第184話 【共演依頼】大御所ご一行さま


 いったいどこの誰ですかね……ネット通話でのミーティングなんて気が楽だ、とか言ってたあほエルフは。

 まったく。探し出しておしおきしてやる。



 いやまあ、確かに。身支度を整えて旅支度を整えて公共交通機関を乗り継いで遠路はるばる出かけるために丸一日予定を空ける必要が無いというのならば、それは充分に『気が楽』なのかもしれないが。


 だからといって……さすがに、は少々、少しだけ、わずかながら、ジャストアリトルほんのすこし予想外の展開だった。




「改めまして、木乃若芽きのわかめと申します。……あの、本日は……どうぞ宜しくお願いします」


『うわ……くっそかわやん……』


『す、っ……すご…………本物』


『……アバター、では無いのですよ……ね?』




 金曜日の午前十時。招待されたグループ通話へアクセスし、発信されたコールを受けてみたところ……そこでは大御所事務所『にじキャラ』さんに所属する三人のアカウントが待ち構えていた。


 どこか可愛らしい訛りを残す女の子の声と、おどおど感を拭いきれないやや高い声と、落ち着き安心感のある大人の男性の声。

 いったい誰が誰なんだ、と不安になっていたおれだったが……やはり『にじキャラ』さんではネット通話でのミーティングがスタンダードなスタイルになっていたのだろう。参加アカウント名は初見でも判りやすいように、非常に単純な表記がなされていた。


 現在この通話の参加者は、おれこと『のわめでぃあ代表』を含めて四名。

 おれ以外、にじキャラ社の面々は……『村崎うに』『ミルク・イシェル』『マネージャー【八代】』の三名。


 うにさんとマネージャーさんは事前連絡通りだが……もう一人の参加者は正直、びっくりした。





 話はほんのちょっと……二分前に遡る。


 ミーティングの予定時間が近づき、うにさんから勧誘があったチャットルームへ接続し、とりあえず誘われるがまま音声通話を繋ぎ、軽くご挨拶を述べたところで……マネージャーの八代やしろさんから『つかぬことをお伺いしますが……『エルフ』だというのは、事実なのでしょうか?』とめっちゃ下手したてに尋ねられまして。


 想定外だったメンバーの同席にドギマギしていたおれは、『なんならカメラ映しましょうか』と口走ってしまったことに端を発する。



 つまりはまぁ、おれの顔を映した部分に関しては、おれが勝手にやったということになっているのだが……とはいえ既にネット配信で晒している顔であること、また先方からのアプローチに対してこちらも誠意を見せておきたいこと等の理由が浮かんだので、この特徴的極まる容姿を公開することに踏み切ったわけだ。


 ……さすがに彼ら『にじキャラ』社は、ともするとおれ以上に『プロ』の面々だ。コラボ相手の素性を見知らぬ他者に吹聴するような方々ではあるまい。




『ごめんなさい、無理言うて。……改めまして、『にじキャラ』Ⅳ期生の『村崎うに』やよ。……顔は出せんけど、ごめんね?』


「い、いえっ! おれ、ッ…………いえ、おかまいなく。……わたしが勝手に晒しただけですので!」


『あっ、あのっ! 同じく『にじキャラ』所属、Ⅳ期生の『ミルク・イシェル』です! 改めまして、宜しくお願いします!』


『突然のご無礼、改めて失礼致しました。『にじキャラ』Ⅳ期生マネージャー、八代やしろと申します』


「いえ、おかまいなく。もともと公開しちゃってる顔ですので。……ご丁寧に、ありがとうございます」


『あのー、ちなみに『FairyRANIふぇありーらに』ちゃんは……』


「はい。同席して会話も聞いてますけど、顔出し姿出しはNGで。……妖精ですから」


「はいはーい。ボクは神秘の妖精さんだからね! そこんトコよろしく!」


『おおー、よろしくやよー』


『よっ、宜しくお願いします』





 改めましての自己紹介の後、先程よりかは心なしかほんわかしたムードのもと、今回のコラボに関して情報共有が始まった。

 詳しい話を聞くところによると……どうやら今回のそもそもの発案者は、やはり『うにさん』だったらしい。


 彼女が最近ハマっているゲームのプレイ配信を探していたところ、一昨日おれが練習配信していたところを偶然見かけ、そこでまずおれたちのビジュアルと『FairyRANIふぇありーらに』の立ち回りっぷりに興味を抱いたこと。

 そんな中で昨晩、偶然にもおれたちと対戦する形でマッチングし、ラニの活躍とおれの賑やかし(意訳)と仲の良さを気に入ってくれたこと。

 また奇しくもうにさん自身、まだFPSゲームに慣れていない同期生を引率する立場であり、おれを引率しているラニの境遇に感じ入るところがあったらしく、また引率している同期生とおれが丁度釣り合いとれそうな腕前だったため……似た境遇のペアということで『コラボしたら面白そうだ』と考えてくれた。……らしい。



 つまりは、今日のミーティングに参加している『ミルク・イシェル』さんこそが、うにさんが引率しているビギナーであって。

 うにさんとミルクさん、ならびにラニちゃんとおれの四名によるダブルペア育成コラボが、今回の企画の基幹なのだという。





『……というわけで。メイン進行とさせて頂くのは、勝手ながら弊社『UNI'sOnAIRユニゾネア』を予定しております。失礼ながら『のわめでぃあ』様は当日『Deb-CODE音声通話ソフト』内チャットにて諸連絡を交わしつつ、どう音声通話接続の上で、対戦ないし協力プレイをお願いする形となります』


「はい。承知しました。……ええ、異存ありません。こちらは大丈夫です。本放送進行中の弊チャンネル『のわめでぃあ』の扱いに関しては、何かご指定や禁止事項・留意事項はございますか?」


「いえ、こちらからは一切制限を設けません。弊社所属配信者キャスターの個人情報等や連絡チャット等は厳に秘して頂きますが、そちらで別視点として配信を行って頂くことに関しては全く問題ございません」


『あたしも後でラニちゃんの立ち回り見てみたいし、ミルにも見せたげたいし。なので配信アーカイブ残しといてもらえると、あたしも嬉しい。ねっ?』


『は、はいっ。……私からも、ぜひお願いしたいです』


「そういうことなら……よろこんで」




 自前でも配信して良いというのなら、何も問題は無い。要するにおれたちに求められていることは、『Deb-CODE音声通話ソフト』にて通話の上で彼女たちとゲームをプレイする、という一点のみだ。

 特に行動や配信を制限されることも無いのなら、単純にわちゃわちゃ賑やかにゲームを楽しめば良い。


 思っていた以上の好条件に感心しながら、おれたちにとってのデメリットは特に無さそうだという結論に至ったおれは……今回の案件そのもの自体『受けても良いな』と思うまでになっていた。




「ちょっと……いえ、かなり前向きに検討してみたいので……予定スケジュールとかお聞きしても良いですか?」


『……! ありがとうございます!』


『『ありがとう!!』』


「こちらこそ。宜しくお願いします」


「よろしくー!」



 マネージャー八代やしろさんと、うにさんとミルクさん。彼ら彼女らの嬉しそうなリアクションを耳にしながら……おれはコラボの詳細を詰めていった。



 中途半端な存在のおれでも、誰かと一緒に活動することができる。


 これは……とても嬉しい事実だった。




――――――――――――――――――――





にじキャラⅣ期生『Sea'sシーズ』メンバー

(※一部抜粋)


【村崎うに】

ダウナー系少女配信者キャスター。イメージカラーは紫。

配信中は口が悪いが、実際は面倒見が良い。

常識人で何かと苦労人な実質的副リーダー。

得意ジャンルはゲーム全般(特にFPS)。


【ミルク・イシェル】

ミニ系男の娘配信者キャスター。イメージカラーは白。

配信中は尊大な態度を演じさせられている。

観察力と胆力が高く、物真似と歌唱が得意。

ホラゲーも得意。反面アクション系は苦手。


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