第26話
その5
「和雄様、お早うございます。訓練のお時間です。」
何だかな~、久しぶりに聞くモーニングコールだけど、アズミの奴、これを真面目に言ってるのかなあ~。アズミのジョークのセンスはどうも良く解らん。
以前アジトでやっていた、いつも通りの訓練のメニューをこなすと、朝食をとってからオーガを探しに行く。
いつも通りカラスを飛ばして周辺を探ってもらう。
「どうするかなあ。」
「ん、なあに?」
「いや、カラスの事、町に行っても上空からの偵察が必要なことが有るだろ、でも、カラスを身近に置いて置くのはどう言うものかと思って。」
「ペットとか、使い魔とか、ちょっとこの世界の様子はまだわからないからね。もうちょっと様子を見てからでいいんじゃない?」
「とりあえず必要な時だけ呼び出せばいいか…。」
多少時間はかかったが、無事オーガが見つかって、戦いやすい広場まで先回する。
やはり空からの視線は必要だ。
見つかったオーガは1匹だけ、三年間見つけ次第駆除していたのが祟ったのだろうか。最近はオーガの数が減ってしまって、なかなか見つからない。
広場にオーガが入ってきたので、こちらから仕掛けていく。ちなみに、こちらから仕掛けても、オーガが切りかかるのを待っても、やる事はほとんど変わらない。
オーガが切り掛かってくる時は当然だが、こちらから飛び込んで行く時も、こちらが刀を振る前にオーガの間合いに入るので、俺より先にオーガが剣を振ることになる。
どちらが仕掛けるにせよ、オーガが先に剣を振るので、オーガの太刀筋を見て、それに応じて対応しなければならないのは変わらないのだ。
今回のオーガはほぼ上段真っ向からの切り下しだった。剣筋を避け、回り込みながら間合いを詰められるので、オーガの剣をはじく必要がなく、このパターンが一番楽に対処できる。
足さばき二寸五分の陰の踏み込みを、思い切り大きく踏み込んで、体を半身にして、さらに刀を片手で使うと、一メートル以上間合いが伸びる。
オーガの篭手を狙うには十分となる。
空を切ったオーガの篭手を切り飛ばして、一瞬硬直したところをさらに踏み込んで、今度は足首を切り飛ばす。
あとは地面に倒れたオーガの首を狙う事になるが、オーガの中には残った片手で剣を振り回す奴もいて、そういう時はもうひと手間かけて残りの腕も切る事になる。
三年も同じ事をやっていると、すっかり手順が様式化してしまって、それが魔物狩りの長所でもあり、短所にもなる。確実性は増すが、やる事が硬直化してしまって、柔軟性が無くなる。
この付近の魔物の数が減ってきたので、明日はアジトで大人しく筋トレや剣術の練習でもすることにする。さっさと町に戻りたかったが、魔石を取りに戻ったはずの人間が街中でうろうろしているのが見つかったら、まずいだろう。
ほんらいカナの町とアジトとの距離は徒歩で五日ほどかかる。往復で十日だ。それでは面倒すぎるので往復で三日と言う事にしてしまったが、この先親しい人が出来た時、ボロが出てしまうかもしれない。
どこかカナの町から一日か、一日半ぐらいの所にそれらしい場所を探しておく必要が有るかもしれない。
人を騙して陥れるつもりは無いのだが、生きているとどうも嘘が多くなってしまう。
困ったことだ。
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