第21話[真相]崩壊する親子
【表紙】https://kakuyomu.jp/users/akatsukimeu/news/16817330668804704296
私と遊べなくなっていたメイは、書斎で過ごすことが多くなっていたようだ。
メイが読んでいたのは、おばあちゃんの遺品の本だ。
ママはおばあちゃんのオカルト趣味を嫌ってたから、誰も読まなかったものの処分も大変で、そのまま放置されて忘れ去られていた。
本当はママはメイがそうした本を読むのも嫌がっていたようだが、心臓の病気でろくに遊べない幼いメイが、少しでも気晴らしになるのであればと黙認されていたようだ。
「そして僕は、本にまぎれていたおばあちゃんのノートを見つけたんだよ」
それはどうやら英語で書かれていた数冊のノートだったようだ。
メイは辞書を引きながら、おばあちゃんのノートを読んでいた。
「おばあちゃんのノートには、オカルトじみたことがたくさん書かれていたよ」
そしてノートの一つを手に取った時、そこから一通の封筒が落ちてきた。
その封筒には「メイちゃんへ」と書かれている。
メイちゃんへ、もしもあなたが何かを望むなら、蓼原の家が守り続けていたヴァジュラの霊剣を使ってください。
あなたにはその資格があるのです。
ヴァジュラの霊剣は、あなたの大事なものささげることで、あなたの願いを叶えてくれることでしょう。
「僕がヴァジュラに選ばれてたことを、おばあちゃんは見抜いてた」
小さい頃のメイは、そのおばあちゃんの手紙を引き出しにしまった。
「あれ以来、僕は不思議な夢を見るようになった。『ささげよ』って」
メイの身体は日に日に衰弱していくようで、だんだんとベッドの上で過ごす時間が増えているようだった。
「この頃の僕は、もう捨て鉢になってたね。もうこんな出来損ないの身体なんかいるもんかって……」
そしてある夜の事、メイはおばあちゃんのお屋敷にいた。
「心臓の悪い僕が、どうやってそこまで来られたのかは自分でもよく分からなかったけど、声に従うときだけ、なぜか体が軽かったんだよね」
メイは何かに憑りつかれたかのように、屋敷の地下へと降りていく。
たどり着いたそこは、地価の祭壇のような場所だった。
私は目を見開いた。
「おばあちゃんのお家に、こんな場所があったなんて……」
そしてそこにあったのが、禍々しい装飾を施された黄金の剣・ヴァジュラだ。
「理屈抜きで理解できたよ。これがおばあちゃんの言っていた霊剣だと。これに命をささげれば、僕が欲しいものが手に入るって」
『ごめんなさい、姉さん、いっしょにいて上げられなくて……』
メイはその剣を逆手に取ると、涙を流して呟いた。
『もし本当に願いが叶ったら、また一緒に遊ぼう』
メイは咆哮をあげ、そして剣で心臓を貫いた。
メイの身体が、ヴァジュラとともに光の粒子となって消え去った。
「この後の事はちゃんと覚えていないけど、たぶんこのニルヴァーナに取り込まれて、でっかい目玉があった気がする」
メイは『身体が欲しい!自由に動ける身体で、姉さんと一緒にいたいんだ!』と叫んでいた。
ここからは私も知っている、この時ヴァジュラは、中途半端にしか力が解放されず、メイは人間ではなく黒いウサギの姿で現世に戻ったのだ。
「さすがにウサギになるとは夢にも思わなかったから、この姿で姉さんに会いに行ってもいいものか迷ったよ」
ウサギになったメイは、しばらくおばあちゃんの家で暮らしていたようだった。
「あのね、私とメイが内緒で遊んでたことがママにバレちゃって、もう二度と私は立ち寄れなくなっちゃったの」
「へぇ、そう言えば僕が使ってた車イス、お屋敷の前で乗り捨てたんだっけ」
「うん、それでメイはお屋敷に寄ったあと、突然失踪したってことになって、私がママに怒られた」
「……………………」
メイは頭痛でも追い払うように頭に手を当てた。
ウサギのメイは意を決して蓼原の家に向かった。そして家の庭から、中学一年生になった私の事を見ているようだった。
その私が、ふと窓の外を見て、ウサギになったメイに気付いた。
私はぼんやりと見ているだけだったが、ふと目に光がよみがえって、そして家から出てウサギに駆け寄る。
『メイ!? メイだよね!? メイだ!』
私はウサギのメイを泣きながら抱きしめている。
「あれにはさすがに驚いたよ。どうしてウサギになった僕に気付いたんだろうって」
「分かるよ、だって、どんな姿になったってメイはメイだもん。私は双子でしょ?」
「……でも、パパとママには理解してもらえなかった」
「…………うん」
ある時、メイの足取りがつかめず、疲れ切り、途方に暮れた顔のパパとママがケンカをしていた。
私はそんなパパとママを見ていられなくなった。そして言ってしまった。
「ママ、大丈夫。メイは私たちの近くにいるの。ほら、あのウサギさん、メイは真っ黒なウサギさんになって、ずっと私たちのそばにいるんだよ」
ママは驚いたように目を見開き、そして鬼の形相になって私を叩いた。
『アンタは! アンタって子は! どうしてママを苦しめるような事ばかり! 私に何のうらみがあるのよ!』
ヒステリックな金切り声が容赦なく私の心を砕いた。
この時のことは思い出すだけで胸が引き裂かれるほどで、これまで味わったことのない痛みだった。
だが思えばそれはママも同じことだったのかもしれない。
いずれにしてもこの瞬間、ママは私の事を見限った。
私とメイを公平に扱ってきたパパですら、この時から冷淡になった。
「姉さんは母さんのことを恨んだり責めたりしなかったよね、それは、偉いと思う」
「だって私が悪いんだもん。私がメイみたいにしっかりしてれば、ママを追い詰めたりしなかった。でも結局ダメだった。私は何かに甘えることをやめられなかった。だから今度は、美雪ちゃんにすがるようになった」
「そんなことない。僕だって、姉さんに甘えてたのは同じだよ。それに僕は、姉さんと違って、誰かを恨んだり、妬んだりする気持ちを捨てることができない人間だった」
一呼吸おいて、メイは言った。
「僕は、姉さんすら恨んでしまった」
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