神様、俺があなたの推しを配信します〜ダンジョン配信するので少しは俺にも世界を救うための投げ銭をください〜

犬型大

見ているのは誰だ1

「これは……誰も見ない最後の配信である。

 もし、誰かが見ているとしたらそれは……お化けかなんかかな?

 だってみんな死んでるもんな」


 画面をタップして動画配信アプリを起動させる。

 そして配信モードにしてバッテリーも少ないスマホのインカメラを自分に向ける。

 

 レンズも割れてるし茶色い砂にまみれていてちゃんと映っているのかも怪しいけど画面に小汚い自分の姿が見えていたので写ってはいる。

 適当な石にスマホを立てかけて手を広げながら後ろに下がる。


「人類は滅亡した」


 周りを見渡す。

 人っ子1人おらず、荒れた茶色い大地が広がっている。


 あとはたくさんの死体。

 人のものだけではない。


 人とモンスターの死体。

 共に戦った戦友も、名前も顔も知らない仲間も、全員死んだ。


「満足か?

 人類が滅ぶところを見て、お前らは満足なのか?」


 人類どころの話ではない。

 地上にいる全ての生き物が死んだ。


 もう荒廃した土地しかこの世界には残されていないのだ。


「俺は宇佐美将暉だ。

 どうだ、クソ野郎?」

 

 誰に向けての配信でもない。

 だって見ている人はいないのだから。


 あえて言うなら神に対してかもしれない。

 助けも希望もなくこの世界が滅亡することただただ見ていただけのいるかも分からない神様ってやつに最後に文句でも言ってやりたかったのかもしれない。


 もはや涙も出ない。

 希望もない。


「ハッハッハッ!

 ようやく最後の1匹になったのか!」


 悲嘆に暮れる将暉の耳に愉快そうに笑う声が聞こえてきた。


「……まだいたのかトカゲ野郎!」


 将暉が振り返ると空から翼を広げた男が降り立っていた。

 しかしそいつはただの人ではない。


 翼があることもそうだが裸の上半身や首元にウロコが見える。

 竜人族。


 偉大な竜の血を引くらしい種族であり、人類にとっての最大の敵。

 将暉たちが戦って全滅し、全滅させたと思っていた相手だった。


「残念だったな。

 お前の同族もご覧の通り全滅だ」


「ふふっ、はははははっ!

 何を言う。

 私がいるではないか」


 竜人族は将暉の言葉に腹を抱えて笑う。


「なんだと?」


「ここにいたのは確かに優秀な戦士たちだった……しかしまだ我が同胞はいる。

 そして私という優秀な血が残っている。

 ここまで荒れてしまったのは残念なことであるがお前らがいなくなった後は私がここを貰い受けることになる。

 ククク、他の戦士もいないのだ、全てのメスを統べ、私の国を築く。

 ここから我々の新たなる歴史が始まるのだ!」


「そうか……じゃあ、お前を殺して竜人族もしまいにしてやるよ!」


 将暉は剣を抜いて竜人族に切りかかった。


 パキン。


 竜人族の体に当たった将暉の剣が折れてしまった。

 竜人族は竜としての性質を引き継いでいて体の一部が鱗で覆われている。


 魔力を込めて強化したのにそれでも竜人族は立っているだけで将暉を上回ったのだ。


「ふふ、最後に残されたのがこんな雑魚だとは……」


 傷をつけることすらままならない。

 竜人族は将暉のことを嘲笑った。


「報われないなぁ。

 仲間の死を無駄にして、お前も死んでいく」


 黙れ。


「仲間は命を賭して戦ったのにこんな雑魚が生き残ったのは……逃げ回っていたからか?」


「黙れ!」


 将暉はアイテムボックスの中から剣を取り出して再び切りかかる。


「少しはマシな剣のようだな。

 だが使い手がこれじゃあ……」


 竜人族は剣を手で受け止めた。

 手のひらがわずかに切れて血が滲む。


 この剣は死んだ友人が使っていた物だった。

 他の竜人族と戦い、そして命を落とした勇敢な男が使っていたものだ。


 将暉の使っている剣とは比べ物にならないぐらい良い物なのに少し傷をつけることしかできない。


「やってやるよ……」


 将暉はもう一つアイテムボックスから物を取り出していた。


「なんだ?

 魔力の回復でもするのか?

 そんなことをしても無駄だと思うがな」


 竜人族にはそれがなんなのか分からないけれど丸薬に見えた。

 戦いで消耗した魔力でも回復して戦うつもりなのだろうと思ったが将暉の魔力が回復したところで高が知れていると笑った。


 将暉は丸薬を口に放り込むと一気に噛み砕いて飲み込んだ。


「後悔すんなよ」


「なっ……」


 将暉の姿が消えた。

 竜人族は確かに目の前にいたはずの将暉を見失ったのだ。


「こっちだ」


 竜人族が振り返るとすでに剣を振っている将暉がいた。


「ぐぅ!」


 腕が切られる。

 かわすまでもないと思っていたのに思いの外深く切り裂かれて竜人族が顔を歪める。


「貴様、何をした!」


「簡単なことだよ」


「なに?」


「命捨てたんだよ」


 将暉が飲み込んだのは命力丹と呼ばれる秘薬である。

 その効果は一時的に全ての力を爆発的に引き上げてくれるものだった。


 全ての力を大幅に強化してくれる物であるのだが何の代償もなく効果を得られるわけがない。

 代償は命。


 およそ数分の効果を発揮した後命力丹の使用者は確実に命を落とす。

 竜人族は爪を振るい斬撃を繰り出すが切り裂いたのは将暉の残像だった。


「舐めるなよ!」


 竜人族も空間から剣を取り出した。

 ただものすごく速いのだということが分かれば対処のしようもある。


 将暉の剣を防ぐけれど防いだ手が痺れている。

 力でも押されていた。

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