底辺配信者の私、ダンジョンの隠し部屋でたまたま最強のドラゴンと友達のショタと出会ったら、めちゃくちゃバズっちゃいました〜ようこそダンジョンへ!〜

ドアノブ半ひねり

第1話 隠し部屋と黒龍

「こんにちはー!ハルハルchへようこそ!」

 私は、ダンジョンの入り口で、フワフワと浮くカメラに向けて笑顔で話しかけた。

 「今日もいつも通り、ダンジョンの上層を探索していくよー!」


:こんハルー

:こんー


……同接3人。……はあ。

 私、小野寺おのでらハルカ(17歳)は、俗に言う底辺配信者だ。1年前から、流行りに乗っかってなけなしのお金で機材を買いダンジョン配信を始めたはいいものの、何も結果を残せずにいた。ーーまあ、自分の実力がないからだと思うんだけどね。


(まぁ、見てくれている人がいるだけありがたいし、切り替え切り替え!)

そう思いながら、再びカメラに話しかける。

「じゃあ、早速前に進んで行こうと思います!みんな応援しててねー!」



:おおー





……うーんコメントすっくな。……やっぱり、寂しいなあ。


 


「あ、モンスターだ。あれは……ゴブリンだ!

ネックレスは……うん、ちゃんとつけてるね。」

 私はそう言いながら、目を細める。

遠くには、緑の肌に大きな鼻、そして醜い容姿ーーゴブリンがいた。


「よーし、じゃあいきます!本日初魔法!

 ーー《風刃ウィンドスラッシュ》!」

 

 私の手から放たれた風の刃は、見事命中し、

ゴブリンの身体を切り裂いた。



「ギギェ!!」

ゴブリンは奇声をあげながら、赤黒い血を撒いて倒れていった。ーーうへぇ……

 「やっぱこの感じは慣れないな……。」

そう呟きながら、倒れたゴブリンに近づく。


 「……よし、これだな。」

ゴブリンの首から、宝石がついたネックレスを剥ぎ取る。


 「よし!依頼主から頼まれたネックレス、見事取り返しましたー!!いえーい。」

そう言い画面を確認する。コメント……なし。

同接……1人。さっきより減ってる……。あ、0になった。


「はぁ……一度でいいからバズりたい……。」

 そう呟く。



 


 ふと、横の壁に目を向ける。

なんの変哲もないダンジョンの壁、の筈だった。

「あれ……こんなところに扉なんかあったっけ?」


 そこには、石製の扉が佇んでいた。

扉には花の絵ーー紫陽花かな。の絵が彫られている。


 (いや、ここには何回も来てるんだ。こんなところに扉なんかなかった筈……

もしかして、……隠し部屋ってやつ?こんな探索され尽くされたダンジョンに?でも、だとしたら……)


 画面を確認する。配信は……ちゃんとついてる。同接は……1。よかった、誰も見てないわけじゃない。

(バズるチャンス、かも……。)

そう思いながら、私は扉に手をかけた。





 扉を開けた先は、だだっ広い空間だった。

ーー宝箱があるわけでも、モンスターがいるわけでもない。他の部屋に通じていそうな扉もない。

 足を踏み入れ、壁や天井を見渡すが……目立つものは何もない。何かが起きるわけでもない。ーーなんだ。無駄足だったか。


 そう思いながら配信画面を見ると、

ーー同接5人!!ちょっと増えてる!

「あっ!こ、こんにちはー!今、隠し部屋?を見つけたみたいなんですけど、何もないんで、これから戻りまーー」





扉が消えていた。跡形も無く。





「え、うそうそ。うそでしょ?なんで……ここにあったはずなのに……」


ーーどぷん……ーー


背後で、何か音がした。


粘度の高い液体がうごめくような音。

ーーこの音は……



振り向く。



 この広い部屋の遠く、一番向こう側に、液体の塊ーースライムがいた。

 ただし、ーー私の身長の二、三倍ほどの大きさで、大きな眼球のようなものが何個か身体の中に浮いていた。


「なに……あれ。初めて見た、あんな大きなスライムーーほんとにスライムなの?」

 どうやら、あのスライム?は、上から落ちてきたようだ。天井には、あのスライムの一部のようなものがこびりついている。


(あれ、モンスター?……だとしたら、あんなおっきいのに勝てっこない。すぐに逃げなきゃ…でも、帰り道が……)

コメントに目を向けた。


:なにあれ

:今そこに助けをよびます

:にげてー

:キモすぎだろwww

:初めて見たあんなの

:でっか



ーーみんな見たことないって言ってる……もしかして新種?……それに、助けを呼んでくれるみたい……でも……


(助けを呼ぶって言われても……扉が消えてる以上、扉があった場所に誰かがたどり着いたとしても、そこからこの部屋に入れるかどうか……)

 


そのとき、突然、スライム?が上に大きく伸びた。

ーー次の瞬間、私に向かってを飛ばしてきた。

 反射的に避ける。

 


 私が避けたは、壁に付着し、じゅうじゅうと音をたてて、壁を溶かした。



 壁についたものを見る。

(身体の一部を飛ばしてきたんだ……!)


私は悟った。

 ……あれに当たれば、確実に死ぬ。頑丈なダンジョンの壁を溶かすほどなんだ。



ーー身体がグズグズに溶けて、死ぬ。



「《風刃ウィンドスラッシュ》……!!」

身体が勝手に動いていた。


魔法がモンスターに命中する。

ーーけれど、スライムには傷一つついていなかった。


「うそ……!私、これ以上強い攻撃なんかもってないわよ……!!」



(くそ……逃げようにも、唯一の出口はきえちゃったし……)

 コメントを見る。


:諦めないでー

:もう無理じゃね

:壁溶けてる!?

:お疲れ様でした

:貴重な映像データにはなったな

:壁叩いて助け呼べ!早く!

:頑張れー

:酸で死ぬの痛そう


(うわ……同接32人……初めて見たこんなコメントの量……でも、死んだら意味ないか……)

ーー死ぬ直前まで配信のこと考えてるなんて、

我ながら呆れるわー……

 絶望し、諦めかけた、その時。







「うーん、やっぱり魔力暴走起こしてたか。」

突然、頭上から声がした。



(え?)

驚き上を見上げると、私の頭上に、部屋に入ってきた時と同じーー紫陽花の絵が彫られた扉が天井に対して平行にはりついていた。

ーーあんなの、入ってきたときあったっけ?


:なにあれ?

:入ってきたやつとおんなじじゃん

:誰の声これ?

:子供の声?

 

 すると、頭上の扉がギィと音をたてて開き、

中から、ローブを纏った男の子が落ちてきた。彼は、私の目の前に着地する。


:誰!?

:背ちっちゃ

:子供ってダンジョン入っていいんだっけ?

:いや、許可とった人間だけ

 

 彼は、私の存在に気づいていなかったようで、私の方を向き、目を大きく見開いてから

ーー私ではない、誰かに向けて叫んだ。



「え!ねぇオタロー!!人、人いるよ!!

……“うえぇ!?”じゃないよ!もう!ここの扉しまい忘れたのオタローじゃん!

……とりあえず助けるから、準備しといて。

……文句言わず、早く!」


:誰に向かって話してんのこの男の子

:怖

:オタロー?

 

 ローブを纏った少年は、はぁとため息をつき、私の方を振り向いて言った。

「ごめんなさい。怖がらせてしまって。今、何とかしますから。」


そういい、少年はその場にしゃがみ、床に手をついた。

 手をついた場所から、床に沿って徐々に巨大な扉が形成されていく。

ーー魔法のようだ。


コメントを見ると、

:何してんの!?

:魔法?

:魔法っぽい

:扉作る魔法?



:なんか絵彫られてない?



床の扉の方に目を向けると、

ーー確かに、絵が彫られているのがわかった。


(あれは……ドラゴン?)


やがて、扉は完成し、

ーーバタン、と音を立てて開いた。



 すると、中からは、黒い鱗を纏い、鋭く黒い爪が指先についた巨大な腕がぬるりと出てきた。


 それに続いて、その腕の主の体や足、頭が扉を押し広げるように出てくる。やがて身体全てが扉の外に出て、扉は音もたてずに消えた。


(嘘でしょ、あれはーー間違いない。モンスターに疎い私でもわかる。

ーー黒龍ブラックドラゴンだ。


少年は言う。

「よしオタロー、ブレスお願い!」


少年の声に反応し、黒龍は口を開き、のけぞった。


ーー次の瞬間、黒龍の口から、青い高温の炎が吐かれた。

それは、ゴゴウと音を響かせながら向こうにいた大きなスライムの身体を、すごいスピードで焼き溶かしていった。


 スライムは、負けじと身体の一部を飛ばしていたが、黒龍の身体に届くまでに燃え尽きるか、届いても、黒龍に傷をつけることすらなかった。



(なんてすごい熱波……!!私の魔法で傷一つつかないあのスライムの身体をあんなに容易く……それに、あのスライムの酸にすら傷無しだなんて……)


:すご

:やばい

:操ってるの?

:本物?

:黒龍じゃん

:これバズるな

:今めちゃくちゃ話題なってる



:右目に傷ある



ーー黒龍ブラックドラゴン

ドラゴンの中でも、最高レベルの火力と防御力を持ち、もしダンジョンの中から外に出た場合には国が滅ぶと言われている。


 あるとき、黒龍が中層に突然現れたことがあった。とあるSランク探検者が同じSランクの人間を集めて討伐しようとしたが、しばらくしてボロボロの状態で帰ってきた。

 

 そのパーティが三日三晩戦い、アイテムを全て使って、やっと程度しかできなかったとパーティのリーダーは話した。

ーーその個体は、 《隻眼の黒龍》として冒険者者の間で特に畏怖されている。


(突然現れてはどこかへ消えると噂されていたけど……あの少年は、その《隻眼》を従えてるっていうの?そもそも、モンスターを従えた人なんて今まで一人もーー)


そのとき、少年が黒龍に呼びかけた。

「ストップオタロー!もう充分だよ。」


 黒龍は少年の呼びかけを聞いて、炎を吐くのをピタリと止めた。


 スライムは身体が溶けて最初のときよりもかなり小さくなり、身体中に浮いていた眼球のようなものも消え、通常のサイズに戻っていた。

ーー攻撃をする様子もない。おとなしくなっている。



 少年は小さくなったスライムに近づいて、そっと腕で抱きかかえた。

「よしよし……ごめんね。痛かったね。

 ……もう大丈夫だからね。」

少年がそう言うと、スライムはそれに反応したようにプルリと揺れた。

(モンスターと、会話してる……?)

 彼は、腕にスライムを抱えたまま、こちらに戻ってくる。





少年が申し訳なさそうに言う。

「すみません。巻き込んでしまって。僕はリンと言います。そして、こっちのドラゴンはーー」


 黒龍は、その言葉を待っていたと言わんばかりに胸に手を当てて、嬉々として




「申し遅れました!拙者、ドラゴンのオタ郎と申しますぞ!好きなものはアニメ!よろしくお願いしますぞ!」


ーードラゴンが、しゃべった。オタク口調で。

:えええええええ!?

:?????

:ドラゴンってしゃべるんだーへー

:普通しゃべんないよ

:オタ郎?!名前オタ郎?!

:あの隻眼の黒龍が?!アニメ好き!?

:こわいって

:何かの魔法で喋らせてんの?

:というかアニメ観るんだ


 私は開いた口が塞がらなかった。

え?いや嘘これ現実?

ーーと、とりあえずなんか喋んなきゃ!


「あの、どうやってリンさんは、オタ郎さん……黒龍を従えてるんですか?」


:あ、それ知りたい

:多分何かのスキル?

:スキルだったら一応説明はつくな

:だったとしてもとんでもないけどな

:今までモンスター従えたやつなんかいない

もんな?


(コメントの通り、私もおそらく彼のスキルだと思うわ。でも、そんなとんでもないスキル……一体どうやって手に入れたの……?少なくとも、小さな子供が持つものじゃないわ。)


 しかし、黒龍ーーいや、オタ郎さんの言葉は、私たちの予想とは違うものだった。

「ムッ?いや、拙者は従っているのではありませんぞ!ーー拙者とリン氏は、唯一無二の親友なのです!上下の関係とは比べられないほど、堅い友情で結ばれているのですぞ!」

ーー友情?


「……スキルじゃないんですか?」

「スキル?何を言っているのかわかりませんなぁ。友情だといっているじゃないですか。」

ーーその瞬間、コメントが沸いた。


:ええええええ!?

:ええええええええええ!?

:黒龍が親友!!?

:国滅ぼすレベルのモンスターと!!??

:こんな男の子が?

:まじかよ!?

:どうやって友達になったんだ??

:こわいって


 オタ郎さんは続ける。

「拙者が仲間のドラゴンにいじめられ、はぐれドラゴンとして孤立していたところを、リン氏が話しかけてきてくれたのです。

 彼は、拙者の趣味や話をけして否定せず、いつも楽しそうに聴いてくれるのですぞ!ーーあと可愛い!とにかく可愛い!町に出れば15人中30人が振り向き見惚れるレベルのーー」


 そのとき、少年ーーリンは恥ずかしそうに叫んだ。

「やめてよもう!オタローは僕のこと買い被りすぎ!」


:照れてるやん

:可愛い

:かわい

(可愛い……。)


すると、リンは私の背後を指差した。

「……扉、創っておきました。……変なことに巻き込んでごめんなさい。ーーそれじゃ。」

そういい、彼は黒龍を連れ、私に背中を見せてどこかへ去ろうとしていた。


(はぁ……もうなにがなんだか……ひとまず、一旦配信切って……)


 私が、配信停止ボタンを押すのと、ーー同接が1000人を超えているのに気づくのは、ほぼ同時だった。




「待って!」

 ダッシュで彼の背後に近づき、咄嗟に手を繋いで引き止める。

ーーその拍子に、彼のローブのフードが下がり、顔が露わになる。黒龍の言っていた通り、かなりの美少年だ。綺麗な青色の瞳に黒い髪をしている。




「うわ!な、なんですか?」


「オタ郎さんの他にも、……ハア……モンスターの友達がいるの?……ハア……」


「……いますけど……それがなんですか?」


 息を整えてから言う。

「私、ハルカ。……配信者よ。」

リンは不思議そうに首を傾ける。

「はいしん?」

「そう。……配信知らない?えーと、簡単に言うと、自分の好きなことややってることを全世界に観てもらう……みたいな。」

「へぇー……そんなのがあるんですね。

……それが何か?」

ーーよし、食いついた。


「私ね、……。……だから、モンスターと友達になりたいなー……って思ってて。……その様子を配信して、ついでに世界のみんなにモンスターの魅力を知ってもらえたらなー……って。あの……だめかしら?」


ーー私の言葉を聞いたリンの表情がみるみるうちにパアアと明るくなる。

 そして、私に握られている手をブンブン上下に振り回しながら言った。

「ほ、本当ですか!?やった……今まで、モンスターのこと嫌いな人ばかりだったから……

あの、本当に嬉しいです!」

 想定外の反応の大きさに、私は驚く。

……それと同時に、に罪悪感を覚えた。


「うん……えっと……じゃあ、明日の午後1時に、第二層の噴水のある広場で待っててね。」


「はい!わかりました!……じゃあまた!」

そういい、少年は新しく創った扉に、私に手を振りながら笑顔で入っていった。

……そのあとを、黒龍が巨大な体を無理やり押し込むように入っていく。


 誰もいなくなり、静かになった部屋で、

私は考えた。


(……ベテラン探索者が黒龍と友達ってこと、それに魔法の扉。これは、……めちゃくちゃ

あの子には悪いけど、こんなチャンス、二度とないものーー利用させてもらう。

私、有名になりたいもの。)





ーーハルカは、知らなかった。《モンスターと会話でき、未知の魔法を使う少年》と遭遇した配信者として、ダンジョン業界を騒然とさせていること。チャンネル登録者が、既に2万人を超えていることを。



  

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

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         ボルゾイ。





































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