第69話 【参拝計画】そしておれに出来ること





 『ほえー、鶴城つるぎさんっすか?』


 「うんそう。モリアキも一緒にいく?」



 水曜日の朝、現在のお時間は……まだ十時といったところだ。


 作業を手早く終わらせたおれは、現在小休憩のため脱力タイムなのだ。こういうときは大抵PCの通話アプリケーションにて、モリアキとネット越しコミュニケーションの最中である。アプリケーションでコミュニケーション……フフッ。

 白谷さんにお願いされた『パワースポット的なところに行きたい』との要望に応えるべく、手近かつ霊験あらたかな鶴城つるぎ神宮へのお参りを計画。そこへ『どうせ近場に住んでるんだから』と、モリアキも一緒にどうだろうかと誘ってみたというわけだ。


 とうの白谷さん本人は……今現在はテーブルにちょこんと腰掛け、興味深そうにテレビを眺めている。かわいい。




 『あー…………若芽ちゃんとのデートは結構心惹かれるんすけど、何か撮影するとかじゃないんすよね?』


 「そだな、あくまで白谷さんを案内するの優先って感じになると思う。いちおうゴップロカメラ持ってこうかなとは思うけど、特に撮るもん決まってるわけじゃないし。漠然と境内案内動画撮るのも良いかもしれないけどな」


 『なるほど……ウーン申し訳ないっすけど、ちょっと見送らせて貰います。鳥神氏に貰ったデータ吟味したいのと…………まぁ言ってもっか。若芽ちゃんのですね、FAファンア仕込んでまして』


 「マ!? うおおおすごい! 楽しみにしてる!! ……でもどうしたん? いきなり」


 『いやーそれがですね……お料理動画投稿したじゃないっすか』


 「うん。若芽のおはなしクッキングな」


 『それ指摘されたらマジでタイトル変えましょうね? まぁその様子だと先輩気づいてないみたいすけど…………あれね、バズりました』


 「……………………マ?」



 PCで通話アプリケーションを繋いだまま、配信サイトYouScreenにアクセスし管理者ページへとログインする。

 そこにはこれまでに行ったリアルタイム配信のアーカイブ動画(今のところ二本)と、これまでに投稿した動画(今のところ三本)のサムネイルが表示されており…………昨日の午後投稿したばかりの動画『若芽のおはなしクッキング・ファンタジー料理【若鶏の墓】作ってみた』の再生回数が半日そこらで五桁に到達、コメント欄も大にぎわいとなっていた。


 いつもと違うエプロン姿の愛らしいわかめちゃんを褒め称えるコメントももちろんのことながら……彼らの興味の大半は、予想通りというべきか『謎の声』こと白谷さんに向かっているようだ。

 これは……週末のお披露目配信が楽しみだ。



 『ユースクのチャンネルクラスも、あっという間にクォーツ卒業してます。晴れてオブシディアンの仲間入り……出自がちょっと反則的だったとはいえ、僅か一週間足らずでこの速度は圧倒的っすよ』


 「ほ、ほ、ほ、ほ、ほ、ホントだ!! すごい!! 黒バッチだ!! 見てみて白谷さん黒バッチだよ黒バッチ!! おれオブシディアンはじめて!!」


 『先輩……ちゃんとこまめに管理者画面ログインしてます? コメントに全レス返せとは言わないっすけど、SNSつぶやいたーとかキチンと『見てます』アピールした方がいいっすよ?』


 「…………はい……すみません。肝に銘じます」


 『まぁ、そんなわけで。お料理動画で興味持たれて、歌ってみた動画でハートをガッチリ掴んだっぽいすね。良い流れなんで、も一丁起爆剤でも投下できればなって。白谷さんの『お披露目』も迫ってることですし』


 「モリアキ……ごめん。おれちょっと腑抜けてた。気合い入れ直すわ」



 

 おれは自分の不甲斐なさを恥じると共に……おれ以上におれたちのことを考えてくれているモリアキの存在に、改めて『彼が味方で良かった』との思いを新たにした。

 そうだ……本来であれば視聴者からのアクションに対するリアクションを返すのも、配信者ランクアップのアピールを行うのも、配信者本人であるおれが率先して気づき行わなければならないはずだった。



 『いやいやいや、先輩だってべつに遊んでたわけでも怠けてたわけでも無いでしょう。オレだってそれくらい解りますって。実際今さっきだって編集頑張ってくれてたんでしょう?』


 「そうだよモリアキ氏。ノワ昨日は飲まず食わずで深夜まで頑張ってたんだよ。おしっこ我慢しながら」


 「ちょっ!!?」


 『ブフッ…………まぁ、そんなわけで。先輩にしか出来ないことだってあるんすから、その他のことはあんまり気にしないで下さい。そういう所のフォローするためにオレが居るんすから』


 「ボクも早く……マネジ、メント? こなせるようにならないとね。ノワひとりに重責背負せおわせやしないよ」


 「モリアキ……白谷さん…………」



 彼らの力添えは、正直とてもありがたい。

 この身体は動画撮影や配信に関する技量こそ抜きん出ているが、とはいえあくまでも一人の人間でしかないのだ。抱え込めるタスクの量には当然限度があるし、昨晩のように集中して作業していればその他のことがおざなりになってしまう。


 おれにしか出来ないことは……責任もっておれが対処するにしても、おれが見落としがちなことに注意喚起をしてくれる仲間がいるというのは、とても心強い。



 『……ま、そんなわけで。オレは自宅待機してますが、何かあれば力になるんで呼んで下さい。……あ、車出した方がいいっすか?』


 「いや大丈夫。浪鉄ろうてつ使うわ。……いつまでも烏森ママに甘えっぱなしは、ね」


 『そっすか? まぁオレは先輩に頼られて悪い気はしないんで、あんま無理しないで……あと住所バレには気を付けて下さいね。白谷さん、フォローお願いします』


 「……ふむ。ノワのお家がバレないようにすれば良いんだね。わかった、何とかして見せよう」


 「…………ありがとね、二人とも」


 『「エッヘヘ………」』



 とりあえずは取り急ぎ、SNSつぶやいたーでランクアップのご報告と日頃のお礼メッセージを投稿し……お出掛けの準備に取りかかる。

 思えば保護者モリアキ無しで初となるお出掛けだが……以前の引っ込み思案なおれとは違うのだ。伊養町での撮影およびJK二人との交流を経て、おれは精神的に逞しくなった。きっと大丈夫だろう。


 照れたようにはにかみつつも、どこかそわそわした様子の白谷さんを微笑ましく思いながら……おれはモリアキに『いってくるね』と残し、音声通話を切断した。


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