第35話 即位の後の論功行賞

 「市民権を貰ったら、イリアディアの里に帰りたいです」


 皇女殿下が15代目のロースタレイ帝国の皇帝陛下にご即位あそばされた後。

それまでの働きに応じて、議会派には褒美や官位が貰えることになった。

議会派の名の通りに、主立った者には『帝国議会』の議席も与えられるらしい。

世襲の地位では無いけれども、初代の『帝国議会』の議員の中に名を連ねたと言うだけで、人々から大きな尊敬を集め、ひいては強い信用にもなる。


 色々と政務をとりまとめているデズ卿が俺達にも希望を聞いてきたので、俺とガブリエルはイリアディアの里に帰りたいと真っ正直に答えた。

「……君達の功績ならば最低で伯爵の位に列し私の腹心になることも出来るのだが」

「じゃあ、あまりにも欲しがらないとかえって謀反を疑われるね」ガブリエルは少し考えるふりをして、「今現在、魔境ゴドノワは魔族の半自治区でしょ?私とアルセーヌを男爵にして、ゴドノワの太守にして下さい。領地として、魔境ゴドノワ全域を下さい」

「それだって無欲にも程があるが。だが、まだ……まあ、良いだろう。しかし……イリアディアの里を治める魔王の了承が必要になる」

「もう呼んだよ。今、この帝国城でエルマーと会っている」

ガブリエルが言うとデズ卿はため息をついた。

「正直な感想だが、君のような逸材を帝国城と私の部下の立場から手放すのはとても惜しい」

「ありがとう。デズ卿もご夫人と仲良くね」

「ならば結婚祝いでも持ってくれば良いものを」

デズ卿はいつものようにどこか慇懃無礼だけれど、少しだけ目元が笑っていた。


 ――今でもほとんどが衰弱して寝込んでいるとは言え、俺達の思っていたよりも数多く、レンベルティンの街の人が助かった。その中にセレナ嬢もいたのだ。もう処女じゃないとかかつて娼婦だったとかそう言う理屈を一切無視して、デズ卿はさっさと彼女と結婚した。

世の中の全てから憎まれ怨敵とされても、たった一人に愛されていればこの人はそれなりに幸せなんだろうなあ……。


 ――ヘルナレアさんは元気そうだった。

久しぶりに会えたユリアリアちゃんもエルマーに抱きついて甘えている。

エルマーが元気いっぱいに、あんなことがあったこんなことがあったと矢継ぎ早に報告しているのを嬉しそうに聞いていたけれど、俺達が近づいてきたら優雅に一礼してくれた。

「礼を言うぞ。おかげで……あれから妾達は衣食住の全てに困ってはおらぬ」

ガブリエルも一礼して、

「ううん。好きでやったことだから。でも、私達の好意をただ扱いしなかったヘルナレアさん達にこそ、ありがとうって言わせてよ」

「何の。――そう言えば、二人してゴドノワ太守になりたいそうじゃな。皆に聞いたが、『お主らならば』と諸手が上がった」

「えっと。それなんだけれど、統治権や裁量権はそのままヘルナレアさんにあるよ」

怪訝そうな顔をするヘルナレアさん。

エルマーも不思議そうに言う。

「どうして?太守になるんでしょ、だったら統治権も何もかもアルセーヌさん達に渡るんじゃ……?」

ガブリエルは輝くような笑顔を浮かべた。


 「私達は魔境ゴドノワを開発したい。支配なんかもう懲り懲り。今までは4凶獣がいて、ろくな調査が出来ていなかっただけ。火薬だけじゃない。もっと凄いものだって間違いなくある。あの場所はね、『黄金の新世界』なんだよ!」

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