第331話 【国展催事】これでも販促なんです


※しばらくイベント模様が続きます


――――――――――――――――――――



「だ、誰ですか!? ダイヤの九を止めてる悪い子は!! いったい何処の誰ですか!!」


「わ、わたくしではございませぬ! 信じてください! 若芽様!」


「大丈夫わたしはいつだって霧衣きりえちゃんの味方だから! というわけでせきさん早くダイヤの九出してください! わたしがかわいそうじゃないんですか!?」


「どちらかというと可愛らしいことになってるので、もうしばらく堪能したいなぁと」


「く、くされげどうめ!! ちくしょう!!」


(あっ! ノワおばか!! クライアントさんになんてこと言うの!?)


(だ、だってえ!!)




 東京臨海国際展示場、通称ビッグボックスの東ホール。

 全国規模のキャンピングカー展示即売イベントか開催されているその一角、とあるメーカーのキャンピングカー車内にて……かわいらしいエルフの少女の、切羽詰まった悲痛な声が発せられた。


 ……はい、おれです。ヘィリィこんにちは



「わ、若芽様……申し訳ございませぬ」


「わたしのことは気にしないで霧衣きりえちゃん! ここはわたしに任せて先にいけ! わたしの代わりにヤツを……『三納オートサービス取締役のせきさん』をたおすんだ……!!」


「……っ! 拝命致しました! 関様に恨みはございませぬが、わが主命とあらば」


「ごめんなさい言いすぎました! そんな殺意高めなくていいですから……ふつうでいいから……」


「えっ……は、はいっ!」


「ははは……さすがに背筋が冷えました」



『忠犬きりえちゃんすっき』『よわちゃんはどおしてそんなにざんねんなの』『一瞬目がマジだった』『ここまで社名連呼されたらさすがに覚えそうやな……』『これはいい宣伝ですわ』『弊社……弊社もわかめちゃんに案件発注しましょう弊社……』『ほんきのきりえちゃんむねきゅん』『ワイも社名と名前連呼されたいンゴ……』




 実は初めてとなる、外部の方を巻き込んでの『のわめでぃあ』生配信……今回のあわれな犠牲者は、『三納オ(中略)社のせきさん』だ。


 現在おれたちがいったい何をやっているのかというと――まぁおわかりのように『七ならべ』なわけだが――われらがハイベース号の兄弟車種である展示車両、そのキャビンスペース内の広々テーブルにて、この『ひろびろ』感をアピールするためのデモンストレーションを行っている……というわけだ。

 なおこの様子は三納オ(略)社のスタッフによって撮影され、モリアキとラニチャンによる音声レベル調整などを経て、車外のモニターおよび『のわめでぃあ』にて中継配信されているかたちとなる。完全に催し物だな。


 予想外に伸びてしまった商談待機列だったが……おれと霧衣きりえちゃんと関さんとの白熱のカードバトル中継により、今のところ目立った不平不満は出ていない。

 強いて言えば、この兄弟車種『グランベース号』の中を見たいというお声が高まってきているらしいので……この試合が終わったら、とりあえずエキシビションマッチは一旦お開きになりそうだ。だからこそ勝ちたい。



「だいやの、いち! で、ございまする!」


「えらいぞ霧衣きりえちゃん! これでわたしのダイヤたちが…………誰ですか!! ダイヤキング止めてるのは!? どうせせきさんでしょうわたし知ってるんですからね!! 良いんですか!? 御社がそのつもりなら『三納オートサービスさんは取締役が平気な顔してしちハラするような会社です』って吹聴しますよ!!」


「もうされちゃいましたね……じゃあ容赦する必要ありませんよね。いやー残念です」


「アッ、まって、待ってください、まっ、ちがっ、ちがうんです、これわちがうんです」



『取締役がんばれ』『ざこわかめ……』『取締役gj』『関さんその調子』『いいぞ関さん』『がんばれ関さん』『わかめちゃんがんばって(棒』『きりえちゃんいいこ』『クソザコ局長たすかる』『関さんがんばれ』



 謎の関さん人気によっておれの地位が脅かされる中……おれを大きく突き放して、関さんと霧衣きりえちゃんとの首位争いが繰り広げられる。

 関さんがダイヤの九を出したことで、おれもやっとダイヤの十、ジャッククイーンを出せるようになったのだが……残念、時既に時間切れ。




「アガりです。対局有難うございました」


「わ、わうぅ……」


「ちくしょおおおおおバカやろおおお!!」


(ノワ口調! クライアントさんだってば!)



 決して、クライアントさんである三納オ社の関さんに忖度したとかいうわけでもなく……今回ばかりは割と普通に負けた。七ならべ、侮りがたい。

 車内見学を希望するお客さんのため、いそいそとカードを集めて撤収の準備を整えるおれたちだったが……カメラの死角で関さんにアプローチを掛けてみたところ、なんとオッケーが返ってきた。……よって。




せきさん、勝ち逃げはゆるしませんからね。ちょっと『ハイベース』までツラお貸しいただけますでしょうか?」


「構いませんよ。受けて立ちましょう」


「よ、余裕ですね!? でも『ハイベース号』はわたしたちのホームグラウンドですので、今度ははいきませんから!」


「私も社員の期待を背負ってますので。社員と……視聴者さんのためにも、若芽さんには是非とも悔しがって戴かないと」


「な、なんてひどい会社だ! ちくしょうめ!」



『取締役wwwwww』『関さんよくわかっとるやないか!!』『依頼人を畜生呼ばわり草』『社員おれら説』『いいぞ取締役もっとやれ』『これは株価上昇待ったなしですわ』『いったい何をやってるんだこの幼女は!!』『クライアントを『ひどい会社』呼ばわりwww』『関さんも暇じゃなかろうに……』『い、一応車内スペースのアピールにはなってるから……』



 おれたちが退出し一般公開が再開される『グランベース号』から、こちらは一般には公開されない『ハイベース号』へ……ぞろぞろと移動する最中流し見た限りでは、配信のほうのコメントは良い感じに想定通りだった。

 また現地のお客さん……見学および商談待ちの人々からも、『取締役がんばれ』『関さんがんばれ』『きりえちゃんがんばれ』の声援を多数いただいた。わかめちゃんは?


 三納オートサービスさんが良い感じに受け入れられているようで、ひと安心だ。おれのこころはしょんぼりだけど。



 というわけで、即売会開場からの『のわめでぃあ』配信。

 おれは商品アピールに、質疑応答に、車内でのトランプゲームに、取締役をお迎えしてのゲームにと……ぶっ通しであれやこれやを披露し続けているのだが。


 関さんとのリベンジマッチ、ということで引きこもったわけだけど……そろそろおなかがすいてきましたので。

 リベンジマッチもほんきでやるけど、次の演目の準備も進めていこうとおもう。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る