第22話【新ルール】
俺たち一行はファントムブラッドの町にしばらく滞在することになった。宿はジョスター伯爵の屋敷に部屋を借りられたから無料である。ラッキー。
何せ所持金がコックランナーから貰った小銭入れ程度しかなかったから助かったと言えよう。
そして、俺が泊まる客間は大きなベッドがある大部屋であった。俺が住んでいるアパートの四畳半が六つぐらい入りそうな大部屋である。なんとも豪華な客間だ。それだけ歓迎されているのだろう。
更にお付きのメイドたちが滞在する部屋は客間のすぐ隣にあった。そこにチルチルとワカバは二人一部屋で寝泊まりするらしい。
俺がどのような部屋かなって覗きに行くと、そこは畳み二畳分ぐらいの狭苦しい部屋だった。そこに二段ベッドがひとつと机がひとつあるだけだ。まさに最低限の部屋である。ゲストルームとは大違いである。
そんなことよりも、俺はチルチルとワカバを客室に呼び入れた。そしてワカバを正座させる。さて、説教タイムスタートだ。
俺は音読アプリを使ってワカバに説教を垂れる。それはショセフ氏に対しての暴行の件であった。あれは非常に不味い。一歩間違えば打ち首獄門の刑に処されても文句を言えない案件だからだ。その辺を分からせようとワカバに説教を垂れたが彼女は理解できない様子だった。何が悪かったのか根本的に理解できていない。ホッパー族の常識ではなんの問題もなかったのだろう。故にそこから正さねばならないようだ。
そこで俺は考えた。ワカバのように人間のルールが理解できないのならば、新しいルールを作ってしまえば良いのではないかと思った。それが案外と正解だったのだ。
俺は二人のメイドに新しいルールをいくつか守らせることにした。
一つ目は、やたらと他人を攻撃しない。俺の許しがあった時か、俺や己の身が危険にさらされた時のみ反撃を許す。故に反撃を許しているだけなので、先手は禁物だとも教えた。
これに関してはチルチルは直ぐに理解できたがワカバは少し悩んでいた。ホッパー族ってやつは、このルールですら理解するのに時間が掛かる。それでも最後にはちゃんと理解してくれた。とにかく、俺の許しが無ければ絶対に他人への攻撃は許されないと約束させた。
二つ目は、殺害に関してである。何かの命を奪う際には常に俺の許可を得る事。例え相手がモンスターであっても俺の許可が出て無ければ殺害を許さない。
これに関してもチルチルは素直に承諾したがワカバは不満げに渋々と承諾する。許可を取るのが面倒臭いと言ったことを述べていた。まったくもって野蛮である。
最後の一つは食事に関してだった。ワカバに訊いてみればやはりホッパーは人間の肉も食べるようである。それを禁じた。何があっても人間だけは食べてはならないと言い付ける。
これに関しては二人とも素直に聞き入れた。なんの問題も無い様子だった。
そもそもホッパー族が動物系の肉を食べる理由は食べれる草木が無くなった時だけである。草木が豊富にあるのならば肉食に走らなくても良いからなのだ。
だから俺が最低限でも草木の食料を絶やさなければ問題がないのだ。最悪な時は元いた世界から牧草を大量に持ち込んでやる。それでワカバの食糧問題は解決できるだろう。たぶん。
そして、更に禁じ事項を追加する。それは俺の前では虫を食べない。出来れば一生食べてもらいたくない。どうしてもお腹が空いて虫しか食べ物が無かった場合は許すが、絶対に俺の前では食べるなと言い付ける。これだけは俺の理性が保ってられない。キモすぎるからだ。
まあ、こんな感じで三つの新ルールをメイドたちに徹底した。これで少しはトラブルが減るだろう。減ってもらわなければ困ってしまう。
そんな感じで、なかなか話を理解してくれないワカバに説明し終わったころにチルチルがウロボロスの書物を持ってくる。
「御主人様。先ほど再び書物が光った様子ですが、内容を確認しますか」
おお、どうやら新クエストが発生したようだ。流石はチルチルだ。気が利くな。
以前俺がこの書物は命よりも大切な品物だ。肌見放さず管理しろっと告げるとチルチルは下げ鞄に入れていつも持ち歩いている。大切に扱ってくれているのだ。
俺はチルチルから骨の書を受け取るとベッドの上で胡座をかきながらクエストを確認する。そして、書物にはこう書かれていた。
【クエスト004】
ショスター伯爵家と三つの物々交換を成功させよ。
成功報酬【体制異常魔法・ドレインタッチ】&【回復魔法・ボーンリジェネレイト】
これが新クエストか――。
今度のは討伐系のクエストじゃあないな。しかも報酬が二つあるパターンだ。それにしても、こんなタイプのクエストもあるのかよ。
そして、成功報酬はドレインタッチと言う魔法である。状態異常系の攻撃魔法なのだろう。名前からして相手に触れて生気をチューチューと吸い取る魔法なのだろうか。そう考えるとちょっと卑猥だな。でも、ドキドキしちゃう。うふん♡
更にもうひとつはボーンリジェネレイトか。これって傷を直してくれる系の魔法だろう。俺が骨折した時に骨を直してくれるのかな。これは助かる回復魔法である。
それにしても物々交換って、物々交換だよな。物と物を交換するってやつですよね。それじゃあ、金銭で取引したらアカンのかな。だとするならば、これはこれで逆に若干ながら面倒臭いクエストだぞ。少し考えて行動しなければならんだろう。
とりあえず俺は時空の扉を呼び出して元いた世界に帰ってきた。そのまま今度は近所の薬店に飛んでいく。そこで祖父がショスター伯爵に渡したのと同じ薬を三本ほど買って帰る。
風邪、のど、頭痛に良く効く30錠入りの飲み薬だ。しばしばテレビのCMで観られるポピュラーな風邪薬である。これを使って物々交換を3回達成してやるぜ。それで成功報酬をゲットしてやるぞ。イエイ!
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