初めての撮影3

「は、恥ずかしかったです〜」


 麗は仮面を外すとほんのりと赤い顔を画面で扇ぐ。


「でもなんだかんだ途中は撮られてること忘れてたろ?」


「まあ……そうですね」


「そのうち撮影にも慣れてくるから」


「な、慣れるほどやるんですか?」


「うん、もっとたくさんやるよ?」


 それどころかこの先には生配信すらするつもりである。

 今のうちに慣れてもらいたい。


 多少恥ずかしさがあるのもいいかもしれないが撮影に緊張して力を出せないなんてことになるのは困る。


「ひえぇ……」


「上手くいけば……」


「上手くいけば?」


「神様だって見てくれるからな」


「なんですか、それ?」


 麗は将暉の言葉を冗談だと思って笑う。

 しかし将暉は知っているのだ。


 神様が見ている、それは全く冗談ではないということを。

 今スマホで撮影したこの動画も全て神様のため、将来のためなのである。


「後は話題になればお金も手に入るぞ」


「お金は……まあ、あればいいものですけどね」


 会話しながら将暉はゴブリンの死体をさらに切り裂く。


「うぅ……よくそんなことできますね……」


 そして切り裂いた死体に剣を突き刺して中から石をほじくり出した。

 麗はその様子から目を逸らす。


 ゲートダンジョンに現れるモンスターには色々と利用価値がある。

 皮や爪、牙の他に肉などモンスターによるが色々と使える。


 そしてモンスターの中でも最も利用されているものが魔石と呼ばれるものでモンスターの体内にある魔力の塊が魔石である。

 ゴブリンは基本的に素材が使えるモンスターではない。


 けれど一応魔石は持っていて、価値はかなり低いが一応売り物にはなる。

 そのためにゴブリンは倒してもそのまま持ち帰らずバラして魔石だけを持ち帰るのだ。


 あまりこんな風にバラして魔石だけほじくり返すことなどないが状況によってはモンスターの解体をすることもある。

 血にも少しは耐性が欲しいところだと思う。


 逆に麗は将暉も初心者なのによくこんなことが出来ると感心までしていた。

 将暉はほじくり出した魔石を布を使って拾い上げて血を拭き取って持ってきたビニール袋の中に入れる。


「そういえばなんだけどさ」


「なんですか?」


「パソコンって……持ってる?」


 ここまで順調にきていたから最後の段階を将暉は忘れていた。

 撮影して終わりなんてことはない。


 見てもらうためには動画を投稿しなきゃならない。

 けれどただ動画を投稿するだけなのもいけない。


 基本的には将暉は撮影しっぱなしにしていた。

 このまま投稿してしまうと冗長な移動時間や間違えて名前を呼んだりした時のことがそのまんま見られてしまう。


 これでは視聴数も伸びない。

 ある程度編集してモンスターと戦っていない時間などはカットしたり、ゴブリンの死体もモザイク処理などしてマイルドにしなければならない。


 回帰前も将暉は配信することがあった。

 配信を始めた時にはもうすでに生配信が普通だった。


 動画などの編集を任されたこともあるがそれも将暉のものではなく用意されたパソコンを使っていた。

 回帰してきた時なんかスマホすらバキバキの古いものを使っていたのにパソコンなんて持っているはずがない。


「大学でも使うのでありますよ」


「じゃあ動画の編集に使いたいんだけどいいかな?」


「あっ、はい」


「ありがとう。じゃあゲートダンジョンを出ようか」


「ふぅ……なんだか疲れましたね」


 将暉と麗はゲートダンジョンの入り口まで戻る。

 渦巻く光のような不思議なゲートがそこにはあった。


 その光を通り抜けると外の世界に戻ることができる。


「時間は……中途半端だな」


 昼には遅く、晩ごはんには早い。

 お昼はコンビニで買ったものを食べたのでいいとして、晩ごはんを考えるにはまだ明るい時間だった。


「汗を流したいですね」


 朝から来てゴブリンを探して歩き回り、ゴブリンと戦った。

 ちょっとだけど返り血を浴びたりもしたので洗い流して着替えたいと考えていた。


「まずは……覚醒者協会に行こうか」


 麗の気持ちも分かるが時間を考えると先に覚醒者協会に行きたいなと将暉は思った。


「その後でも大丈夫かな?」


「何しにいくんですか?」


「窓口が開いてる間にこれを売ろうと思ってね」


 将暉はゴブリンの魔石が入ったビニール袋を上げる。

 モンスターの素材は覚醒者協会やモンスターの素材の買取をしているところに持ち込むのが普通である。


 覚醒者協会と素材買取所ではそれぞれメリットデメリットがある。

 覚醒者協会で買い取ってもらえばその査定などは早く、買取り金額などぼったくられることもない。


 買取の手数料も多くの素材買取所よりも低くて利用しやすさもある。

 けれどその分買取り金額はやや低めの査定になる。


 さらに一応お役所のようなものなので窓口が閉まるのが早いのだ。

 一方で素材買取所は覚醒者協会よりも遅い時間までやっていることも多い。


 買取り金額が高かったり依頼すればゲート近くまで素材を引き取りに来てくれるところもある。

 デメリットは手数料が高かったり相手によっては足元を見てくることもあるのだ。


 信頼できないような素材買取所や適正な許可を得ていないところまであってその見極めは難しい。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る