実況！４割打者の新井さん９

これはあれだね？ 主人公交代ですわね？

思っていたよりも伸びていく平柳君の打球。それがフェンス際。レフトの選手が落下点を見極めてジャンプも、白球がすぐ後ろで跳ねるようにしてフェンスに当たり跳ね返る。

その勢いが予期せぬ方向へ。カバーにいっていたセンターが急いで戻るようにして、バックスクリーン方向に転がるボールを追いかける。

「「ゴー、ゴー！ゴー、ゴー！！」」

ベンチにいる人間がみんな、身を乗り出しながら腕を回す。１塁ランナーのヒックスはノンストップで３塁を回る。ボールはセンターから中継のセカンドへ。

そのボールがサードへと送られるも、平柳君が軽やかに３塁へ滑り込んでコーチおじさんとグータッチ。

タイムをかけながら１塁ベンチに両腕を突き上げた。

「左中間。平柳、渾身の打球が深いところまで飛んでいきました！！同点のタイムリースリーベースヒット！ホームラン、ツーベースと来て、今度はスリーベースヒットです！萩山さん、また平柳が打ってくれましたね！」

「流した打球がかなり伸びましたね。一瞬足も止めていましたし、レフトフライかと思ったんですけど、左腕の押し込みが効いたんですね。しかも低めの変化球を左中間にあわやホームランになるような打球ですからね」

すばら。

あのボールを逆方向に。レフトの選手が若干目測を誤った感はあるけど、目測を誤らせたと解釈するなら、それはそれですごい打球と言える。

「バッティセカン。レフトフィールダー、トキヒトゥ、アーライー！！」

「「フォー！！」」

同点に追い付いてランナー３塁。これが俺がコツンとワンヒット放つには最高の場面じゃないか。この試合、今のところ上手くやられていますからね。

狙いはもちろんわ外目のボールを引き付けてライト方向へ。

そんな意識を持ちすぎたのか、外へ逃げる変化球を追いかけてしまった。明らかにヘッドが返ってしまったバットだったが、なんとかなりませんかと、必死に止めるそんな最中。

ガシッ！！

ボールが大きく弾かれた予感。

ワンバウンドしたスライダー系のボールをキャッチャーが横に弾いていたのだ。

ネクストにいるバーンズとわたくしが来い！とジェスチャーする頃には、平柳君が地面に顔を向けるようにして既に突っ込んできていた。

マスクを外したキャッチャーがボールを追いかける。

しかしボールは、ボールボーイが控える窪みへ。半ば諦めたピッチャーがカバーに入るよりも圧倒的に早く、平柳君がホームベースを一気に駆け抜けていった。

わたくし、何もしていませんわ！

また三振だなんて。

１点を勝ち越した後の守り。ウェブが６回のマウンドへ上がる。球数からしてこの回まで。得点圏にランナーが進むようなことがあれば、セットアッパーが前倒しで出てくる展開にもなるかもしれない。

カウント２ー１。

カァンッ！

真ん中に入ったボールをミートされた。打球はウェブの足元を抜けてセンターへと思ったら………。

バシッ！！

ナイスポジショニング。２塁ベースの真後ろで平柳君が追い付き、体はライト方向に流れていく中、正面を向いたまま１塁に送球。

体勢が悪いですから、強い送球にならずワンバウンドも、アンドリュースが軽く掬い上げて捕球し、アウト。

ナイス。

むしろワンバウンドした分、技術点が上がった印象。

カンッ！！

「これもいい当たり、三遊間だ！平柳が追い付く！逆シングルで捕球して、ワンステップで１塁へ！！これは鋭くいい送球がいきました！ツーダン！！」

三遊間、深いところの逆シングル。いわゆるショートの見せ場。軽やかなステップで捕球体勢に入った。

体の正面なんですけどね。

逆シングルで捕球することで、スムーズに送球動作に移れますから、左肩が既に入っている形になるんでね。

そしたらさっきのお返しとばかりに、矢のような鋭い送球がアンドリュースのミットにしっかりと収まった。

カキッ！！

「ピッチャー返し！！グラブを弾いた！ボールが宙に浮く！！平柳が飛び込む！……ノーバウンドで捕りましたー！！」

もう今日の彼はやりたい放題ですわね。

「８回裏、シャーロットの攻撃です。今日、既に猛打賞を決めている平柳がバッターボックスに入ります。萩山さん、平柳の今日のバッティングは本当に素晴らしいですね」

「非常に足の動きがいいですね。日本時代からどちらかと言うと、足をしっかり上げて体重移動しながら、ポイントを前にして引っ張っていくバッティングスタイルですけど。

しっかり下半身の踏み込みが出来ていますから、強いスイングに繋がっていますよね。踏み込んだ足に体重が乗って上半身が強く回る。是非子供達にも真似して欲しい打ち方ですよ」

「なるほど。夏場ですからね。オールスターが終わった頃は少し調子を落としていた平柳でしたが、９月は絶好調。打率も気付けば３割９厘というところまで来ています」

「新井もそうでしたけど、やはり夏場は疲れが出ますよね。その時はスイングすると体勢が崩れてしまうケースが多かったですけど、よくまた持ち直してきましたよ」

「新井とは住んでいるマンションのお隣同士という間柄で………高め打ちました！！ライトへ上がった！！ライトへ上がった！いったか！？

飛距離は十分だ！………上段までいきました！平柳に、特大の１３号ソロホームランです！！シャーロット、貴重な追加点になりました！」