第332話 【国展催事】ちょっと休憩……



 あーーなるほどね!!


 なるほどなるほど!!!


 おっけー。これはなかなかハードだわ。





「の、ノワ……大丈夫?」


めんめんだいびゅぶぜんぜんだいじょぶ


「アッ、だめだねこれはね。我は紡ぐメイプライグス……【快気リュクレイス】」


「あ゛あ゛ーーーーーー」


『――――だ、大丈夫なのか……家主殿は』


「大丈夫大丈夫。ちょーっとキモチよくなっちゃってるだけだから」


キぐ効くゥーーーーーー」


『――――そ、そうか……』




 つい先程まで、われらがハイベース号へとお客さん――三納オ(略)社取締役の関さん――をお招きして、『わかめのおはなしクッキング【出張版:カンタン車中泊メシ編】』をお送りしていたおれたちだが……現在はというと、配信画面に別の動画を流しての休憩中である。


 ちなみに休憩のお供は、先日撮れたてほやほやの崇覇湖すわこサービスエリアお出掛け動画。今回が初公開となるので、視聴者さんたちにとっても『見飽きた』感は無いだろう。

 いろんな『撮れ高』をおよそ三十分程度の尺に纏めてあるので、つまりはその動画が流れている間……最低でも三十分程度は、脱力しきって休憩する時間が得られるというわけだ。


 まあ……一度小休憩はあったものの、それ以外はほとんど立ちっぱ動きっぱ喋っぱだったもんな。われながらよくがんばってるとおもうぞ。えらいぞおれ。



「先輩お疲れっす。多治見たじみさんから労いの言葉頂いてますよ。お陰様で例年に無いペースで成約、ないしはクロージングアポ取れてるらしいです」


「ン゛い゛っ。…………うん。お役に立ててるようでよかったわ」


「先輩ホント大丈夫っすか? 今変な鳴き声出ましたよ?」


「大丈夫。ラニちゃんが疲労やっつけてくれたから。それに鶴城つるぎさんのアレに比べれば、まだまだ全然」


「アレは確かにひどかったよねぇ……」



 まぁ、そんなわけで。

 魔法による体力フィジカルバフと疲労回復魔法により、おれはふつうのひととは比べ物にならないほどの連続行動を可能にしているのだ。

 今回のお仕事は声を張る必要こそあれど、会場そのものは十八時にはクローズするのだ。休憩が終わって戦線復帰しても、そこからはあとほんの三時間。余裕のよしこちゃんだろう。


 それにそれに。十五時から半まではメインステージのほうで、キャンプ芸人さんのトークショーがはじまるのだ。

 会場内の御客さんたちもそっちのほうに流れるだろうし、つまりおれの負担も減ることだろう。……営業さんたちも、やっとゆっくりごはん食べられるかもしれないな。




「休憩終わったら……なんだっけ? フリートークだっけ」


「対談形式のね。メインテーマは『キャンピングカーの可能性』だって。おれたちが『ハイベース号』つかってみた感じの、なんていうか『これ良かったよ』とか『これいいかも』みたいなやつを語ってくれだって。六十分くらい」


「せ、先輩そんなトーク得意でした……? 一時間ってそれ、例のキャンプ芸人さんより持ち時間長いじゃないっすか……」


「まぁあっちはメインステージ、こっちは個別ブースだからな。箱のデカさがそもそも違うし、テーマから脱線しても良いんだって。あくまで告知用に決めただけらしいよ、トークテーマ」


「へえー……まあ、午前中の様子見る限り大丈夫そうだけど、無理だけはしないように。視聴者さんを悲しませないでね」


「へへ…………おれの扱い方、よく心得てるね」



 おれの弱味をよく知っている相棒の助言に苦笑が漏れるが……おれだってそれくらいは心得ている。自分の体力の限界もわかっているつもりだし、引き際は弁えているつもりだ。

 あと一息、あと三時間程度。やるべきことは決まっているし、原稿やカンペも頭の中にしっかりと入っているので……懸念は、あんまりない。


 既に崇覇湖すわこサービスエリア動画は終り、今は配信待機用画面が映し出されている。カメラのほうは三納オ社のスタッフさんにお預けしたので、あとはおれがこの扉を開けて姿を表せば上手くやってくれるはずだ。

 せきさんからも『準備完了』のメッセージが届いたので、あちらの準備も万端らしい。……よっしゃ行くか。



「ヨッシ。……いってきます」


「「「いってらっしゃい(ませ)」」」


『――――程ほどに励むがよい』



 心強い声に見送られ、おれはスライドドアの扉に手を掛ける。

 われらがハイベース号の電動スライドドアは、特徴的な電子音を響かせながらゆっくりと開いていき……三納オ社ブースに集まるお客さんたちの姿がおれの視界に入、って、あの。



 ひ と お お く な い ?







「ただいまの時間からは、実際に弊社の製品をご利用いただいている、仮想アンリアル……? ええと、実在動画配信者ユーキャスターの『木乃若芽』さんにお話をお伺いしようと思います。進行はわたくし、三納オートサービス営業部、多治見たじみが務めさせて頂きます。若芽さん、宜しくお願い致します」


「よ、ッ……よろしく、お願いします」


「若芽さんどうされました? 大丈夫ですか?」


「いえ、あの、えっと……あの、皆さん本気ですか? なにやってるんですか? 皆さんのほうこそ大丈夫なんですか? わんわんながしまグリルさん来てるんですよ!? なんでこんなところに居るんですか!?」


「こ、こんなところ…………」


「あっ!? エッ、えっと! わあ、ちがうんです! これは違うんです! あ、あっ、あっ、えっと……ありがとうございます! みなさん! 三納オートサービスのブースへご足労いただきまして、とってもありがとうございます!!」



 がっくりと項垂れた(ふりをした)多治見たじみさんと、ひっそりと視線を交わして『にやり』とほくそ笑む。

 もちろん、おれは本心から三納オ社さんのことを『こんなところ』なんて思っているわけがない。台本通りというやつだ。


 お客さんもそのことは解ってくれているのだろう。局長おれのぽんこつっぷりを揶揄する声や単純に励ましてくれる声が飛び交い、とても和気あいあいとした雰囲気。どうやら『掴み』は上々のようだ。



「えーっと……ただいまの時間、メインステージではアウトドア芸人『わんわんながしまグリル』さんによるトークショーが開催される時間なので…………てっきりこちらはユルく行けると思ったのですが……」


「話が違いますよ多治見たじみさん。なーにが『お客さん五・六人くらいのユルい対談なので実質休憩時間』ですか。わたしウソつかれました? せきさんといい多治見たじみさんといい、わたしがかわいそうじゃないんですか??」


「……はいっ。それでは早速始めていきましょうか」


「アー!! ひどい!!」



 口ではそんなことをつぶやきながら、顔にはほがらかな笑顔を浮かべ……おれの持つ武器を最大限活かすべく、ころころと表情を動かして見せる。

 普段から広報動画の撮影に駆り出されているという三納オ社の撮影スタッフさんも、ハンドカメラと定点カメラをこまめに切り替えている裏方さんモリアキも、なかなか見事な働きっぷりを見せてくれる。

 おかげで……おれの手持ちのタブレットに流れる視聴者コメントは勢いを増し、しかもそのほとんどが好意的なものだ。


 ……収益化設定をオンにしておけばスパチャいっぱい貰えたのかもしれないが、他社様の案件に乗っかってお金稼ぎをするのは、さすがにちょっと違う気がした。

 おれの今のこの時間は、三納オ社さんに捧げているのだ。この特別生配信もあくまで『ハイベース号』の有用性をアピールするための手段に過ぎない。先方の理解もあって『のわめでぃあ』で同時公開する許可を頂けたが、この配信の権利は三納オ社さんにあるわけで。

 よって、それでお金稼ぎすることはできない。配信者としての矜持というわけだ。ふふん。





「……という形で、一問一答形式でお話を進めていこうと思います。よろしいですか?」


「はいっ! しっかりアピールしますので、お任せください!」


「それでは早速……質問その一。『ハイベース号は就寝定員四名+一名とのことですが、部屋割というかベッド割はどのような形でお休みしてますか?』とのことですが……」


「はいっ。ベッド割ですね? ええと……ハイベース号には大きく分けて三つのベッドがありまして、『運転席上の子ども用バンクベッド』『セカンドシート部のセミダブルベッド』『後部の常設二段ベッド』があるわけですが……主にわたしが『バンクベッド』で、霧衣きりえちゃんが『二段ベッド』の上で寝ることが多いですね。二段ベッドの下は荷物置きスペースとして使わせて頂くことが多いです。セカンドシートはダイネットのままで、今はテーブル下がナツメちゃんの指定席ですが……お客さんが来たときとかはテーブルを畳んで、ベッドにして使おうと思ってます」


「ちなみに、ラニさんはどちらで? それと二段ベッドの下ではなく、あえて……自社の製品なので言うのもアレですが、狭いバンクベッドを使用する理由があれば、ぜひ」


「っ!! ……えー、っと……ラニちゃんは、その…………わ、わたしと、いっしょに、寝て……ます。……あの子は、その……ちっちゃいので」


「バンクベッドに二人ですか!?」


「えーっと……はい。……縦幅は控えめなんですけど、横幅はそれなりにあるので。……それと、二段ベッドの下を使ってないのはですね、ラニちゃんがわたしと一緒に寝たがってたから、幅のあるバンクベッドを使ってたというのもあるのですが…………うん、言っていいですよね。……霧衣きりえちゃんがですね、寝息がメチャクチャ可愛カワいくてですね」


『わ、わかめ様ぁ!?』


「……はい! そうなんです! 可愛いんですよ! なのですぐ近くで寝てるとですね、とっても、こう……寝顔延々と眺めていたくなってしまうので!!」


『わかめさまぁーー!!?』


「あぁー…………」




 質問者である多治見たじみさんも、会場のお客さんたちも、どうやら納得してくれたようだ。車内から微かに響いた霧衣きりえちゃんのかわいらしい悲鳴が、おれの言葉に説得力を持たせてくれたのではあるまいか。


 コメントの流れも会場の反応も上々だ。やはりハイベース号はとっても使いやすいレイアウトなので、この車の良いところをもっと積極的にアピールしていかなければならない。



 ……よし。この調子でがんばっていこう。

 次の質問バッチコイ!!


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