第253話 【在宅勤務】その場の勢いで



 今後のチャンネルの展開として期待できそうな要素は、主に『裏庭の開拓』関連と『演奏してみた』関連、そして麻雀やFPS一人称視点STG等の『オンライン対戦ゲーム』系あたりだろうか。

 あぁ……南区の旧拠点からゲーム機も幾つか調達してきたので、『家庭用ゲーム』も使えそうだな。例の輪っかのフィットネスゲームもSNSつぶやいたーで度々触れられているので、こまめに挑戦していかなきゃならないだろう。輪っかリングから逃げるな。



 これらのうちゲーム関係は特に仕込みを必要としない(せいぜい対戦相手との擦り合わせくらいだろう)ので、とりあえず今回はスルー。


 ……というわけで。





~ 動画企画そのさん ~

【環境音動画:小川のせせらぎ】


 以前ラニに見つけてきてもらった動画企画案……定点設置カメラで風景を撮りながら高精度マイクで環境音を録音する、この企画。

 おれが特に何かするというわけでもないので、『動画』というよりかは『環境音』ジャンルのほうが近そうな企画だな。




「……んー、このへんで良いかな」


「おほー! いい雰囲気」


「でしょでしょ。これウチの裏庭なんすよ」


「裏庭……すごいなぁ……」



 おうちからお庭に出て裏手に回って、獣道を下ることおよそ五分ほど。

 そこには……ごつごつした岩と砂とが広がる地面と、そこから生える生命力旺盛な植物、そして冷たくて心地よい水が絶え間なく流れる、小さな沢が通っていた。


 沢に沿って少し歩き、比較的石や岩が少ない場所を探す。するとそう遠くない地点におあつらえ向きの砂地を見つけたので、周辺の環境を改めて検分する。

 斜面も緩やかで道を作りやすく、また切り開いて平地も作りやすそうだ。沢のすぐ近くまで砂地が続いており、繁茂している植物を間引けば、ちょうど良い撮影地点に出来そうだ。水辺でのレジャーも行えそうなので、今後の動画にも活かせそうな気がする。川原キャンプとか。沢だけど。


 ……うん、良いな。決めたここにしよう。

 貸与とはいえ、現在はおれが権利を持っている土地の中だ。あらかじめ鶴城つるぎさんからは『好きに開拓してヨシ』とのお墨付きもいただいているので、問題なく土地をコネコネすることができる。

 敷地内私道を作ったときのように大地魔法を活用すれば、階段や坂道の造成から切土や盛土だって自由自在なのだ。



「……というわけで、ここにしよう。よさげな雰囲気だし……東屋あずまやみたいな休憩小屋とか、ブンブンとか作るのもおもしろそうだね」


「ぶん、ぶん……? まあよくわかんないけど、たのしそうだね。めっちゃ下草わっさわっさしてるけど」


「うん。だからね、とりあえずは……草むしりをしようと思う。このへん一帯、水辺まで。それこそ砂浜みたいにしたい」


「なるほど、いーね! …………今これオフレコなんだろ? ボクも手伝うよ」


「わ~~たすかる~~」



 動画で使うかもしれないので、いちおう手を入れる前の様子を少しだけ撮っていく。Beforeびふぉーって感じだな。

 それさえ撮ったら、あとはカメラの電源を落とす。ここから先は記録されることがないので、存分にあばれることができるのだ。


 ラニが縦横無尽にひらひらと飛び回り、女の子の大事なところを存分にちらちらさせながら光の剣を振り回し、砂地に根を張る下草や低木がばっさばっさと斬り倒されていく。

 みるみるうちに見通しがよくなっていき、おれは地中に残された根っこの掘り起こしに取りかかる。



「んい~~~~」


「なにその奇声。あほっぽいよ?」


「おれも思った。……しょうがないじゃん、りきんだら出ちゃったんだから」


「かわいいね?」


「オッ、オウ……」



 おれの気合いのかけ声と共に、切断された根っこが地上にぽこぽこと吐き出されてくる。

 それらを拾い集めて刈り取った草木と一纏めにして小さく刻み、少し離れたところに穴を掘って埋めておく。

 ……今回はそのまま処理してしまったが、堆肥を作るためのコンポスターなんかを調達しても良いかもしれない。家庭菜園とかやってみてもウケるかもな。



 あとは根っこを掘り起こした穴を埋めて……そんなこんなで、とりあえず砂地のほうは片付いた。生命力を溢れさせていた草木は姿を消し、そこそこの広さの水辺の平地が姿を表したのだ。


 砂地の広さは……四畳半から六畳くらいだろうか。片側は沢に面し、反対側は勾配の急な斜面へと続き、ほかの二辺は岩というか石というか、ごつごつした感じになっている。

 岩石ごつごつエリアも、あくまで地面がごつごつしているだけなので、テーブルやチェアなんかを置く分には(ぐらぐら対策さえすれば)問題ない。何か作業をすることも問題ないだろう。

 ただやっぱり地面はごつごつしているので……シートを敷いて座ったり寝転んだり、あるいはテントを張ったりなんかは向いていない。


 とはいえ……使い方を工夫すれば、けっこう色々なことに使えそうだ。あと単純にめっちゃ心地いい。




「いやぁー…………うん……良いね。……これで水音をずーっと録音してればいいの?」


「うんうん。ノワTR-07X高精度マイク買ったって言ってたじゃん? それを水辺の近くに置いて音を拾って、カメラは三脚に固定して……あとはノワがカメラの前で、のんびり脱力しててもらえば」


「ハンモックで寝ててもいい?」


「いいと思うよ。……あっ、どうせなら設置するところから押さえたほうがウケると思う」


「な、なるほど!」



 カメラの設置予定地点に立ってぐるりと見回し、カメラに映る映像をイメージする。沢はちゃんと見えるのか、流れる水はちゃんと見えるのか、またどのあたりにハンモックを掛ければ良い感じに見えるのか……それらを確かめながら、いろんな要素を鑑みて計画を立てていく。


 ……うん。収録地は大丈夫そうだ。

 必要なハンモックも、先日Apollon.comで調達済みだ。必要なものはすべて揃っているので、やろうと思えばすぐにでも収録を始められる。



「…………どうしよ、撮っちゃう?」


「撮っちゃう? 一時間くらい」


「んー……撮っちゃうか。雨も来ないし」


「撮っちゃっちゃおう。オッケオッケ」




 すこし流動的だが……自分の思ったときに思ったように取り組めるのが、自営業キャスターである自分たちの強みでもあるのだ。


 ……というわけで。

 これより、川原でゆっくり一時間を過ごす作戦を……決行しようと思う。


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