34.隣国の隠しきれない欲望
先ほどの不安を含め、私が占った内容を全て話した。王妃様は顔色を青くして、俯く。その表情は暗かった。
「実は……プルシアイネン侯爵に縁談が来ているの」
はぁ……お相手は私ですよね。今さら何を? と首を傾げた私に、王妃様は首を横に振った。
「違うわ、あなたではないのよ。イーリス」
「え?」
いけない、素が出ちゃった。慌てて口を手で覆う。王妃様は溜め息を吐きながら、漏らしてはいけない話を始めた。
宮廷占い師は機密に触れる職種なので、誓約を交わしている。王宮で見聞きした話を、外部に漏らさない。ちなみに我が子爵家の使用人や叔母様達も同じ誓約を結んだ。そのため身内には話しても構わない。そもそも、占い師にも守秘義務があるけれど。
「隣国アベニウスはまだ諦めていないようで、鉱山を所有するネヴァライネン子爵令嬢と第九王子殿下の政略結婚を打ち出してきたの」
うわぁ……どうしても鉱山が欲しいんだな。王家直轄領だから、私が王子と結婚しても土地は置いて行くんだけど??
「それと同時に、宮廷占い師も諦めきれないのね。我が国の宰相とアベニウスの第五王女殿下の婚約も打診してきたわ」
図らずも、成立した婚約の間を割く形だ。王妃様は大きく息を吐いて、きゅっと唇を引き結んだ。
「我が国はアベニウス王国ほど大きくない。でも臣下や領地を差し出して生き延びる、醜い手は使わないわ」
ああ、なるほど。だから占いを所望なさったのね。私に政は分からないが、陛下や王妃様はこの要求を突っぱねる気でいる。戦争か、解決か。最初の占いで出たのは、この暗示だろう。
でも今占った結果は少し違う。結婚の打診以外に、隠しきれない悪巧みが表示された。つまり、この婚約の申し出の裏に、盛大な策略が仕込まれているのだ。
「王妃様……ご提案があります」
策略や謀略は私の得意分野ではない。ただ安全と思われる方向を示せるだけ。なら、これでいいよね。頷いて提案を聞いた王妃様の表情は、少しだけ柔らかくなっていた。
「わかりました。手配しましょう」
場はすぐに設けられた。王妃様の私室から少し離れた、王族用の居間を利用する。食堂でも良かったのだけれど、机が広くて遠いらしい。国王陛下と宰相閣下、王妃様……国の重鎮が揃った部屋で、私はカードをすべて広げた。
「国王陛下、王妃様、宰相閣下の順番で触れてください」
関係者全員を交えて、フルカードで占う。カードが悪巧みがあるよと教えてくれたのなら、解決の糸口も見つかるはず。占い師としてできる、私の最大の協力がこれだった。
わかったと承諾した陛下が、いつもより多いカードを混ぜる。念入りにカード全てに触れようと時間をかけた。その次の王妃様も同じ、でもルーカス様は違った。一度集めるようにカードを寄せて、手を載せて目を閉じる。まるで祈るような仕草だった。
「では、始めます」
おそらく、私の一生一度の占いになるだろう。緊張して手が震えた。
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