第39話【冒険者ギルド】

俺が商人ギルドの建物から出てくると出入り口の側で冒険者ギルドのワオチェンが静かに待っていた。そのまま俺達は赤いリンゴ亭に返ってくる。そして、俺が酒場に入ると仕事が一段落ついたのだろうかロバートがテーブル席で待っていた。


「よう、骨のアニキ。こっちだ」


テーブル席で手を振り俺たちを招くロバート。その背後には入墨顔の男が立っていた。入墨顔に潜む瞳が笑顔に綻んでいる。


「さーさー、座ってください」


入墨顔の男が椅子を引いて着席を促す。俺はその席に腰を下ろした。


ロバートが注文を問う。


「骨のアニキ。ウイスキーにするかい、それともエールがお好みかな?」


『私は飲食ガ出来ない。スべて骨の隙間カらダラダラと溢れるカらな。喉モ胃袋も無いんダよ。代わリにチルチルに食事ヲ頼む』


「そうだったな。すまんすまん」


ロバートが述べると入墨顔の男が椅子をもう一席引いた。そこにチルチルが腰掛ける。


ワカバの為にもう一席入墨顔の男が席を引こうとしたが彼女は断った。俺の背後から動こうとしない。


「警護に熱心だな。それほどまで御主人様の安全に気を配るとわね」


違う。ロバートは勘違いしている。ワカバは人の作った食事には興味がない。だから食事を断っただけだろう。


「それで猫耳のお嬢ちゃんは、何を食べるんだい。なんでも注文してくれ。今日は俺の奢りだからさ」


猫耳ではない。狼の耳だ。しかし、チルチルはロバートの勘違いを気に求めずに注文を述べる。


「有難う御座います。では、肉入りスープとパンをお願いします」


確かチルチルは朝食を食べたはずだ。それなのにまだ食べる気かよ。チルチルって本当は大飯喰らいキャラなのかな。


とにかくチルチルの希望を聞いたロバートはカウンターに居るマスターに注文をしてから俺に訊いてきた。


「でぇ、商人ギルドには、何しに行ってきたんだい?」


嫉妬混じりのロバートの質問にチルチルが答える。


「仕事の話です。御主人様はこの町で商売を営みたくって、その相談をしに行きました」


「なんだよ。骨のアニキは商人に成るのかよ。じゃあ冒険者ギルドには入らないのか?」


その質問に対してチルチルがロバートに問う。


「商人ギルドのアーサー殿はギルド入会について、入会金を無料にしてくださいました。もしも御主人様が冒険者ギルドに入会するのならば、どのような待遇や特権が用意されるのか聞いてみたいそうです」


そんなこと俺は言っていない。なんかチルチルが気を利かせ過ぎてますよ。しかもとても交渉上手じゃあないですか。チルチル、やりおるわい。


ならばとロバートも入会特典を奮発してくる。


「当然ながら入会金は無料だ。更に依頼の手数料を本来10%ほどギルドが頂く契約だが、それを7%に負けてやるぜ」


なるほど。ちょっぴりお得だな。


「更にだ。本来ならば入会したばかりの冒険者はランクEからのスタートだが、それもランクAからのスタートで構わないぜ」


「ランクが異なると、どう違うのですか?」


チルチルがランクについて説明を問う。すると店のマスターがチルチルの前に肉入りスープとパンを運んで来た。チルチルはそれに貪り付きながら話を聞く。


「ランクによって仕事内容が異なる。ランクEの仕事は危険の少ない薬草取りとかだが、ランクが高ければ手強いモンスターなどの討伐依頼や高難易度のダンジョン探索も受けられるようになるんだ。それにランクが高い依頼ほど報酬も高くなる」


まあ、この辺もよく聞く冒険者ギルドの仕組み通りだな。


「そもそも骨のアニキは俺に喧嘩で勝っているんだ。腕っぷしならばランクAは妥当だろうさ」


なるほどね〜。ロバートに勝てればランクA程度の強さは保証されるのか。やっぱりこの異世界の強さは今の俺でも決行強いらしいのね。それはそれで俺の自信に繋がるぜ。


まあ、入会金も取られないならば冒険者ギルドに入るのも悪くないか。損も無かろう。


徐ろに俺は骨手を差し出して握手を求める。


「おおっ、骨のアニキ。心を決めてくれるか。有り難い!」


俺はロバートと握手を交わす。これで俺も冒険者ギルドの一員だ。これからは遠慮無く冒険の依頼を受けられるぞ。


そうしていると悪ガキのように微笑むロバートがカウンターのマスターに例の物と言って注文した。するとマスターがカウンターの中からテンガロンハットを取り出すとこちらに投げてよこす。


「これはうちのギルドのシンボルだ。良かったら貰ってくれないか」


あー……。そうかー……。みんな被ってるもんな……。


俺は嫌々ながらもテンガロンハットを受け取った。しかし自分では被らずチルチルの頭に被せる。


するとブカブカのテンガロンハットを被ったチルチルが言った。


「やはり漆黒のローブにはテンガロンハットが似合いませんものね。ロバート殿、この帽子は被らないとならないのですか?」


「いや、無理強いはしていない。嫌なら自宅の箪笥の上にでも置いといてくれ」


あー、良かった。テンガロンハットを被るのが規則だったら冒険者ギルドを脱退していたぞ。俺はカウボーイじゃあないんだからテキサスウエスタン風なんて御免だからな。なのでこのテンガロンハットは壁飾りに変わると思う。


さて、冒険者ギルドに入会したことだし、そろそろ本題に入ろうかな。


俺は音読アプリでロバートに問う。


『ロバート殿。亡霊のトンネルにつイいて訊きたイのだが、知ってイることを教えてモらえなイか?』


「亡霊のトンネルだって?」


俺はコクリと頷く。


「もしかして、悪霊ジャック・シャドーを討伐する積もりかい?」


俺は再びコクリと頷いた。


それを確認したロバートが入墨顔の男に何か合図を送る。すると入墨顔の男が掲示板から古びた張り紙を1枚剥がして持ってきた。


それは痩せこけた中年男性の人相書き。名前はジャック・シャドーで金貨50枚の賞金が掛けられていた。討伐依頼の手配書である。


「知っていると思うがジャック・シャドーは亡霊のトンネルに取り憑いている悪霊だ。40年ほど前に妻と娘、それに町娘を8人虐殺した人殺しの悪霊だ」


ロバートの話途中にワカバが割って入る。


「だから、その亡霊のトンネルとはどこなのじゃ!」


あらあら、ワカバちゃんは戦いたくってムズムズしているのかな。こんな時ばかり口を挟んでくる。


急かされたロバートが答える。


「町を出た北側に岩山がある。そこの麓に今は閉鎖されているトンネルがある。それが亡霊のトンネルだ。だが、そのトンネルは複数の悪霊が巣くっているぞ。ジャックの霊ばかりではない」


なんだよ。ジャック以外にも悪霊が居るのかよ。


「元々は元当主の砦があった岩山への出入り口だったトンネルでな。戦争の時に死んだ敵味方の兵士の霊が未だに戦っているんだ。その兵士の霊たちが悪霊化して道を阻んでいる。そこに逃げ込んだジャックの霊も悪霊化したってわけよ」


肉入りスープを食べ終わったチルチルがパンを齧りながら訊いてきた。


「でも、なんで悪霊ジャックだけ賞金が掛けられているのですか?」


「それは戦争が終わって盆地の砦は必要なくなったからトンネルを使用しなくなってね。でも、40年前に娘たちを殺された両親たちが賞金を掛けた依頼が、未だにそのままのこっているんだよ」


40年も依頼が放置されていたのかよ。なんたる怠慢だ。ここの冒険者たちはヤル気がないのかな。


そう俺が考えていると、俺の表情から悟ったロバートが述べる。


「そりゃあ、俺たちだってジャック討伐には健闘したさ。だが、あと一歩ってところで毎回ジャックに逃げられるんだ。40年間それの繰り返しなんだ」


なんじゃそれ?


「そもそも悪霊退治ってのが難易度が高い。悪霊ってのは普通の武器が効かない。魔力を持った攻撃か、聖なる力を宿した武器でしか傷つかないんだ」


するとワカバがダイエットバーを伸ばしてロバートに先を向ける。


「これでは駄目なのか?」


ロバートは左右に首を振りながら答える。


「駄目だな。この武器は魔力も無ければ聖なる力も宿っていない。ただの手品師のステッキだ」


「では、どうすればよいのじゃ?」


「一番安上がりなのは、教会から聖水を貰ってきて武器に掛けて攻撃するだな」


なるほど、聖水は幽霊に有効なのか。


「あとはマジックアイテムかな。魔力を秘めた武器ならばなんの問題もない」


マジックアイテムの武器か――。だが、そのような優れた武器は持っていないしな。


「それと骨のアニキが使っていた魔法だ。あれならば悪霊でも殺せるだろうさ」


ダークネスショットのことだろう。攻撃魔法は有効なのね。


なるほど、ゴーストには普通の武器は効かないのか。魔法か聖なる力が必須ってことなのか。


これは確かに面倒臭い敵が相手になるぞ。



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