第314話 【最終関門】幻想デイドリーム



「行きなさい! 勇者わたし!」


「行きますよ! 魔法使いわたし!」


「【加速付与アドアルケート】! 【防壁グランツァ追従アルス】! 前は任せた後ろは任せろ!」


「ッシャやったらァ! 【戦闘技能封印解錠アビリティアンロック】【勝つまで負けないファイトオアフライト】! 来いッ!!」


≪――縺昴s縺ェ縺ョ繧「繝ェ縺九h!!!≫



 魔法使いわたしによる多重強化バフ魔法を受け、勇者わたしが剣を握り勢いよく突っ込む。

 中遠距離からの投射魔法による面制圧を得意とする魔法使いわたしとは異なり、勇者わたしが得意とするのは高速での中近距離戦闘だ。


 剣も鎧も……本職の『勇者』の持つ逸品には遠く及ばないが、魔法使いわたし強化バフ勇者わたしの自己強化バフをも上乗せして、魔力値で殴って押しきる男らしい作戦だ。


 ……男らしい作戦。いい言葉だ!




≪――2蟇セ1縺ッ蜊第?ッ縺?縺ィ諤昴≧!!!!≫


「っ、ぶねぇな! お返しだ!!」


「追撃します! 【氷槍アイザーフ集束フォルコス】!」


≪――繝槭ず縺壹k縺?→諤昴≧!!!!!!≫



 基礎攻撃力に大幅な強化バフが施された勇者わたしの斬撃が『龍』の右前肢を大きく斬り裂き、魔法使いわたしの追撃魔法が左翼の翼膜をずたずたに切り刻む。


 翼に直撃させたことで、市中に墜落してしまいやしないかと一瞬『ヒヤッ』としたのだが……どうやら翼そのもので稼いだ揚力だけではなく、飛行のための魔法を用いているらしい。

 直ちに墜落するわけではないが、しかしそれでも少なからず悪影響は生じるようで、空中での姿勢制御能力を大きく欠いた『龍』はよたよたと力なく……ふらつくように飛行を続けている。



 やはり……HBD体力と防御力に振りまくった巨体は、そう簡単に落ちてくれない。もちろんこのペースで波状攻撃を加え続ければ落とせるだろうが、『落とす』とはいっても地表に落とすのは宜しくない。空中で消滅させる必要がある。


 奴が墜落する前に、迅速に息の根を止めて霧散させるためには……定番でいえば、やはり急所を狙うべきだろう。

 生物を模している以上、その急所たる選択肢はそう多くはない。定番としては体液を全身に循環させる『心臓』か、身体制御と思考を統括する『主脳』といったところか。

 一度胸郭を吹き飛ばしても戦闘続行を試みたことから、この二つの選択肢のなかでは『主脳』……こちらが急所である可能性が高い。というか普通に考えて、頭を消し飛ばされて生きていられるハズがない。


 ……試験テストとか言っていたくらいだし、さすがに不死身とかじゃないだろう。ないよな?



「……というわけで! 決めるぞ魔法使いわたし!」


「了解だ勇者わたし! 足止めは任せろ!」



 相手の考えていること・取ってほしい行動が、まるで手に取るようにわかる。こういうのを阿吽の呼吸っていうのだろうか。……ちがうか。

 とりあえず勇者わたしの要請に応えるべく、魔法使いわたしはわたしの持てる力を思う存分に振るい……役割を全うする。




「【基点法陣イーサフロー】【多重設置メルフシュタルトズィクス】【氷鎖アイズィーク拘束ツァルカル】!」



 ボロボロの翼を懸命に羽ばたかせ、よたよたと飛行を続ける『龍』の周囲……前後左右上下の六方向。

 魔法使いわたしの生み出した術式発動基点【基点法陣イーサフロー】がそれぞれ魔法陣の光を発し、縛鎖状の尾を引く氷の矢が一斉に放たれる。



≪――縺昴l繝上Γ縺ァ縺励g?!!!!!!≫


「残ッ、念! 捕まえましたよぉ……!!」



 一見すると細く、頼りなくも見えた氷の矢は……標的たる『龍』に直撃するや否や、尾を引いた縛鎖もろとも、六本それぞれが極太の氷柱へと変貌を遂げる。


 斯くして……この世ならざる生物を模した、禍々しい『龍』の魔物マモノは。

 全方向から突き立った氷柱によって空中にはりつけにされた憐れな獲物へと、ほんのわずか一瞬の間に変貌を遂げた。



 座標を固定された【基点法陣イーサフロー】と、そこから伸びる氷柱の杭によって移動を封じられ。

 極低温による表面組織の凍結によって、身じろぎさえも封じられてしまえば。


 駆け出しの勇者わたしであっても……仕留めることは容易い。




「頭ですよ! 頼みます、勇者わたし!」


「任せろ! 消し飛べ……【滅却レクイエスク】!!」




 高濃度の魔力を纏わせた剣による攻撃によって、傷口を中心に直接滅却する。

 斬撃の瞬間に刀身より流し込まれた、超超高密度の光属性魔力の奔流は……標的の魔力回路をずたずたに侵食し、ほんの数瞬の後に臨界を起こし炸裂する。



 攻性バフを幾重にも重ねた直接攻撃で防御を貫き、対象を内から崩壊させる魔力を流し込む魔法剣技……【滅却レクイエスク】。


 眩い光と炸裂音と衝撃波を撒き散らす爆発が収まった後には、そこに『龍』が存在していた形跡すら残らず。




 魔法使いわたしの六つの【基点法陣イーサフロー】のみが、悠然と佇むばかりだった。










「…………おっけー。じゃあ後は頼むわ、魔法使いわたし


「おつかれ。ゆっくり休めよ、勇者わたし



 なんとかを越えることなく――そしてそれを気取られることなく――シズちゃんいわく『最後の試験』を乗り切った

 役目を終えた『勇者』の身体は……その身に纏う武具ごと微細な粒子へとほどけていき、きらきらとまたたきながら消えていく。 


 もともとこの世界での身体を持たず、おれの魔力を無理矢理固めて人の形を取らせたものに過ぎない。

 それを維持するためには膨大な魔力を消費し続けなければならず、オマケに思考を分割し続けて遠隔操作の魔法を使い続けた上で目まぐるしい高密度戦闘をし続けるなんて……ラニに言わせれば『正気の沙汰とは思えない』ほどの無茶だったらしい。やってしまったが。

 参考にしたテグリさんの『分身の術』でさえ、ここまでの完全独立動作は出来ていなかった(はずだ)もんな。無理もないか。



 実際『非常識なほど』と評されたはずのおれの魔力も、今となってはさすがに底をつきかけている。

 二人体制での戦闘可能時間は、ざっくり三分が限度。余力のあるうちに落ち着いて術式を解除しなければ、どうなるか分からない。人形は魔力暴走を起こして大爆発することだってあり得るし、思考を分割されたおれは人格が破綻する可能性だって無くはない。


 そんなデメリット……というか危険性を大いに孕んだ術式。自らの分身オルター・エゴを創造する、超熟練の魔法使いだからこそ(時間制限付きで)扱えた……【創造録ゲネシス】。

 正直普通にメチャクチャ疲れるので……できることなら、もう二度と使いたくない。




「さて……試験とやらは、これでおしまい?」


「…………うん。……充分」


「………………そう」


「…………戦闘……データは、取れた。……いい経験……なった。よかったね」


「良くないし。わたしは帰って寝たいし」


「……………なら、だいじょうぶ」


「……なにが?」






「キミは、今まで…………だけ……だから。――【訣別サヨナラ】」


「っ!!?」














 明度の落とされた、シックで大人びた雰囲気の照明。


 磨き上げられおれの姿を写し出す。大理石調の壁。


 どこからともなく聞こえてくる人々の談笑と、控えめで落ち着いたBGM。


 目の前には固く閉ざされ、ヒビ一つ無いサムターンカバーが掛けられた……誰かが出入りした形跡なんて微塵も見られない、非常扉。



(っ、ラニ!! ねぇラニ!?)


(うォわぁぁああ!? なっ、なな……何!? 何でバレたの!?)


(!! よかった、声聞こえ………………おい。……バレたって、何?)


(えっ!? えっと、えっと、えっと…………な、なんでもない……よ?)


(………………なるほど? だいたいわかった。やっぱわ)


(ヒッ!?)




 周囲を見回してみても……夜色のドレスに身を包んだ、眠たそうな目付きの少女は見当たらず。

 スマホを取り出し時計を見直しても……時間経過の形跡は、見て取れず。




 しかしそこには……小さな姿に到底見合わぬ、途方もない実力を秘めた【睡眠欲ソルムヌフィス】の使徒から届けられた『指示』が、確かに残され。



 眩暈めまいと確かな倦怠感を感じるほどに、ほどに消耗したおれの魔力が……おれの身に何が起こっていたのかを、如実に物語っていた。



――――――――――――――――――――


ゆめおちです!!ごめんなさい!!!石投げないで!!


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る