第3話 彼女の秘密
最近、悪役令息であるシアン・プレアデスが妙に近い気がする。気が付くと近くにいて真顔でこちらを見ている。
ハッキリ言って、怖い……ホント、いったい何なの？？
あの人も
――
ステラ・アステリア。
それが私の名前。
私が転生者だと気が付いたのは、学園に入る前の日だった。
朝、目が覚めると、急に頭が割れるように痛くなり、悶え苦しんでいたら、前の世界の記憶が甦ってきた。
断片的ではあるが、その日一日をかけて私が前世にやっていた乙女ゲームのキャラクターの一人であることを認識した。
ただ、困ったことに、攻略対象やストーリーなど思い出せない部分が多かった。
そのゲームの名称すら思い出せなかった。
学園に入り、二年ほどかけて少しずつ思い出してきて、自分が
その他にも攻略対象、ストーリーや設定などもわずかだが思い出した。
一つ気になるのは、この世界の強制力。
私が気付いていないときは、
これが起こると、とても後味が悪い。自分の気持ちとは裏腹な言葉と態度を
まだ、思い出せていないのだ。
この先にあるエンディングを。
〜・〜・〜
攻略対象の一人。――シアン・プレアデス。
『冷色の貴公子』と呼ばれており、整った顔に、まるで仮面を被ったかのように変わらない表情の御令息。
水魔法が得意な家柄で、その容姿が寒色系だから……なのか、冷たい態度と頭脳明晰で一分の隙もない言葉遣いからなのか『冷色』と言われている。
私、ステラとは幼馴染みなのだが、打っても響かない態度に彼との交流はなかば諦めていたように思う。彼自身も私との交流を望んでいるようには感じられなかった。
――ところが。
学園に入ってしばらくすると彼が寄ってくるようになった。話しかけるとかそういう直接的なものではなく、ただ遠くから眺めて観察しているという感じか。
本当に、気味が悪い。
近寄りがたいオーラを放っているから普段は誰も寄り付かないが、彼は公爵家次男。
あの整った容姿だし、密かに人気がある。
早く誰かと婚約してしまえばいいのに。
まあ、攻略対象だから、それは仕方がない。
最終学年になってから変化があった。
転入生である。乙女ゲームの典型。ゆるふわちゃん。ひょんな出来事があり、突然平民から男爵令嬢になっちゃいましたっていう、物語ではありがちな設定の、それはそれは愛されるであろう可愛らしい女の子。
透きとおるような銀色でふわふわな髪。それに合わせたような薄いグレーの瞳。
何色を着ても似合いそうな色は
……うっわ。ゾワゾワした、ゴメンナサイ。
その点、私は寒色系。――といっても『冷色』ではなく。風魔法の得意な御家ですので。もちろんグリーンですわよ。うふふ。
髪色も気に入っている。まるでトパーズのようなイエローゴールド。そして瞳はエメラルドグリーン。なかなかでしょう？ ふふっ。
格好良くて、さりげなく優しくて、優秀な兄。そんなの、自慢せずにいられるわけがないでしょう？ 表立ってはしませんけど。
そういえばシアンの兄アトラス様も兄さまと同じ歳で、第一王子エウロス殿下とトゥレイス家のザニア様とも御学友だった。
皆様、二十一歳ですが婚約者がいるのは第一王子だけって、どういうこと？ ――とお思いでしょうが、こちらは例の物語の一環でして。
だって！！
お願いだからヴェガ兄さまだけは選ばないで欲しい。ううっ。
どうせ私は、第二王子に婚約破棄される運命なのだから。結婚しないなら、このまま公爵家でヴェガ兄さまとずっと一緒にいたい。
三人とも王城勤めだし、
まだ物語は始まったばかり。
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