テレポーテーション
最強のエスパーは大の字に眠っている少年に、床に落ちていた布団をかけ直してのち、ベッドの傍らに椅子を置いては腰をかけて、少年の額にそっと手のひらを当てた。
名前が鍵になっているの、だろう。
互いに名乗ろうとしても、その時間をテレポーテーションしたかのように、名前が聞き取れないのだ。
ゆえに、毎夜の如く、この少年が眠っていて隙が生まれている時に、名前ないし記憶を読もうとしているのだが、これもなかなかうまくいかない。
そもそもこの少年に、一切合切記憶が残ってないのだ。
いや、一切合切は言い過ぎだ。
この小さな星に来てからの記憶は、確かに刻まれている。
けれどそれ以前。この小さな星にくる以前の記憶が、ない。
やはり名前が鍵で封印されているのだろうか。
それとも、消去されているのだろうか。
それすらも、読み取れない。
どれだけの才能を持っているのか。
『おねえさん。ひとりぼっちでつかれちゃったんだね。さびしくなっちゃったんだね。だいじょうぶ』
『だいじょうぶ。ぼくが、おねえさんになってあげる。おねえさんになって』
『おねえさんを守ってあげる』
(もしも。あの記憶が捏造されたものではなく、本物の記憶だったとしたら。この子は私の超能力をコピー、した。という、事か)
少年の能力が最強のエスパーである自分よりも強ければ、何の問題もない。
いや何の問題がないわけではないけれど、まあ、そこはひとまず置いておく。
けれどもしも、少年の能力が自分よりも下回る場合、自我の崩壊は免れない。
(と、考えるべき。か)
はあ。
最強のエスパーは微笑を浮かべた。
よだれを垂らして眠っている少年を見て。
一生懸命能力をものにしようと頑張っている姿に、嘘偽りはないと思う。
(やはり、私の記憶を探ってもらった方が、早い、か)
自分で調べてもさっぱりこの少年との記憶が見当たらないのだ。
それを読み取ってほしいというこの難題を、さて誰に頼むべきか。
最強のエスパーは腕を組んで、むむむと考えたのであった。
(2024.1.12)
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