君には負けたよ……。
ビックリしたのと同時に、あるある~!という感じでしたね。
俺もやりましたもんね。台湾の地。負けられない国際試合という舞台で。
たまにあるんですよ。全然追い付いているのに、ナチュラルにポロンと落球してしまうやつ。
でも、バーンズはそこからが凄かった。
どうなったのかよく分からなかったけど、落とした思った次の瞬間には右手にボールを握っていた。地面に落ちたのは分からんくらいのスピード。そしてすぐさま送球動作に入っていて、落球した勢いそのままに、3塁へレーザー的爆速送球。
サードヒックスのグラブに、物凄い勢いでボールが収まった。そしてヒックスはすぐに2塁へ送球。
ポロンと落としたのを見落として、1塁ベース付近まで戻ってしまっていたのか。
2塁への進塁が遅れていた1塁ランナーがコーチに命じられてから慌てて走り出し、頭から滑り込む。
しかしそれも間に合わず、ベースに入ったザム君の捕球が早く、こちらもアウト。
そしてザム君が体を鋭く捻るようにしながら、1塁に投げた。
何故か1塁を蹴ったバッターランナーが飛び出していたのだ。
半ばパニックになったのか、慌てて戻ろうとした時に、足を滑らせてバランスを崩し、スライディングも出来ず。
ワンテンポ遅れてようやくベースを踏もうとした足に、アンドリュースがミットの先で払うようにしてタッチした。
タッチしたミットを審判に見せつつ、拳を握りながら、早くジャッジしてくれ!という感じであるアンドリュースの顔。後ろ向きにスキップするようにして、早くもベンチに戻ろうとする。
「アウトッ!!」
1塁審判おじさんがアウトをコールすると、シャーロットナインはみんなで大喜びながらも、急いでベンチに向かってダッシュしたのだった。
「おい、バーンズ!しっかり守れと言った人間が何してんだよ!!」
「慣れねえこと言って、カッコつけてんじゃねえ!!」
「相手がしくってくれて助かったな!」
バーンズはチームの中でもまだ若い年齢の選手ですからね。
アンドリュースやクリスタンテ、ブラッドリーといったアラサーの選手達に、ここぞとばかりにイジられていた。
自分で前フリして置いて、自分で即やらかしていくという。なんだか誰かさんに似てしまっている気がするが、違うのはそこからのリカバリー力である。
まるで落球するのを予知していたかのような、流れるような動き。
グラブから零れたボールが地面に落ち、それを走りながら素手でしっかり握った。そしてそのまま3塁へレーザービーム。
普通落としたら、あたふたして、まあまあの確率でその後暴投しますからね。
それがヒックスの出していたグラブにドンピシャ送球でミスを取り返すと、虚を突かれて出遅れた1塁ランナーもフォースアウト。
さらに半分パニックになり、必死さを忘れたバッターランナーまでタッチアウトにし、一瞬にしてピンチ脱出の3アウトチェンジ。
まさかこれを狙ってわざと落としたのかと、そこまで勘ぐってしまったが、落球がたちまちトリプルプレーになるとは。
向こうのランナー2人のアンポンタンぶりに助けられたとはいえ、強烈なエラーキャンセル。
メジャーのスケールは本当に底が知れませんわね。
センターフライを落として満塁か、さらに同点に追い付かれているかという局面がチェンジになったというところでしたから。
シャーロット側にしてみれば、リセットボタンを押して5回くらいやり直したレベルの変わりようである。
スコアは動かないまま試合は中盤。ランナーなしの状況でバーンズが打席に。
昨日の試合から4打席連発の後に、満塁で三振した次の打席である。
ここでまたホームランを打つようなことになると、第47号とかそんな状況になってしまいますからね。
しかし、ここで打って欲しいのは、確実なバッティング。ホームラン狙いのビッグスイングではなく、来た球に自然に反応してミートした、センター前やライト前のシングルヒット。
そんなんが出ちゃたりすると、トリプルクラウン達成の1番の邪魔者が俺になるという楽しい構図になったりもする。
今、バーンズがホームラン、打点の2冠ですから、打率が3割4分台くらいに乗っけたりなんてことになったら大変。
ですから、初球の高めを我慢してまずは見極めた。
2球目の外よりカッター系のボールをしっかりアジャスト。それを見た俺は、メジャー最強の右打者の勲章はもうすぐそこにあると思いましたわね。
「打ちました!ライナー、センター前!…センターが果敢に突っ込んで飛び込むー!!落ちた!後ろに逸らしましたー!!」
捕れるという自信があったのだろうか。真芯の極めて近いところでミートした打球でした。
かなりの速度である低いライナーになったわけだが、センターの選手は打った瞬間から反応よく前に出てきて、全力チャージ。
正面ではなく、打球のやや右に入り、十分にグラブのある腕のスペースを作り出した。
そこまでして、逆に捕れなければ、体に当ててということがもう出来ないわけですから、大惨事になり得る。
ベンチから見ていても捕られるかなと、一瞬脳裏を過った。最後の最後、速い打球を捕まえきれずに、クラブのすぐ脇を跳ねたボールは勢いよく後方へと弾んだ。
その瞬間に俺は、ドリンクとお酸素の準備に取りかかりましたわね。
チームでも屈指の立派な体格のバーンズだか、毎年20盗塁以上はマークする俊足である。
平柳君やザム君のような軽やかなタイプではないが、重厚でいて爆発力のある力強い快速ぶりである。
1塁を蹴り、2塁を蹴り、3塁に向かう。
ライトの選手がボールに追い付いて、大遠投。
バーンズがヘルメットを吹き飛ばしながら3塁も蹴る。
カットに入ったセカンドから、ワンバウンドでいい送球が返ってきたが、バーンズが速い。
熊が突っ込んできたみたいなスピードのヘッドスライディング。
それでいて、ベースの角をしっかり触りながら、タッチを掻い潜るセンス。
球審の両腕が大きく広がり、バーンズは土の上で大の字になって倒れ込みながら、両腕を空に向かっていっぱいに突き上げたのだった。
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