引きこもり科学者の異世界苦闘記
どんべ
第1話 序章
「バカが!ついにやっちまいやがった!」隣国の独裁者が某大国との軍拡チキンレースの果てに、いきづまって苦し紛れに、大国の同盟国である日本に核をおとした。
まさかとは思いつつも、以前からその恐れがあるとマスコミが騒いでいたので、空襲警報が鳴り始めると、慌てて地下鉄の通路にもぐりこんだが、階段半分ぐらい降りたところで意識ごと吹き飛ばされて、再び意識がもとった時にはボロクズになっていた。
とにかくグチャグチャになりながら研究室に這いずり込んで、「生まれ変わって魔王になってやる!!」と唇をかみしめながら異世界への転送マシンのスイッチを押した。それが前世における私し山口和雄の最後の記憶である。
異世界転送などと言うと「厨二病!!」の怒声が聞こえそうである。さらに口の悪い奴は「爺のくせに!!」と続けるであろう。だがあえて言う、私は科学者である。それも天才的と形容されるべき大科学者である。
だいたい我が家の家系は科学者であった。まあ、祖父は俗に言う下町のエジソン的な存在で、心優しい人からは生暖かい目で、その他大勢、とくに学界からはエセ科学者、詐欺師と白い目で見られていたが。
しかし、親父は本物だった。もっとも、祖父が学界から白眼視されていた影響で、親父も学会から白い目で見られていたし、親父自身も人間嫌いの引きこもりだったので世間の評判はよろしくない。
だが、親父が構築したコンピューターの理論は秀逸で、何世代かにわたって作り上げたコンピューターは超の字が5~6個はつきそうなスーパーコンピューターであった。
ガキのころの俺はそのスパコンをオモチャにしていたわけで、スパコンで厨二病ゲームにはまっていたガキは全地球規模で探しても俺ぐらいなはずだ。
今ではさすがにもう夢中にはなっていないので、「厨二病」ではない。たまに夢中になったりするがあくまで息抜きである。
で、ついに吾輩の事であるが、前にも言った通り天才科学者である。研究テーマはなんと!驚け!『魔術』である。ここで白けた諸氏よ、あえて言おう「君たちの頭は固い!」
量子テレポーテーションや重ね合わせ、トンネル効果など、量子のふるまいを見て「まるで魔法のようだ。」と思うのはごく自然なことである。量子や、クウォークの世界に踏み込んでいったとき、この世のことわりは科学と呼ぶより魔法と言った方が適切ではないか?と、感じる人がいても何ら不思議ではないはずである。
私が思うに、この世界は不思議でできている。1たす1が2であること、あるいは2にならない事、石も水もすべてが不思議のかたまりである。その不思議さに対する眼差しを、あるいは科学と呼び、あるいは魔法と呼ぶ、その違いはほんのささやかな視点の違いに過ぎない。
21世紀の地球において、人間は多くの知識を得てきた、しかしそれでもなお人間は無知である。この世界で我々が認識できる存在はわずか数パーセント、そのほかのほとんどがダークマター及び、ダークエネルギーと呼ばれ、人間には未知の領域である。さらにさらにこの世界の余剰次元を自由にできるならばその働きも語らなければならない。
・・・えっ、話が見えない?知らない人は知らないかもしれないので、まあ、しかたなく説明させていただきますが、この世界は3次元+時間の次元でできている。
しかし、超ひも理論によると、この世界は実は九つの次元を持っていて、我々が感じている3+1次元以外の次元は小さく丸められて、休止状態になっていると言う事、もしこの余剰次元の一つ二つを開放できれば、存在の自由度が数百倍も一気に跳ね上がる。通常物質、エネルギーはもちろんダークマター、ダークエネルギーさえ自由自在にこねくり回し、変化させることができると思われる。もはやこの段階になると、存在は科学の枠を踏み出してしまう。私はここに宣言しよう!究極の科学は魔術に等しいと。
「どうだ!これでも魔法と呼ぶのは厨二病と言うのか!」と、まあかっこ良く盛り上がった所で水を差すのは誠に遺憾なのではあるが、異世界である。なぜかと言えば、前世の宇宙では余剰次元の休止が安定しすぎて開放することができないからである。で、異世界である。ようするに余剰次元を開放しやすい物理定数をもつ宇宙を探せばいいわけである。インフレーション理論によれば、宇宙は無限に生成されている。いわゆるマルチユニバースである。この「無限」と言う事は実はとんでもないことを意味する。それは宇宙として存在可能な物理定数をもつ宇宙ならばどんな宇宙でも、たとえそれが厨二病どストライクな宇宙であろうとも必ず存在すると言う事である。「むふふふ、どんなもんだ!」と言いたい、言いたい、本当に言いたい、言わないでおくけど。
で、どうやって目的の宇宙を探すか?であるが、存在するものはすべて固有振動数をもっている。で、スパコンで希望する宇宙をシュミレートして固有振動数を割り出す。問題は無限にあるそれぞれの宇宙はそれぞれ完結していて、相互作用を持たない。つまり連絡手段がないように見えることである。ただしそこはそれ、これは物語であるから、いや物語でなかったとしても、たぶん例外があるのである。”重力”である。
宇宙初期には互いに相互作用していたはずの4つの力、”強い力、弱い力、電磁気力、重力”のうち、重力だけが極度に弱い、実に電磁気力の十の38乗分の一である。
この信じられないほどの数字の違いはなぜか?つまり、自己完結しているはずのこの宇宙の中で重力だけがこの宇宙から外に漏れ出しているわけである。
で、重力波を使ってターゲット宇宙を共鳴させ、私自身をデーター化してこの宇宙からターゲット宇宙にコピー&ペーストすれば・・・いや、私だけでは転送しても生きては行けそうもないので、この研究所ごとコピペすることにした。
ついでに転送してすぐに寿命で死んでしまうのはは悲しすぎるので、自身のデーターをいじって、15歳に若返らせる。もひとつ、せっかく魔法世界に行くので魔力もMAXにする。
あまりいじると私が私ではなくなってしまいそうなので、この辺で勘弁してやることにする。この辺は"厨二病患者”が大好きなチートである。
「そんなに簡単にいくか!」とか「そんな事が人間にできるはずがない。」とかの声が聞こえそうであるが、もちろん人間にはできない。
やるのはスパコンのAIであり、人間ではない。AIがどんなに苦労をしようが私が苦労するわけではないので問題はない。
というわけで、厨二病まっただ中な世界の山中に転送先を作り上げた。
作ってすぐに作動させると、地球にオリジナルが残ってしまって、どっちがほんとうのおれ?みたいな気分的にややこしい事になりそうなので、本当は前世の私の寿命が終わった時点で動かす予定だったのだが、どこぞのバカが核ミサイルなどぶっ放したおかげで予定がすっかり狂ってしまった。
失敗せず、ちゃんと動いてくれよ・・・と、ここまでが異世界転生の前振りである。
ずいぶんと長い前振りになってしまって、付き合って読んでくださった読者の方にはお礼の言葉もない。もし私が華麗な文豪であったならば、
”国境の長いトンネルを抜けると、そこは異世界であった…”
とか一行で済むのであるが、そこはしがない天才科学者なもので大目に見てやってください。あ、天才科学者じゃなくて大天才科学者ね、大がつく、そこんとこ宜しく、すんません。
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