 神術の
「変化は現代日本に違和感無い動物とかなら許可です。他の術も……夜だし見通しも悪いので、証拠が映像に残らなさそうな範囲でなら許可します」
『――――に。やぬしどの、我輩の身を晒すのは許されようか?』
「うーーん…………あっ、ねこちゃんのほうで? なら大丈夫だけど、くれぐれも喋らないようにね」
「ご主人どの、ご主人どの! 御客人を脅かすにあたり、小生もこの身を晒してもよいもので御座いましょうか?」
「んー…………まぁいっか。
てきぱきとミーティングを済ませ、細かな注意事項を確認。気合いも充分の七人の
おれは『準備オッケー』の合図を
脅かし手はみんなに任せるとして……俯瞰で状況を把握する者も必要だろう。
さてさて、今回の突発肝試しだが、ルールは簡単。……まぁそもそも肝試しに複雑なルールとかあんまり無いか。
二人一組でカメラとLEDランタンを持たされた皆さんが、キャンプ地を出発。申し訳程度に整地して砂利を敷いた道を通り、おれたちの拠点(通称のわめ荘)を目指す。
傾斜やカーブはあるけど目的地まではほとんど一本道だし、迷うことはないだろう。
道中は七人の美少女たちがあの手この手で脅かしに入るだろうが……それらの妨害を掻い潜って
紙コップになみなみと注がれた、
ゴールした時点で『お茶をどれ程残せているか』が、そのまま勝敗を決めるものさしとなる。重量(※紙コップは除く)イコール得点となるわけだ。
ビックリするあまり紙コップごと落としたり、お茶をこぼしたりしてしまったら、その分マイナスとなるわけだな。
なお、参加者はウィルムさんとセラフさん――つまりは『おねむ組』――を除いた六名。
ペア割は公平に
「俺様……ベルちゃんと一緒がよかったなぁ」
「うるせぇよ馬鹿。オレだってティー様と組みたかったわ」
一組目。
『勇者』エルヴィオ・ブレイバーさんと、『魔王』ハデスさま。何だかんだで仲の良い宿敵コンビである。
ランダムである以上、男男ペアももちろんあり得るわけだな。……きっと配信の向こう側では、視聴者のお姉さまがたが大喜びしていることだろう。どちらが
「一番目って情報なにも無ェもんな…………いやまって、待って、暗くない? 怖くない??」
「いやこれやめたほうが良くね? 熊とか出るかもしれねーじゃん。やっぱやめたほうがよくない?」
「そこんとこね。施設管理人さんによると、熊とか危険な動物は敷地内に入って来れないみたいなので……大丈夫ね。はーい行ってらっしゃーい」
「ソス子おまえ! 一番目じゃ無いからって! 覚えとけよチキショー!」
「やっぱ冒険者ギルドにはロクなヤツ居ねぇな!! おいオギュレ代われ! 一番手譲ってやるから!」
「いやいやいや。昼間遊んでばっかだったじゃん魔王様。今こそ本気見せたって下さいよ」
「魔王軍だってロクなヤツ居ねぇじゃんか! やーっぱお前人望無ェんだな!! 普段の行いってヤツだろこれ!!」
「テメェにだけは言われたく無ェよクソ勇者!!」
……いやはや、『恐怖』の感情ってすごいのね。こうもあっさりとヒトをダメにしてしまえるなんて。
まったく……まだスタートしていないのにこの有り様じゃあ、先が思いやられますな。
(ラニちゃん。軽ぅーくやっておしまい)
(あらほらさっさー)
「「わああああああああああ!!!」」
「いや……風で茂み揺れただけじゃん……」
(大爆笑)
「皆さーん見てますかーこの二人が『勇者』エルヴィオと『魔王』ハデスでーす」
夜の山林とざわめく風の音にビビり散らし、口汚く罵り合い、まったく歩を進めたがらない宿敵コンビであったが……ここまできてリタイアは認められない。だっておもしろいし。
やがて二人は『抵抗は無意味』と悟ったのか、同期とスタッフの方々と視聴者コメントからの圧力に屈し……非常に渋々ながら、歩みを進めていった。
「……というわけでお疲れ様です。カメラお預かりしに来ました(小声)」
「アッ、お疲れ様です。ではこちらと……こちらインカムです。どうかよろしくお願いします(小声)」
「お任せ下さい。
「あぁ、
スタッフの方からカメラとインカムをお預かりし、てきぱきと準備を整え、おれは再びひっそりと闇に消える。
現在のマイク入力は牛歩で進む二人組のピンマイクに指定されているので、おれとスタッフさんの密談が拾われることは無い。
また同様に、まだその背中が見える第一走者に声援を送っているティーさまたち皆さんにも……おれの出現を気取られることなく。
おれにしかできないおしごとに、意気揚々と取り掛かるのだった。
(そろそろポイントアルファ……いま)
「「わああああああああああ!!!」」
(今のは……羽音と、カラスの鳴き声? ……ダイユウさんたちかな)
(シンプルにビビるやつ~)
「なな、ななに、ななにな何この霧! 何でいきなり霧出てきたんだよこれオイこれ何!?」
「お、おい勇者……なんか寒くね? 俺様の気のせい? …………ちょっ、いややっぱ寒くね!?」
――――ガサガサガサガサガサッ!!!
――――ギァァァ!ギァァァッ!!
――――キキキキキキキキキキキキ
「「いやあああああああああ!!!」」
((大爆笑))
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