人気モデルと結婚しているだと?
そんな男も30歳になり、人気モデルと結婚し、子供も生まれた。
心身共に成熟するお年頃ですから、そろそろ年俸が爆発していくような活躍をと誓ってシーズンに入ったようで、準備万端。
スプリングトレーニングから充実した仕上がりを見せて、自身初となる開幕投手を担い、見事勝利した。
それから少しツキのないピッチングが続いたが、ここまで7登板で4勝1敗。
そして今日は、より一層鋭さが増したようなピッチングだった。
ビシュッ!!
ズバァンッ!!
「ストラックアウーッ!!」
「素晴らしい、バックドア!!右バッターの外からシンカーでストライクゾーンギリギリ。バッターのブラッグスは、2打席連続で同じやられ方です」
「今年のウェブはこのボールの精度が抜群ですね。彼が95マイルに届かないファストボールで通用しているのはこのシンカーとのコンビネーションがあるからですよ」
「なるほど。早くも2アウト、また追い込みました。また外だ!空振り!94マイルのフォーシーム!たまらずバットが回ってしまいました!アナハイム、この回もウェブの前に抑えられています!」
バックドア。
バッターのアウトコースから曲げてストライクゾーンを狙う球。
ウェブはこのボールの使い手であった。
日本のピッチャーも、カットボール、ツーシーム、ワンシーム、シンカー、シンキング系などと、バッターの手元で動かすボールを操るが、バックドアやフロントドアと言われるボールの使い手はまだいない。
居るには居るが、それをピッチングの大部分に組み込むようなやり方をするピッチャーがまだ対戦の経験が少なかった。
だから今日の試合は、レフトからナイピ、ナイピ!と叫びつつも、俺だったらこういう風に打つねとか、このカウントだったら、この球種に絞っておくね。などと、そんなことを考えながら守っていたら次の打席で……。
カキッ!!
「いい当たり!ナイスバッティング!これがアライの流し打ちです!ライト線に落としていきました!シャーロットはこれが初ヒットです」
「狙っていたのでしょうか。初球から難しいコースにバットを出していきましたが、計算されたかのようにヒットゾーンに打球を飛ばしていきました。今日のシャーロット打線はずっとこのボールに苦しんでいますのでね。なんとか突破口にしたいところですが……」
バーンズはセンターフライ。クリスタンテは引っ掛けてサードゴロ併殺打であっという間にチェンジ。
ウェブを援護したいのは山々だが、向こうの先発ピッチャーの調子もいい。試合は膠着状態に入ったと思っていたのだが……。
カキィ!!
「いったか!?ロンギーの打球!!レフトへライナー………入った!!入りました!!打ったロングフォレストはガッツポーズ!!貴重な先制ホームラン!!6回1アウトから試合が動きました!!」
スイングする瞬間に、頭が後ろにぐっと残った状態で、下半身と上半身が連動して強く回った中で、ボールを捉える理想的な打ち方。
毎年、野球教室でずっと俺が言ってきたやつ。
ちょっと打球が低いかなと思ったが、打球速度がダンチでありまして、レフトのフェンスのスレスレを抜けるようにして、スタンドに突き刺さっていった。
どうだ、見たかいと。開いた右手を顔の高さまで上げるような仕草をしながら、1塁ベースを回っていった。
そしてご帰還。
ベンチの奥で座っていたウェブが立ち上がり、握った左手を帰ってきたロンギーに突き出す。
「今日はうちの連中、バットを持ってねえのかと思ったよ」
「早く点を取り過ぎると、お前は油断するだろ」
ゴツッと音を鳴らしながら、2人はグータッチ。
ようやく手にした1点が恋女房の見事なホームランですから、ウェブもまた1段と気合いが入ったピッチング。
唯一危なかったのは、8回先頭に放たれたレフトオーバーの打球のみ。
ロンギーのホームランを彷彿とさせる打球だった。
しかしこちらの打球は、若干ドライブが掛かる形となり、惜しくもオーバーとはならずフェンスダイレクト。
レフトのわたくしは、バッターランナーの足を計算に入れた上で、下手にジャンプしては取りにいかず。
瞬時にクッションを計算し、ベストのポジションで跳ね返った打球を掴んで平柳君にぶん投げた。
結果、ツーベースにはならず、慌ててバッターランナーは1塁に戻り、シングルヒット止まり。
完璧に打たれてはしまったが、先を考えた頭脳的なプレーに、ウェブから拍手を貰い、センターのバーンズからも褒めてもらった。
アメリカの野球ゲームでも、フィールディング力が100ポイント中の52。スローイングの正確さが、58。アームストレンジ。肩の強さがちょうど50という微妙な評価でしたから。
是非、ポジショニング力とは守備頭脳的な能力も搭載して欲しいですわよね。
1点を追う8回ですから、敵さんはチーム1の俊足を代走に送り、バントの匂いを醸し出しながらスティールを試みてきた。
バズーカ炸裂。
立派なお髭のお父さんからの鋭く、正確な送球。2塁ベースに入った平柳君のグラブにドンピシャ。
いいスタートを切ったランナーを間一髪のところで刺したのだった。
デカい。デカすぎる。
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