第39話

ひとり残された美麗は椅子に座ってスマホ画面を見つめていた。

そこではネットニュースが報道されている。


ニュースの内容はずっとこの街のことで、あの化け物の生体について明らかになってきたと告げている。

《○○街に突如出現した謎の生物は長い間地中にいた生物の可能性が出てきました。あの化け物には目がなく、光に弱いということです》


女性キャスターの声を聞きながら美麗は天井を見上げた。

もう誰もいなくなってしまった。

ひとりぼっちになった今、化け物の生体なんてどうでも良かった。


ただ次の生贄は自分であるという、その事実が残っただけだ。

《地中にいたということは、太陽に弱いということですよね? だから夕方に地上に出てきたと?》


《その可能性は高いです。昨日の夕方5時は曇っていたこともあり、○○街の駅前に日差しはほとんどありませんでした》

ふと、窓から太陽の光が差し込んできていることに気がついて時計を確認した。

時刻は午前4時30分を過ぎている。



外は白みがかってきて、モヤが立ち込めている。

美麗はスマホを持っていることを忘れて、それは手からすべり落ちた。


床にスマホが落ちる音にも気が付かずに立ち上がると、ゆっくりと窓へ向かう。

朝日が差し込むグラウンドから立ち上っている白いモヤ。


それは朝もやなんかじゃなかった。

大きな化け物の体がジワジワと溢れ出している。

美麗は窓に両手をついてその光景を見つめる。


《化け物は朝日を浴びて逃げる可能性があります。またはそのまま死んでしまう可能性も……》

モヤが湧き上がると共にその体は小さくしぼんでいくのを見た。


あれだけ沢山の生徒たちを食べて成長を続けてきた化け物が、どんどん縮んでいく。

美麗は数歩後ずさりをして、後ろにあった椅子に座り込んだ。


時刻は午前4時40分。

化け物はまだ暴れ出さない。



食事の時間が近づいているのに、グラウンドにうずくまったままだ。

最初は少量だったモヤはどんどん量を増していき、化け物の縮小化が加速していく。

その間に太陽は登り続けてグラウンドを照らし出す。


突如ヘリの音が近づいてきたかと思うと、それには中継車のマークが印刷されていた。

《今、化け物の近くから中継しています! 化け物から煙が立ち上り、その姿がみるみる小さくなっていきます!》


スマホから中継の様子が聞こえてくる。

3階のベランダよりも小さくなった化け物が急に悲鳴のような咆哮を上げ始めた。


ついに暴れ始めたのかと思ったが、違った。

化け物の縮小化が更に加速して、そのために苦しんでのたうちまわっているのだ。

化け物は地面に転がり、うめき声を上げ、どうにか太陽の光から逃れようと体を引きずって移動する。


だけど全然間に合わない。



化け物の体は煙を上げながら、今や1階の天井くらいの大きさまで小さくなった。

それはまるで塩をかけたナメクジのようだった。

水分を失い、ドロドロに溶けていく様子を思い出す。


美麗はベランダに出てその様子を見つめた。

化け物が排出している煙は腐敗臭がしてとても長時間そこに立っていることはできなかった。

だけど、最後まで見届けたかった。


みんなを、12人を食べた化け物の最後の姿を。

「ウオォォォォォ!!」

それは化け物の咆哮であり、食べられてしまったクラスメートたちの叫びだった。


化け物の血肉になり、そして消滅してしまう、みんなの涙だった。

化け物はもう人間と同じくらいの大きさしかない。


朝まで待てば。

朝まで待つだけで、助かることができたのに。

美麗の頬に涙が伝う。



化け物はまだまだ小さくなって、子供くらいの大きさになった。

黒くて小さな体がのたうち回る。


低くて地響きがしていた咆哮は甲高い赤ん坊の泣き声のように変わる。

美麗は顔を覆って涙を流した。

S組は色々と問題を抱えたクラスだったかもしれない。


だけどいいクラスだった。

きっと、そう。

絶対に、そう。


化け物は咆哮をやめて地面に伏せた。

体からプシュプシュという音と煙を撒き散らして、動かなくなる。


その体は赤ん坊くらいになっている。

化け物の体はそのまま煙に巻き込まれてベランダからは見えなくなった。


「……みんなさようなら」

美麗がそう呟いて教室へ戻ったとき、風に乗って煙は消えて、化け物の姿は跡形もなく消滅していたのだった。

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