第60話  大胆な水着のめぐ


 キャンプ二日目。

今日は朝から海で遊ぶことになっていた。

しかし、朝からずっとめぐの姿が見当たらず、俺はずっと探し続けている。


「鮫島さん、めぐがどこにいるか知らないか?」


俺は海岸で蒼太と水遊びをしていた鮫島さんへ問いかけた。


「なんか、始発の電車で隣町のニャンキーホーテへ行ったよ」


「ニャンキーホーテへ!? どうして……?」


「さぁねー。あ、蒼ちゃん! あのアイス食べたい! 行くよ!」


「お、おい! 水着引っ張んなって! わ、悪いなシュウ! また!」


 妙に冷たい態度の鮫島さんは、さっさと近くて露天営業をしていたアイスクリーム屋へ向かって行く。

と、突然鮫島さんは踵を返し、


「ちゃんとめぐみんのことみてろよぉー! この朴念仁がー!」


そう叫び、今度こそ、蒼太と共にアイスクリーム屋さんへ向かって行ったのだった。


(どうしてめぐはわざわざ電車を使って24時間営業のディスカウントストアへ……? なにかキャンプで必要なものができたのだろうか……?)


「あれぇー! 田端くん、もしかして1人!?」


と、声をかけてきたのは、ワンピースタイプの水着を着た佐々木さんだった。

彼女の側には同じような水着を着た加賀美さん、競泳タイプのものを着た井出さんの姿もある。

皆、水着姿がよく似合っていて、ついつい視線が釘付けとなってしまう。


「だったらさ、私たちとビーチバレーしない!? ちょうどもう1人探してたところなんだよね!」


 なんだか俺と佐々木さんの距離が妙に近いように思われた。


「すまない、今、めぐを探している最中で……」


 俺は佐々木さんから一歩引き、そう答える。


「恵ちゃん、ニャンキーホーテ行ってるんでしょ? だったら帰ってくるまで良いじゃん!」


 だが佐々木さんは二歩前へ進み、俺との距離を縮めてくる。


「だよねぇ。せっかくなんだし、遊ばないと!」


 すかさず加賀美さんが、佐々木さんと同じぐらいの距離感で、そう訴えかけてきた。


「ほら、井出も、ちゃんと誘ってよー」


「た、田端くん! 私ね……君のその立派な上腕二頭筋が、どんな鋭いサーブを打つのか気になるの!」


 筋肉マニアであると定評の井出さんは鼻息荒くそう言い放つ。


(皆がこうして誘ってくれるのはとても嬉しい。昔の俺からは考えられないことだ。しかし……)


 こんな場面をめぐがみたらどう思うだろうかと思った。

やはり今は、めぐが帰還するのを待つべき。

その上で、佐々木さんらのビーチバレーに参加するか否かを決めた方が良さそうだ。


すると佐々木さんは痺れを切らしたのかーー


「はい、確保ー!」


「なっ!?」


 気がつくと佐々木さんが、俺の上腕二頭筋辺りへまとわりついてくる。


「ほらほら、おとなしくするー」


 加賀美さんまでが、反対の腕をとり、グイグイと俺のことを引っ張り始めた。


「井出もちゃんと手伝ってよー!」


「た、田端くんのシックスパック……バッキバキの腹筋……!」


 井出さんはとても鼻息荒く、俺へにじり寄ってくる。


(全力を出せば、佐々木さんらを振り払うことは容易だ。でも、そんな乱暴なことをするのは……)


 この事態をどう切り抜けるべきか必死に考える。

その時ーー


「しゅ、しゅうちゃんっ!!」


 背中へ俺の気持ちを最も華やかせる声が響いてきた。

 同時に佐々木さんらも、ぴたりと動きを止める。


「佐々木さん、加賀美さん、井出さん……誘ってくれてありがとう。とても嬉しかった。でも、離してくれないか?」


 俺は三人へ向けて、落ち着いた声音でそうお願いをした。


「あ、えっと……」


「頼む。お願いだ」


 心の底からそう願いでる。

すると佐々木さんを初め、他の2人もおとなしく俺のことを解放してくれるのだった。


……こうして女子に囲まれて嬉しく、あまつさえ、蠱惑的な彼女たちの水着姿に興奮した自分が先程まで存在していた。

だが、そんな邪な気持ちは一瞬で吹き飛び、代わりに強い胸の高鳴りが湧き起こる。


「めぐ、その水着は、もしかして……?」


「そ、そういえば、水着忘れちゃったって思って……か、買いに行ってたの……!」


 めぐは他のクラスメイトに比べて、やや幼い印象な人だ。

しかし出ているところはしっかりと出ていて、然るべきところはちゃんとくびれれているといった体つきをしている。

 そんな彼女に、フリルのたくさんあしらわれたピンクのビキニスタイルの水着はとてもよく似合っていた。

 ひまわりのモチーフがついた麦わら帽子も、良いアクセントになっていた。


 思わず見惚れてしまい、耳まで熱を持ってしまうほど、今目の前にいるめぐは魅力的だと思うのだった。

だが、しかし一点だけ、致命的な、非常に残念な箇所が!


(水着のアンダーからはみ出ているのは……値札か!?)


 幸い、俺以外は値札がつけっぱなしなことに気がついていないらしい。

せっかく可愛い姿なのに、非常に勿体無い!


ならばーー!


「ひゃっ!?」


「あっちへ行くぞ」


「ちょ、ちょ、ちょっと! なな、なにぃー!?」


俺はめぐの手を取り、人気のない岩場へ連れ込んでゆく。



●●●



「ありゃ、だめだぁ……ワンチャンもないわー……」


と、ため息まじりに諦めの声を上げたのは佐々木さん。


「て、てか、いきなり、岩場へ連れ込むだなんて……田端くんって、めっちゃ野獣……!?」


 加賀美さんも岩陰へ向かってゆく2人を見て、唖然としていた。


「ん? どういうこと?」


 筋肉・運動バカな井出さんは、2人の間で首を傾げているばかり。


「あんなラブラブなの見せつけられたらねー」


「わかるー。くっそー、こうなったら!」


「現役JKパワー見せてやろうじゃないの!」


 佐々木さんと加賀美さんはガシッと腕をくみ、お互いの意思を確認し合った。


「え? え? ビーチバレーのこと?


「ちっがーう! ナンパよ! ナ・ン・パ!」


「そうそう! せっかくの海なんだから、田端くん以上のいい男を見つけるの!」


「うえぇ!? な、ナンパ!? そ、そういうのはちょっとぉ……」


 戸惑う井出さんを、佐々木さんと加賀美さんはがっしり掴む。


「頑張るぞ!」


「おー!」


「わ、私、そういうの結構だよぉ〜!!」

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