21.きみは好奇心旺盛な子どもだった


 きみは好奇心旺盛な子どもだった。

 こっそり探検していたんだろうね。夢中だったろう。あのときのきみときたら、それはそれは愛らしかった。鬼灯のように真っ赤な頬、きらきらした大きな目。短い手足をぱたぱたさせて、あっちこっち走り回っていた。

 そうしてきみは、わたしを見つけた。

「セイシュウコウさま?」

 まだ四歳だったから間違えるのも無理はない。西州公もわたしも、幼いきみから見れば似たようなものだっただろう。

 わたしは――わたし?

 わたし、とは、誰だったろう。

 ――まあ、いいか。

 きみのことは覚えているよ。スイハ=ヤースン。

「コウシさま。ぼくと遊んで」

 袖を掴んだ手がとても小さかった。

「ねえ。コウシさまはいつセイシュウコウさまになるの?」

 あのとき――なんと答えたのだっけ。わたしが覚えているのは、きみが隣を歩いているのが嬉しかったということなんだ。すぐカルグが迎えに来たから、ほんの短いあいだだったけれどね。

「××××。すみません。それが前に話した弟です」

 わたしは、なんと呼ばれていただろう。

 ――思い出せない。

「スイハ、先に戻っていろ。ここに来たことは秘密だぞ」

「はぁい。さようなら、コウシさま。またね」

 きみは手を振った。いつまでも眺めていたくなる笑顔だった。

 内庭の池は澄みきっていた。底のほうで日の光を浴びた石が青く光っていた。木漏れ日の下で、カルグはわたしの顔を隠す布を外して微笑んだ。

「××××」

 ――思い、だせない。

 けれど、おぼえている。

「俺があなたを自由にして差し上げます。何年かかっても、必ず」

 このやくそくが、わたしのこころをつなぎとめる。

 ――いけない。また、なにもかもわすれてしまうまえに。

 きみを、たすけなければ。

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