第34話
あと3人。
あと3人。
あと3人。
理沙はさっきから震えが止まらなかった。
恐怖と絶望で吐き気がこみ上げてきてはトイレに走る。
胃の中のものをすべて吐き出しても吐き気は止まらずに、涙を流しながら何度もえずいた。
教室へ戻ると美麗と昂輝のふたりが寄り添って座り込んでいる。
よりによって今残っている3人はこのメンバーだ。
美麗と昂輝は付き合っているから、単純に考えれば次の生贄に選ばれるのは自分だった。
そう考えただけでまた吐き気がこみ上げてくる。
きっとふたりは嫌がる私を無理やりにでもベランダへ出すだろう。
愛する人を救うために。
愛する人と一緒に生き残るために。
そのためには私という犠牲がどうしても必要だから。
だけど理沙だってそう簡単に生贄になるつもりはなかった。
どれだけふたりが力を合わせようとも、反発する気でいる。
理沙はさっきこっそりスカートのポケットにその忍ばせたカッターナイフの感触を指先で確認した。
ふたり相手に力だけで叶うはずがない。
1人は男だし、昂輝もかなりの腕力がありそうだ。
そんなふたりから身を守るためには武器を持つしか方法はなかった。
理沙の心臓は早鐘を打っているが、それを悟られないようにふたりから少し距離を置いて座った。
美麗と昂輝は黙り込んでいてなにも会話していないように見える。
だけど、理沙がトイレに行っている間に密かに計画を練ることはできたはずだ。
絶対に油断しちゃいけない。
理沙はカラカラに乾いた喉でゴクリと唾を飲み込んでふたりの様子を観察した。
ふたりとも自分と同じでかなり疲弊している。
美麗はさっきからずっと目を閉じているから、もしかしたら眠っているのかもしれない。
隣の昂輝は呆然とした表情で窓へ視線をむけている。
その顔からはなにを考えているのか読み取ることができなかった。
なにも言ってこないふたりにもどかしい気分になってくるが、こちらから接触するのは利口じゃない。
下手に話しかければ生贄の話題に持っていかれて自分の立場が悪くなるかもしれない。
理沙は時計を確認した。
郁が食べられてから15分が経過している。
化け物はもうしばらくおとなしくしてくれているはずだ。
その間になにか手を打たないと、暴れ出してからじゃ遅い。
化け物が暴れだすとみんな慌てるから、それこそ命取りになってしまう。
だけどふたりはまだ黙り込んだままで動かない。
どうしよう……。
考えあぐねていたとき、さきほど作ったあみだくじが目に入った。
結局使うことがなかったけれど、一本線を消せばそのまま3人で使うことができる。
理沙はまた唾を飲み込んでそっとその紙に手を伸ばした。
カサカサとした感触がやけに手につくと思ったら、自分の手が随分と乾燥していることに気がついた。
そういえば水分補給もろくにしていなかったことを思い出した。
次々といなくなるクラスメートたちを間近で見てきて、通常の喉の乾きを忘れて閉まっていたのだ。
箱の中にはまだペットボトルの飲料が残っているはずだ。
それを取るために立ち上がったとき少しよろけて、あみだくじの紙がヒラリと床に落下した。
それを視界の端で見た昂輝が理沙に視線をむけた。
理沙は昂輝の視線に射すくめられたように動きを止める。
全身から汗が吹き出して鼓動が早くなる。
昂輝が立ち上がり、床に落ちた紙を拾い上げた。
そして……「これ、次は使わないから」と、呟いた。
「え……?」
理沙の喉から乾いた声が漏れた。
次はあみだくじをしないということだと、少したってから理解する。
それはどういう意味なんだろう。
次の生贄はすでに決まっていて、それはつまり、やっぱり自分……?
理沙の顔からサッと血の気が引いた時「次は俺が行く」と、昂輝が宣言したのだ。
その言葉を聞いて美麗がハッと目を開けた。
眠ってはいなかったようだ。
「昂輝……」
「だから、少し美麗とふたりきりになりたいんだ」
昂輝はそう言うと、微かな笑みを浮かべたのだった。
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