これはアレのフリですわよね!?

ズカシッ!!



「捉えたー!!ライトスタンドへ、ライナー!!クリスタンテが追う!ジャンプ!!入りましたぁー!!アレッサンドロ・スミス!!両リーグトップとなる先制の12号2ランホームランです!」



マジかよ。軽く流しただけに見えた打球がグイーンと伸びていってフェンスギリギリのホームラン。



ライト後方が狭いですから、そっちに打てればバッター有利になるスタジアム。クリスタンテがフェンス際でジャンプも僅かに及ばす。



他のスタジアムなら、どこでもツーベース止まり感は否めなかったが、すごい弾道だった。




前村君はここまでスコールズに負けないピッチングで、5回までゼロを並べていたが、唯一といっていい、変化球の抜け球をスミスに打たれてしまった。



打順が下がっていくこの回まではなんとか踏ん張ってくれ!という気持ちでしたからねえ。



投手戦の流れの中で、失投を逃さず仕留めた主砲のバッティングにニューヨーカー達は大盛り上がり。



向こうもうちに連勝すれば首位が見えてくる位置にいますから、気合いが違う。



まるでポストシーズンみたいな雰囲気と迫力。たかが2点を取られてしまっただけなのだが、一気に向こうは勢いづいた。



スカンッ!!



4番も続けと強烈な打球はあっという間に俺の頭上を破るツーベース。



この1本で間もなく100球。前村君が降板となった後も、後を継いだリリーバーも勢いに飲まれるようにして連打を浴びてしまい、さらに3失点。



2塁すら踏むことなく、俺が放った2安打と沈黙したシャーロットはニューヨークとの初戦を落としてしまった。




翌日もどんよりとした曇り空の広がるニューヨークの空と一緒で、シャーロット打線も分厚い何かを覆われたよう。



昨日は100右腕、今日は左の技巧派。93マイル前後のカットボールやシンカーに苦戦を強いられていた。



それでも2点を追う5回。平柳君のフォアボール、俺のちょこんなライト前。


バーンズ三振の後、クリスタンテのサードゴロがエラーを誘い、1アウト満塁とチャンスを作り、バッターは5番のアンドリュース。



ガキッ!



「打った!ファースト正面のゴロだ!バックホーム!!さらに1塁へボールが送られる!アウトになりました!」



ガーン!!



初球のシンカーを引っ掛けてゲッツー。



一瞬でチャンスをフイに。



ベンチに戻ると……。



「おい!お前たちはいつになったら打ってくれるんだ!アライだけじゃないか!こんなんじゃすぐに首位なんて明け渡してしまうぞ!」



きっちり7・3分けにした短めの真っ白な髪の毛をビチッと決めているロレンス監督。



クリスタンテが併殺打をかましてしまって3アウトチェンジとなったところで、不甲斐ないチームに、初めてといっていいカミナリというやつを落としたのだ。





監督が怒ると、ベンチがシンと静まり返るのは、日本でもアメリカでも一緒というのが分かった。


普段は白いのに、お酒を飲んだかのように真っ赤な顔をするボスを眺めながらほっとひと安心。


それと同時に、もっと何かしなければという思いに駆られてしまうのは最早病気である。




ゆけっ!



もう1人の俺が言う。




ベンチを蹴飛ばした勢い誰かのグラブからボールが転がり落ちる最中。


ロレンス監督の目の前、ベンチを出てすぐのところで、流し打ちとヘッドスライディングとみのりんへのスキンシップの次に得意なやつを発動した。




土下座。



文字通り、土の上である。



「この度はうちの若いのが申し訳ありません!!もう少し待って下さったら、なんとかしますので、どうかご辛抱の方を……」



と言って、俺は額を土の上で擦りつけるのである。



ニューヨークのスタジアムは、やはり日本のと比べてグラウンドと客席の距離が近いですから、ベンチの前で俺が伏せしていれば、何事だと、すぐに気付かれてしまう。



すると段々……。



「見ろよ!ジャパニーズ土下座だせ!」



「アライが何かやっているぜ!」



などと、みんなスマホなどを手にして撮影を始めるのである。



無論、テレビ中継のカメラも……。



土下座の最中、チラッと確認してみれば、土下座する俺の格好がバックスクリーンに写し出されている。



これでもかと。



しめしめ。



俺の狙いは、土下座で注目を集めた後に、ベンチ横にある広告のモノマネをすることになったのだ。




カリブードーナツ。



アメリカなどで広く展開しているドーナツチェーン店である。




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