第155話 【新装開店】おっ、価格以上
「あっ! ひっで! それおれが信用できないってこと!?」
「信用できないんじゃなくて安心できないんすよ! ほら先輩危なっかしいんで!」
「ひっで! なんでや!? おれ立派な三十代一般成人男性やぞ!?」
「
「きぃぃぃぃ!!」
あの後……店員のお姉さんの協力のもと、しめて台車五台にも及ぶ家具類をセレクトし終え……カードを抱えて戻ってきたラニを伴い、無事にお会計を済ませた。
……レシートの金額が今まで見たことない額になっていたけど、おれは省みない。
お買い上げの商品はお店のご厚意に甘え、店員さん数人がかりで駐車場まで運んでもらい……なんとかモリアキの車に全て押し込むことが出来た。
後部座席を全て倒した積載モード、助手席さえも格納すれば長尺モノにも対応可能。とはいえあの量の荷物を押し込むのはなかなかに骨が折れそうで……なかなかエグい難度の立体テト◯スだった。
店員さん、本当にありがとうございました。
あとは……妙にニコニコしていた店員さんたちが引き上げていったのを確認した上で、車内でラニにひとつひとつ【蔵】へと仕舞ってもらえば良いだけだ。
リアハッチを閉じた車の中、しかも薄暗い地下駐車場とあっては、魔法の【蔵】に仕舞うところを見とがめられる心配も無いだろう。
おかげでさしたる時間もかからずに、車の中を再び空っぽにすることができた。ラニちゃんマジパネェっす。
「それで……どうします? 家電買いに行きます?」
「んー……それ思ったんだけどさぁ……冷蔵庫、入る? この車」
「あー……………………申し訳無いっす」
「いやいやいやいや!! おれ! おれの方こそ申し訳無いだから!!」
今までのような、単身物件での独り暮らしならまだしも……家族が増え、おまけにキッチンも爆発的に広くなった新居では、さすがに冷蔵庫も相応のものを置きたい。
となると、やはり四〇〇から五〇〇リットルサイズ。重量はもとより高さもそれなりになってくるため、モリアキの軽自動車では……冷蔵庫を倒したとしても、収められる保証は無い。
なので……貸し出しトラックが借りれるなら借りたいところだ。幌つきに収まればその中で【蔵】へと収めてもらえば良いし、幌に入らなかったとしても……どうにか人目につかないところまで持っていって、そこで仕舞えば……なんとかなりそうだ。
「でもオレ、普免しか無いっすよ? トラックとか運転したこと無いっすけど……」
「こういうとこの貸し出しトラックって大抵軽トラか
「そうっすけど……詳しいっすね? トラック乗ったことあるんすか?」
「ホムセンの貸し出しトラックに何度か。あとおれ、中型あるし。四トン車乗れるんやぞ」
「普通にすごいと思いますし、ドヤ顔してるとこ悪いんすけど…………『わかめちゃん』じゃ無理っすよ」
「…………!!!!!!」
そ、そんなことは……今はそんなことは、べつにどうでもいいんだ。泣いてないし。
大事なことは……つまりは貸し出しトラック作戦であれば、目的を達成できそうだということ。
そしてそのトラックを借りられるのは、現在通用する免許証を持っているモリアキしか居ないこと。
厳密に言うと、おれの1DKまで運搬を依頼するという手段もあるにはあるんだろうが……それだと時間が掛かってしまうし、部屋まで入ってもらわなきゃならなくなる。
それはそれで面倒だし、お店のひとにも申し訳無い。
とはいえまぁ、要するに『買える』ってことだ。このモールにも家電製品売り場はあったし、都合が良い。
じゃあ行こうか、と言おうとしていたおれだったが……それに『待った』をかけるように、おれの耳がちょっとした異音を捉えた。
「……っっ!! ……も、もも…………申し訳ございませぬ……!!」
「いやいやいや!! おれのほうこそごめんね! そうだね、もう三時過ぎてるもんね! ごめんね! お昼まだだったもんね……!!」
当初の予定(がばがば)では、
モリアキと合流したことで予定が変わり、彼と色々相談しているうちに昼メシのことが頭から抜けていき……しかし控えめな
……ひとつのことにのめり込むと周りが見えなくなる。おれの悪い癖だ。
「じゃあ……家電はオレが調達して来ましょうか? 先輩はキリエちゃんとメシ食ってきて下さいよ」
「ぅえ!? う、うーん……正直助かるんだけど……」
「……いや、白状しますね。……正直オレには、衆目監視の中で先輩達美少女と一緒にいる自信無いっす」
「ンヒッ!? ……あ、あぁ……なるほど。……ごめん」
「いえいえ! 先輩が気にすることじゃ無いですんで! ……なのでまぁ、その間にオレが家電選んでくるんで、キリエちゃん接待したったって下さい。……セレクトをオレに任せて貰えるなら、っすけど」
「……じゃあ、重ね重ね悪いけど……お願い。モリアキ目線で『良いな』って思ったやつ買ってくれて良いから。……ほい、カード。べつに暗証番号くらい知っちゃっても良いよ? おれモリアキのこと信用してるし」
暗証番号を巡ってのひと悶着は、ラニの口から聞いていた。
律儀な彼はおれのクレカの暗証番号を聞こうとせず、それどころか『オレが悪人だったらどうすんすか!』などと言っていたらしいが……だって、彼が悪人じゃないなんてことは、おれはよく知っているし。
それに、クレカはきっちり使用履歴が残るのだ。お店の購入履歴と合わせれば、変な買い物をしたかどうかなんて……いつでも追跡できてしまう。
……そんなお粗末なことを、彼がするはずは無い。
「…………いえ。オレも一応蓄えはあるんで、立て替えときます。クレカ暗証番号を他人に委ねるのは……ヒトとしてヤバイっす」
「そこまで!? で、でもじゃあさっきみたいに……ラニに同行してもらえば」
「いや、後日返してくれりゃ良いっすよ。一応買う前に写真とか送るんで、安心してくださいって。……実際、会計のためだけに白谷さんお借りする方が……先輩達が危なさそうですし」
「なッ!? ど、どういう意味かな!?」
「あー……確かにそうだね。キリちゃんは初めてだろうし……ノワ一人だと、やっぱ不安だよね」
「ひどくない!? おれオトナぞ!?」
ちょっと……彼のことが信じられなくなってしまいそうだ。
ひどい。わたししんじてたのに。よよよ。
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※クレカの暗証番号は他人に教えてはいけません
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