第446話 【晴天霹靂】奈落へ
その報せは……八月も下旬のある日の晩に、突如として舞い込んできた。
そのときおれは、おべんきょうを経て新たなレパートリーを身に付けた
おれの好物の『はんばーぐ』を作ってくれるという彼女の申し出に、軽くテンションが振りきれていたおれだったのだが……突如けたたましい着信音を鳴り響かせるスマホに一瞬眉をひそめ、直後その画面に映し出された発信者の名前を認識し、瞬時に気を引き締め直す。
『――――夜分に大変申し訳』
「お疲れ様です春日井室長。
『ッ、…………
(ラニごめん、緊急。
「オッケー! 呼ばれて飛び出て……
心配そうにこちらを見つめる
こうすることでおれのやる気が限界突破するので、
おれと同じように
場所が場所なだけに、おそらく
「
「にぅ………………我輩が力不足だから、では……ないのだな? 子兎めに我輩が劣っているわけではないのだな?」
「もちろん。大切な
「…………に。承った。…………わかめどのを頼むぞ、
「お任せくださいませ。小生の誇りに懸けて」
実際のところは、
こういうときのために詰所だって(『おにわ部』が)用意したし、
そこに加えて……いかなるときでも落ち着いている
というわけで、オウチのことは心配いらない。おれたちは
おれとラニと
「お待たせしました春日井室長。現在
『は!? ……っ、失礼しました。現状報告を読み上げます。『
「わかりました。……こちらでも黒煙を確認しました」
『えっ!? ……あぁ、なるほど。空からですか』
「ですです。コッチの火災は我々で消しますんで……『空飛ぶエルフ』の目撃情報とか出回っちゃったら、そのときはちゃんとそちらで
『お任せ下さい。……お気をつけて』
「ありがとうございます」
初めての空中散歩によって泣きそうな感情を迸らせている
境内に出たのにヨミさまに挨拶もせず飛び出てきちゃったけど……緊急事態だから仕方がない。たぶん
……まぁ、そのために
夜空を駆けるおれたちはぐんぐんと黒煙の発生源に近づいていき、やがてチラチラと赤い炎が見られるようになってくる。幸いというべきだろうか、事故の現場は山中に拓かれた工業団地のようであり、住宅地や市街地からはそれなりに離れている。
しかしながら……やはりというか案の定というべきか、周囲の大気中の魔力濃度が一気に上がっていくのを感じる。
おれにとっては多少やりやすくなるけども……それは決して、メリットばかりではない。
「ノワも気づいた? あれはどうやら……ただの爆発じゃない」
「たぶん、レウケポプラの魔力を使った……大気中に溶け出た魔力に、直接『爆発する』ことを強制したもの。その目的はおそらく……」
「そうだね。魔力の広域拡散……レウケポプラの栽培によって貯めに貯めた高濃度の魔力を、魔力そのものの爆発に乗せて広く広く拡げるための」
「…………本当にもう! やりたい放題だなぁもう!!」
春日井さん情報によれば、『
扱うものは主として、植物であるはずのレウケポプラと水。……であればなおさら、爆発事故なんて起こり得ない。空調や発電機器の不備だとしても、建屋が吹き飛ぶなんて在り得ない。
なによりも……この魔力の匂い。
恐らくは魔力そのものを一部炸裂させて指向性を附与し、空間中の魔力を波に乗せて遠くへと拡散させる。……そのための、人為的な爆発。
であれば、容疑者はおのずと絞られてくる。
一気に高度を下げ、炎上を続ける工場建屋……おそらくは全天候型レウケポプラ培養施設だったものへと肉薄し、【探知】魔法を行使して生命反応を探し出す。
さっきの春日井室長からの報告では、『怪我人の数は不明』と言っていた。当然『居ない』とは言っていないし、日頃から人の詰めている施設でこの規模の災害が起きて『居ない』はずがない。
『ボクはコッチ捜してくる』
「頼んだ。おれは火消す」
「ひぇっ……ひぇぇ…………」
自身と
一方で全身鎧を身に纏った
工場従業員のほとんどは屋外に避難していたが、屋上や上層フロアには幾らかの生命反応が感知できる。崩れ掛けた壁をぶち破りながら退路を切り開き、
やがて、おれがあらかた消火を完了させた頃、上層フロアの救助活動に向かっていた
真っ黒の瓦礫だらけとなった工場跡地には……他にもう
「……
「んぐぅ……っ、…………問題、ございませぬ」
「…………ごめん、辛いもの見せた」
「……ご主人殿が謝る必要など、とんと御座いませぬ。小生は誇り高き
可愛らしい顔を蒼白に染め、恐怖と後悔と悲嘆の感情に苛まれながらも。
しかしそれでも並々ならぬ決意を湛え、自らの足で踏ん張り姿勢を整え……彼女は望まれた役割を全うする。
「――――通りませ、通りませ。我が身
彼女の目と耳は、周囲の情報を『主』へと送り。
彼女と魂で繋がった、彼女が全幅の信頼を寄せる『主』は……彼女の身体を介し、その超常たる術を行使する。
「――――
遠く離れた『主』と、おそらくは全く同じタイミング・同じ声色で、彼女の唇が祝詞を紡ぐ。
遠く離れた『主』の手による、超大規模な【
(……すごいね、クチラちゃん。いや、アラマツリさんか? ……どっちもか)
(あとでちゃんとお礼いわないとね。どっちも)
白亜の全身鎧に身を包んだ
左手には弓を握り、腰には短杖を吊り……相棒は剣盾を携え、二人とも最初から
もう許さない。逃がすわけにはいかない。絶対にここで止めなきゃならない。
あの子のような幼げな少女に手荒な真似をするのは、正直いって気が引けるが……今更そんな悠長なことは言っていられない。
今回の惨状は。この悲劇は。この犠牲は。
これまで何だかんだと理由を付けて、あの子に強く出られなかったおれたちの……そんな優柔不断さが引き起こした結果でもあるのだから。
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