第349話 【完成披露】さぁさ皆さんお立会い



「ノワ早く早く! 遅れちゃうよ!?」


「おれは何とかなるんだけど! モリアキ早く!」


「一般人に優しくない職場っすね! ココは!」


「モリアキが追加で壬島みしまコロッケ頼むからだろ! おいしかったけど!!」



 さてさて……つい先ほど、記念すべき第一回の『せっかくとりっぷ』収録を終えたおれたちは……思っていたよりも時間が押してしまっていたことに慌てふためきながら、ハイベースを道の駅『鹿野かののへそ』へと置いたまま、ラニちゃんの【門】へと飛び込んだ。

 なつめちゃんの【隔世カクリヨ】によって無人となった緑地公園を全力疾走し、おれたち『のわめでぃあ』構成員は待ち合わせ時間に間に合わせるべくひた走る。

 自身の誇る権能を、本来の用途とは異なる目的で使われたなつめちゃんは……猫ちゃんの姿ながら複雑な表情を滲ませている。まじめんご。


 現在時刻は、午後一時四十分。本日のは午後二時なので厳密に言えば遅刻じゃないのだが、こちらから提案した時刻なら十分前くらいには着いてなければ失礼だろう。

 特に今回は超重要な案件であり、お伺いするなのだ。




「セーーーフ! 一時四十八分ぎりぎりせーふ!! さすがおれだわ!! なぁモリアキ! ……モリ………………し、しんでる」


「ぜぇ、はぁ、ぜぇ、……っ、勝手に、ころさな……っ、はぁ、」


「おーおー……かわいそうに。我は紡ぐメイプライグス……【快気リュクレイス】」


「アァーーーー(恍惚)」


『――――も、もう戻して良いかの?』


「ご、ごめん。おねがいします」



 現実世界のほうにも干渉するモノは無さそうとのことなので、ヒトの姿を真似たなつめちゃんに【隔世カクリヨ】を解いてもらう。

 途端にすぐそこの大通りからは賑やかな喧騒が聞こえてくるが、それを尻目におれたち四人(と妖精一人)はエレベーターへと滑り込み……なんとか、ぎりぎり、約束の十分前ちょうどに、株式会社NWキャストさんの事務所へと辿り着く。



 そう……おれたちが本日『お約束』している相手とは、ほかでもない。


 株式会社NWキャストさんが擁する、配信者タレント集団……仮想配信者ユアキャス業界最大手事務所『にじキャラ』さん所属の方々なのだ。








「それじゃあ少々早いけど、皆揃ったみたいだし……始めちゃおうか? 若芽さん」


「……っ!! は、はいっ! 宜しくお願いします!」



 今回おれたち四人が通されたのは、前回お邪魔したときとは異なる『八〇一』ルームの中の一室。合計三十人ほどが腰掛けられる広さの、なかなか上等な会議室である。

 議長席に座るのは、この『にじキャラ』部門の事実上トップである鈴木本部長。以前ミルさんの身に起きた事件をカミングアウトした際にお会いして以来だが……その表情はなんだか、とてもわくわくしているように見える。




「えー…………本日皆さんにお集まり頂いたのは、ですね」



 嬉しそうな表情を隠しきれない、若々しい顔色の鈴木本部長……彼が見つめる先に着座しているのは、左右合わせて十五名の男女。

 そのうちおよそ半分は、なんとおれがお会いしたことがある方々だ。先日この近くの中華料理店『翠樹苑』さんで短くも濃密なときを過ごさせていてだいた、うにさんやくろさんたち第Ⅳ期生【Sea'sシーズ】(のなかのひと)たち……ミルさんを除いて、七名。


 残るもう半分は……おれにとっては推測の域を出ないのだが、確信ともいえる直感がその正体を告げている。

 めっちゃニコニコ顔でおれを凝視してくる小柄な女性と、親しい友人に会ったかのような笑みを向けてくる大柄な男性……彼ら彼女らを含む八名。


 ……間違いない。

 この業界の偉大なる先達にして、おれ含め多くのサブカル系配信者キャスターの憧れ……『にじキャラ』第Ⅰ期生(のなかのひと)の方々だ。

 考えるまでもなく、ティーリットさまとハデスさまなのだろう。リアルのほうもかわいい&かっこいいかよ。すきだが。





「Ⅳ期のミルクさんの身に起こった変化については、先日皆に伝えた通り。本日は彼女……あいや、彼のケースを参考に、から技術提供を受けて開発した、いわば『新世代演出技術』……その御披露目と、『体験』を行っていただきたく」


「それって! あたし達もアバターの格好になれるかもっていう!?」


「まだ説明の途中なんですけど…………まぁ、。皆さんに演じていただいている仮想配信者アンリアルキャスター、その姿を……現実の皆さんに投影する。のような技法です」




 おぉー、と……十五名の演者さんたちから盛大な歓声が上がる。

 とはいえ、うにさんやくろさんたちのごく一部を除いて、そんな演出手法は初耳だという方も、もちろん多い。

 戸惑いの感情も少なからず見受けられるが……しかしそんな中にあっても、喜びの感情を持ち合わせていないような方は、さすが誰一人として居なかった。



 やはりプロ中のプロの方々なだけあって、自らが演じるキャラクターへの思い入れもまたひとしおなのだろう。……であれば、なおさら都合が良い。


 今回ご用意した術式は、術者が『いかに具体的に想像できるか』が鍵となる。

 キャラクターの容姿や格好なんかを指示する魔法条文は織り込まれておらず、ただ『ディテールは術者のイメージを参照する』という条文があるのみだ。


 つまり……自らが演じるアバターをうまく再現できるかは、演者本人の『想像力』と『創造力』に委ねられるわけだ。





「……では、論より証拠というか、百聞は何とやらというか。……ここから先は……若芽さん、お願いします」


「は、はいっ! 失礼します!」




 先日お邪魔した際の『晒し者』作戦の甲斐もあって、この場にいる方々は皆おれのことを知ってくれているようだった。おれがお話ししたことのない方々も、どちらかというと好意的な視線を向けてくれている。


 これなら……最初からおれの話を聞いてくれる体勢であるならば、いける。

 名指しされ立ち上がったおれは、この場に踏み込む直前ラニに手渡されたアタッシュケースを机の上に置き、ほっぺをぺちんと叩いて気合を入れて口を開き……



「そのカワイイムーブほんま天然なんやね……」


「んふゥーーかぁええなぁーー」


「はぁ……わちも抱っこしたい……」


「………………ヒンッ!!」




 うにさんくろさんティーさま(のなかのひと)によって盛大に出鼻をくじかれ……あっという間に半泣きにされたのだった。


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