第55話 【写真撮影】馬子にも衣装ってやつ
あれよあれよと衣装部屋に通され、何点かの衣装(というか子ども用の冬物衣料)を手渡されたおれは、男性二人と別れ更衣スペースでもそもそと着替えを行っていた。
タートルネックのモコモコした白のセーターと、淡いベージュのカーディガン。スカートは膝丈で、色は
なるほど……さすが数多くの女の子を相手してきた(※語弊あり)だけあって、
緑色という奇特なおれの髪色を鑑みて、色が真正面からぶつかり合わないように相性の良い色系統で纏められている。
加えて、全体的に暖かいのがありがたい。館内は空調が効いているとはいえ、
……と、あまりのんびりしてもいられない。三人を待たせるわけにもいかないだろう。
おれが服を脱ぐところまで一緒にいた白谷さんは、『お目当てのシーンは堪能したから』『楽しみは取っておきたいから』とか何とか言ってモリアキ達の方に飛んでいってしまった。
楽しみはまあ……コーデの仕上がりって解るけど、お目当てのシーンって何のことやろ。堪能って……はて。
まぁ細かいことはどうでもいい。仕上げに栗色のキャスケット帽をちょこんと頭に乗せ、最近少しずつ履き慣れてきているレザーブーツを履いて、おれは更衣室を後にした。
「(おぉ~~~~)」
「……何なんですか二人し……こほん」
「やっぱ可愛いな。思ってた以上に可愛い。……ぶっちぎりだ」
「そ、それは……どうも?」
モリアキの紹介で、彼の知人が勤めるフォトスタジオに拐っ……連れて来て貰ったところ……どうやらカメラマンを務めてくれるらしい
そのことを知ったときに思わずモリアキに視線を飛ばしたら、どうやら彼も知らなかったらしい。彼にしては珍しく驚いた顔で、おれに向けて首を横に振っていたっけ。
しかし……鳥神さんはフォトスタジオの留守番を任されているだけあって、なんでも一通りこなせる万能選手のようだ。
撮影や編集は当然のこととして、衣装や小物のセッティングやコーディネートまでやってのけるとは。出来る男、って感じで非常にかっこいい。神の名は伊達じゃないってことか。ちがうか。
それにしても……
「よしじゃあ早速だけど、何枚か撮ってみっか」
「ヨッシャ
「何があなたをそこまで駆り立てるんですか!?」
「若芽ちゃんの可愛さを世に知らしめるためっすから!!」
「そういうことならまぁ任せとけ。……つっても素材が…………あぁ、悪い。……本人がもう既に…………コレだからなぁ」
「そうなんすよね。そこを更にコレする感じで」
「何の話をしてるんですか!? コレって何!?」
不安でしかないおれの……
しかしこの場においてはわたし自身に自由などあるハズもなく……幸か不幸か『若芽ちゃん』を知っている第三者の手前、
そうだ……思い出せ。どうせ最初からわたしに選択肢なんて無いのだ。
ただ流されるがまま、プロに全てを任せれば良いだけなのだ。
「じゃあそこの幕の前に立って……前の画面見えるかな? そこに女の子の写真が映るから、とりあえずはその真似してくれれば良いから」
「わかりました。……お手本、みたいな感じですか?」
「そそそそ。まぁお手本ってか……参考かな? そんなに難しくないし、あくまで参考だから。正確さを求めてるワケじゃないし、なんだったら写真を参考にオリジナルのポーズでも良いよ」
「そこまで出来る自信は無いですが……! えっと……まぁ、宜しくお願いします」
「はい、宜しくね。まぁ気楽に行こう」
人当たりの良さそうな鳥神さんの笑みを受け、緊張がスーっと消えていくのを感じる。
顔を出した放送局局長の意地がそうさせているのか、はたまた鳥神さんに……そういう緊張をほぐす何かがあるのか。
恐らくは前者だが……鳥神さんと言葉を交わすうちに、気持ちがどんどんオープンになっていくような感じを受けたのも、また事実。
今日のお昼を一緒したサキちゃん(仮名)メグちゃん(仮名)もそうなのだが……モリアキや白谷さん以外の人と会って話をするのも、思っていたほど悪くはないと気づいた。
そのことに気づかせてくれたことは、ありがたいと思うんだけど。
果たして……この撮影はどれくらい続くんだろうか。
まぁ……こうなったらとことんやってやりますよ。ポーズ決めるのもだんだん楽しくなってきたし。
……えっ、チェンジ?
何……あぁ、別の衣装に着替えてこいってことね。了解です、わかりました。
つぎの衣装は……えっと、テーブルの上?
あ、はい。わかりました。じゃあ更衣室いってきますね。
おや、どうやら白谷さんも付いてきてくれるらしい。面倒見が良い子だ、ありがたい。
さーて。つぎのコーデはどんなんだろうな!
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