間話【後日談と休日〜武器屋へ行ってみよう!〜】


 色々な出来事が起きた昇級クエストをクリアした次の日。

 俺たちは朝から武器は持たずに、4人で外へ出掛けていた。


 まずは昨日、冒険者ギルドにエスタリたちと戻り、昇級クエストの途中どんな事が起きたのかを受け付けのお姉さんに伝え終わったところから簡単に説明しておく。


 まず、俺たちは等級を上がる事が出来たのかと言うと――

 無事、下級上位に昇級する事が出来た。


 更に、途中で戦いに参戦してきたエスタリたちも、特別に昇級する事になったらしく、「これで中級上位だ!上級までもう少しだぜ!!」


 エスタリはそうギルド内ではしゃいでいた。

 って事はアイツ、元々中級下位くらいだったって事だよな?

 通りでコンビネーションが良かった訳だぜ。


 しかし、その後なんでそんなにはしゃぐのかよく分からなかった俺は、エスタリになぜそこまで喜ぶのかを尋ねた。


 だって依頼の紙を読んでいると分かって来るのだが、中級の下位と上位ではほぼ討伐出来るモンスターが同じだからだ。


 確かに等級が上がった。という自己満足的なところもあるんだろうが(あいつ等級とかめっちゃ気にしてそうだし)


 だが、本当の理由はそんな事では無く、なんでも中央大陸に行くには「等級中級上位以上。」というのが絶対条件らしく、エスタリ含むパーティーの全員、その中央大陸に行くのが夢だったからだそうだ。


 それを聞いて思ったんだが……等級が中級上位以上しか行けない中央大陸って――一体どんな魔境なんだろうな。


 ――っと、少々話がズレたが、その後俺たちはオーガに依頼の途中に出会ったという事と、そのオーガを討伐したというふたつで、本来の報酬に上乗せで、ひとりづつに銀貨5枚を貰ったし、色々ハプニングもあって半分トラウマな依頼だったが――結果的にウハウハって訳だ。


 それで、「今日は疲れたでしょうから、明日は依頼を受けずにお休み下さい」と、受け付けのお姉さんに言われた事もあり、今は町にある武器屋に昨日貰ったお金を握り締めて歩いている。


「それにしても――昨日した怪我はなかなかに痛かったわ。」

「いや、本当に無事で良かったよ〜」


 頭に包帯をぐるぐる巻きにしたみさとが、ため息混じりにそうぼやく。


「まぁこの程度なら依頼に影響は出なさそうね。」

「ほんと、良かったぜ。」


 女三人組が仲良く話しているそんな光景に、俺は少し違和感を感じていた。

 いや、確かに頭を包帯でぐるぐる巻きにしているのに依頼に影響が出ないという時点で違和感ありまくりなんだが――それだけでは無い。


「……」

「?どうしたのとうま?さっきから難しそうな顔で私たちの事見て。」

「あ、あぁ!ちょっとな。」


 持ったえぶらずに言え、そう言っているみたいに、みさとが「なによ〜?」そう聞いてくる。

 別に言わずに隠す必要も無いので、俺は今思っていた事をそのまま口にした。


「いや、なんかこの世界でもこんな感じなんだなって。」

「どういうこと?」


 腕を組むと不思議そうに首を傾げるみさと。それに続くようにくるみとちなつも俺の顔を見てくる。


「いや、だってよ?この世界は剣と魔法の世界だぜ?みさとが頭に負った怪我も、一瞬で無くせるんじゃないかって思ってたからよ。」


 頭に包帯を巻いて自然治癒を待つ。そんなのは、俺の頭の中での異世界では無かった。

 しかし、そんなセリフを聞いた3人は、大爆笑した。


 な……!?い、今なんか俺変なこと言ったか?


「いや……とうま?そんな神様みたいなこと、いくらなんでも出来ないでしょ!」

「そうだぜ、確かに治癒のポーションや、ヒール的な魔法があれば別かもしれないけどよ。」

「なるほど……」


 確かに、俺は今まで異世界を良いものとして見過ぎていたのかも知れないな。

 2人が放ったセリフに、気づけば納得している俺であった。


 だが――確かに治癒のポーションの様なものがあるのなら持っておいて損は無いだろう。

 それもついでに、武器屋に置いてあるのなら見るとするかね。


 ---


 そこから少し歩くと、すぐに武器屋が見えてきた。

 実はこの町の武器屋は冒険者ギルドのすぐ近くにある為、ウェーナの家から冒険者ギルドに行くのと時間はほとんど同じなのだ。


「ここか」「ここみたいね」「だな」「うん」


 俺たちは武器屋の入り口の前で立ち止まる。

 正面から見たところあまり大きそうな建物では無く、ここが酒場と言われれば信じてしまいそうだった。


 まぁだが、俺たちがこうしている間にも一組のパーティーが武器を背負って出てきたくらいだからきっとここであっているのだろう。


「よし、じゃあ入るか。」俺のそのセリフに3人がうなずいた事を確認した俺は扉に近づくとそれを引き、中へと入った。


 中に入るとやはり店内はあまり大きく無く、扉のすぐ正面にあるカウンターに店長であろうムキムキの男(というか店員が1人しか居ないから店長もクソも無いかもしれんが)が、たっており、背後の壁に飾ってある剣を布で拭いていた。


 そして左側には上に続く階段がある。

 どうやら店は二階建てらしいな。

 そんな事を考えながら店内を見回していると、俺たちの顔を見た店長の男が話しかけてきた。


「いらっしゃい!――って、あんたら見ない顔だな。」

「あぁ、俺たちは最近冒険者を始めた初心者なんだ。」


 いきなり馴れ馴れしい態度で話しかけてきた店長に、俺も馴れ馴れしく返す。

 

 普通最初は「初めまして」なんて言うのかもしれないが、相手がそうしなかったらこっちもそれに合わせる。

 それもまた礼儀なんじゃねぇのか、俺はそう思う。


「ん?でも初心者にしちゃあ結構持ってそうだな?」

「あ、あぁ!気づいたか。」


 店長は俺の放った「初心者」という言葉を聞くとすぐに、腕を組んでズボンのポケットを見てくる。

 そう、そこに俺は昨日の件で沢山もらったお金を入れていたのだ。


「まさか――いや、絶対なんかあったよな?」

「まぁな。」

「教えてくれよ。」

「あぁ、良いぜ。」


 ってかこいつ昨日の事知らないのか?

 俺はそう思ったが、そう口には出さずに、昨日起きた事を説明する事にした。

 別に隠す必要も無いしな、どうせもう色んなところに広まってるんだろうし。


 昨日の夜、俺たちはオーガ討伐の話をエスタリたちと冒険者ギルドでしていたのだが、その際に色んな冒険者たちが話に割り込んできた。

 

 きっと俺たちみたいな名前も知らない新参者がオーガ討伐に参加していたなんて、普通に言われても絶対に信じられない様な事らしいからな。


 そして、この店長にも他の冒険者にもしたような説明をし終わると、同じように酷く驚いた。


「お前らマジか……下級でオーガ討伐なんてな。」

「今までこういう事は無かったのか?」

「無かったも何も、下級の奴らがオーガと戦う事自体ねぇな」

「そうなのか?普通に依頼を受けていればどこかで出会いそうなもんだが」


 というか俺たちはそれで複数回出会っているんだが。

 しかし、そんな問いかけに対して店長は「仮にアンタらがそうなら、それは普通じゃねぇ、異常だ。」真剣な表情でそう言って来た。


 ま、知ってたけどな。だってみんな俺たちみたいにバンバンオーガみたいなモンスターと出会いまくってたら、今頃冒険者なんて仕事をしてるヤツらはほとんど居ないだろうからな。

 要するに、俺たちが究極に運が悪かったって訳。


 するとそこで「話すのは良いけど、そろそろ装備を見て回りましょ」横に立って無言で俺と店長のやり取りを見ていたみさとが、そう耳打ちをしてきた。


 あぁ、そうだったそうだった。

 俺ってついつい話を別の方向に持って行ったり広げる癖があるんだよな。これもヒキニート時代の時に喋らなかったから、誰かと話すのが嬉しくて無意識にしてしまっているのだろうか。


「すまん、俺たちは今日ここにどんな物が売ってるのかを見に来たんだ。」

「あぁ、だよな。ゆっくり見てってくれ、二階にはポーション系が売ってるからよ。」

「ポーション……なるほど、あとから見てみる。」


 やっぱりこの世界にもポーションはあるんだな。


「だけどとりあえずは――」


 しかし、今回ポーションはついでであって、俺たちが買いに来たのは武器なのだ。


「その盾、いくらくらいするんだ?」

「ん?あぁ、こいつか。これは銀貨3枚ってところだな。」


 俺は壁に飾ってあった、鉄で縁取られたよく漫画などで見る様な盾を指さす。

 なるほど、銀貨3枚か……これくらいなら買っても良いかもな。


 なぜ剣では無く盾なんだという意見もあるかも知れないが、剣はテオさんから貰ったのがあるし、何より俺はこの4人の中だとトップクラスに弱い。


 ヒキニート時代と比べたらこの一週間弱で随分動ける様になったとは思うが、それでも元々身体能力が低い俺に、身体を守る盾は必須なのだ。


「よし――その盾買ったぁ!!」

「え!?本気なの!?」「マジか!」「男らしい買い方するね!」

「お!よし!じゃあ銀貨3枚出してくれ。」

「――あいよ」


 俺はポケットから銀貨を3枚取り出し、それをカウンターに置く。

 すると店長は壁から盾を取り、それを渡した。


「おぉ……なかなか重いな。」

「ま、鉄が結構使われてるからな。すぐに慣れる。」


 こうやって実際に手に取ると、大きさもなかなかで安心感は凄いが――実戦で使えるようになるには少々トレーニングが必要そうだ。


「――で、お前らは何か買わないのか?」

「えぇ、さっきから武器の下に書かれた値段を見てるけど、全部結構高いしね。買うのはもう少し後にするわ。」

「私もそうするぜ。理由はみさとと同じだ。」

「私も!貰った杖があるもん!」

「なら、無理に買う必要はねぇな。」


 じゃあ、後は二階を少し見るとしますか。


 ---


 その後、二階を見てくる事を店長に伝えた俺たちは、階段を登って上へと上がった。

 

 なるほど、二階も一階の造りとほとんど一緒だが、唯一の違うところは、先程店長が居たカウンターの様な物は無く、代わりに机が並べられて、その上にポーションが置かれているところだな。


 俺はポーションが置いてある机に近づくと、値段表のところに書かれている値段と、ポーションの名前を読む。


「ヒール」値段:銀貨1枚

「マジック」値段:銅貨5枚

「アンチドーテ」値段:銀貨1枚


 この店に売られているポーションは、この3つだった。

 それぞれのポーションの効果は、ファンタジーラノベを読んでいた俺からすれば大体想像が付くが、ヒールは回復でマジックは魔力回復、アンチドーテは毒消しと言った所だろう。


 やはり回復系は値段が少し張るんだな。

 まぁ傷を治すんだから高いのは当然なんだろうが、

 それでもこのポーションを3つ買うと先程の盾と同じ値段になると思うと――なかなかの物だ。


「とりあえず、みさとの怪我が治るかも確かめたいし、ヒールを1本買っとくか。」

「そうね、私もこの怪我があると動きづらいし」


 だろうな。だって頭にぐるぐる巻きで巻かれた包帯が垂れてきて邪魔そうだもん。


「よし、じゃあこれを持って一階に行くか」

「そうね。」

「思っていたより色々売ってたな。」

「だな。」


 今ちなつが言った様に、この世界の武器屋というのは色々な物が売っていた。


 ---


 その後、俺たちは支払いを済ませ、ウェーナの家に帰った。

 この世界に来て初めての休日は、こんな感じで終わるのだった。(ちなみに買ったポーションをみさとの傷口に使うと、綺麗さっぱりとまではいかなかったが、包帯無しでも動けるくらいには回復したぜ。)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る