第25話
ふたりは二人三脚で今まで頑張ってきたといっても、過言ではないかもしれない。
だけど、そんな関係は少しずつ崩れてきていたのだ。
仁は正直焦っていた。
後から勉強を始めた妙子のほうが、成績がよくなってきていたからだった。
「あはは、まぐれだよ」
満点の答案用紙を見て妙子は笑ってそう言った。
だけど仁は心から笑うことはできなかった。
そのときの仁のテストは90点だったから。
元々負けず嫌いな性格の仁は、妙子に隠れて猛勉強するようになった。
だけど、それでも妙子に勝つことができない。
勉強なんて好きじゃないと言っていたのに、いざやってみればそれは妙子の肌に合っていたのだ。
それが許せなかった。
なぜこんなに頑張っている自分よりも成績がよくなるのか、不思議で仕方なかった。
密かにプライドを砕かれた仁はどんどん口が悪くなっていった。
「仁くんってなんか怖いよね」
中学に入学すると女子生徒たちはすぐにそんな噂を立て始めた。
仁はそんな女子生徒を疎ましく感じて「あの子たちがカンニングしていました」と、嘘を教師に教えた。
その時にカンニングペーパーまで用意して、女子生徒の机に忍ばせておくほど、慎重さだった。
女子生徒は見に覚えのない罪で泣き出した。
偽物の証拠品であるカンニングペーパーが見つかったことはすぐにクラス中に知れ渡り、すっかり悪者になった彼女は登校拒否になってしまった。
だけど悪いなんて少しも思わなかった。
余計なことを言ってきた相手が悪いんだ。
それからも仁は影で陰湿なことを繰り返してきた。
相手が誰だろうと、自分の陰口を言うやつは絶対に見逃さなかった。
そうして今までやってきたのだ。
妙子はきっとそれを見抜いていた。
だから仁に合わせるように口が悪くなり、そして態度も悪くなっていったのだ。
☆☆☆
「俺はもう随分前から勉強ができなくなってた。妙子だって気がついてただろ?」
仁に聞かれて妙子は黙り込んだ。
握りしめた仁の答案用紙が力を込めすぎたせいでぐちゃぐちゃになっていた。
いっそこのまま破り捨ててなかったことにしてしまいたい。
だけど、みんなが見ている中じゃできなかった。
「俺、影でいろんな人をイジメてきた。だからきっとこれが天罰なんだ」
「そんなこと言わないでよ!」
妙子が叫ぶ。
その目からは涙が溢れていた。
仁が勉強の楽しさも大変さも教えてくれた。
これからも今までも、ずっと一緒にいるんだ。
その思いはまだ失っていない。
「妙子の口が悪いのは俺の影響を受けてのことだ。妙子は悪くない」
仁は、今度は他のみんなへ向けて声をかけた。
妙子の印象はきっとこの中では良くない。
言葉使いは雑だし、誰かを陥れるようなことだってしてきている。
自分が死ぬ前に、少しでも妙子への印象を変えるのが、自分なりの罪滅ぼしだった。
仁はゆっくりとベランダへ歩き出す。
そのタイミングを見計らったかのように化け物がのっそりと体を持ち上げた。
暗闇の中で更に暗い影が立ち上がる。
その大きさは屋上まで届くほどになっている。
こんな化け物に自分たちは立ち向かってきたんだ。
それだけで十分、役に立ったんじゃないか?
仁はベランダへ続くドアノブに手を掛けてそう考えた。
医者になる夢は叶わなかったけれど、自分が犠牲になることで残りのメンバーは生き残ることができる。
そう思うと誇らしかった。
そしてそのメンバーの中には、妙子もいる。
振り向くと妙子の泣き顔があった。
顔をぐしゃぐしゃに歪ませて鼻水まで出ている。
「汚ったねぇ顔だな」
仁は最後にいつものように憎まれ口を叩いて笑った。
そして妙子の頭に手を乗せる。
「じゃあ、また明日ね。妙ちゃん」
それは小学校の頃の帰りの挨拶だった。
その瞬間だけ、ふたりは当時の自分たちに戻っていた。
ここはS組ではなくて通学路。
目の前にふたりの家はあって、隣り合って建っている。
ふたりはちょうど中央の生け垣の前にいて、手を振って別れる。
「うん。また明日ね」
妙子が答える。
仁は微笑んでベランダへ出たのだった。
日下部美麗 椎名昂輝 宮木郁 二宮妙子 山口理沙 清水雄太
河島仁 土屋恵子 岩本利秋 安藤清 池田智 須江正
残り6人
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