転生ドラゴンは異世界を満喫する旅に出る!

グレまきっ!

1章 洞窟編

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第1話 目覚めたら地獄でした。

 パッ、と目が覚める。


 まるで何かに急いで起こされたかのように。


「は……」


 俺は目の前の光景を見ようと目を開けようと、まぶたに意識をやった。

 だが異変を感じた。

 目を開けようとしても開けられないのだ。

 まるでまぶたが接着剤でくっつけられているように固い。


 無理やり開けようと力を込めると、ピリッと痛みが走り、背筋が凍って死ぬという言葉が頭に浮かんだ。


 手も使おうと思ったが、手が動かない。


 というか「ない」。



 ないのだ。手も、足も。体すらない。



 俺にもともとあった体がなくなっており、自分がわからなくなり、頭の中が白くなって早々にパニックに陥った。


「は…………………………え?」


 発狂はしなかったものの、状況の整理になかなか意識が向かない。まずはこのパニックを治すためにひとまず落ち着こうと深呼吸をしようとしても、口がないため呼吸が出来ない。


 いろいろなものが「ない」と気づくと、俺はとにかく状況を整理しようと頭を動かし、パニックはそれに合わせてどんどんと強くなっていった。

 

 口が動かない、つまり助けを求めることが不可能。

 よってこの空間の近くに誰か来ても、物音一つもたてられないので誰も気づかない。

 助けを呼ぶよう意識しても、もちろんどこにも聞こえないしそもそも響かず声がどこかに届くことがない。頭の中で「思ったこと」としてぐるぐると回るだけだ。

 

 一体ここはどこなんだ。俺は一体何をされているんだ。一体俺の体はどこに行った。一体全体なにをしたっていうんだ俺が。

 誰かに呼びかけても、けして答えの返ってくることはない。

 

 物静かな暗い空間が、目の前に広がっているだけだった。


 絶望感に早くも飲まれそうになる。


 しばらくは頭の中のものを投げ捨てるように、質問をひたすら真っ暗な空間へと投げかけた。

 だがもちろん、返事など帰っては来ない。しかし一つだけわかったことがある。


 きっと、ここは地獄なのだろう。





 確信して半分あきらめかけていたのだが、まだ諦めきることなど早すぎる。と思って諦めきれなかった俺はひたすらに「なにかないか」と考えるが、そのうちさっきの出来事を繰り返し、頭が白くなってボーっとしてくる。理解不明な何かをひたすら投げつけられるような、恐ろしさより困惑が勝つ気持ちだ。


 パニックのなり過ぎで、エラーにでもなったかのように、頭の中には何も残らなかった。


 そして頭がパンクして、ボーッとしているとそのうち頭の中の余分な物がなくなり、頭の中にふとした新しい疑問が出てくる。



 なぜ地獄に来たのか、なぜ体がないのか。



その理由から考えていこう。

 といってもなにもヒントがないので予測にしかならないが。

 長く考えて、現実逃避でもしよう。


 まず考えられるのは、前世で何かをしたか。ということ。

 写真とかもあるはずがないので、頼るのは微かに残っている記憶のみである。

 

 少しずつその微かな記憶をたどると見えてきたのは、血飛沫が飛んだアスファルトの上に俺が寝っ転がっており、そこに誰か女性が走って向かってくる映像である。女性の目ははっきりとは見えないが、額まで涙が伝っているのを覚えていた。


 それ以前の記憶は思い出そうとすると、頭を鉄の何かで締めつけられたような強烈な頭痛がするのでやめた。


 それでも、考えを膨らませ暇つぶしにするには十分だ。

 その気分はさながら探偵だ。


 だがまず、少しでもヒントを作り出したことを自分から自分に褒めてやった。


 偉いぞ、俺。


 ……早速なにやってるんだろうか。

 この暗闇に慣れ、着々と狂っているであろう自分が怖くなった。


 記憶の内容を完全に整理するため、1つずつ考えていくことにした。あえて全部を大げさに説明しながら。



 まず、何故血飛沫が飛んでいるのか。というところだ。

 これはたぶん、俺の血だろう。


 前世、なにか事故で車にふっ飛ばされ、硬いアスファルトの上に落下した衝撃で頭が割れ、死んだと考える。

 血らしき液体が俺の視界上から円状に広がっており、たくさんアスファルトに染みているのがわずかに見えたのも根拠だ。

 それにあまりにもその血の量が多いので、たぶん突然の出来事で、そのときは受け身を取ることも出来なかったのだろう。

 痛みは不思議と記憶上ではないので、意識が朦朧してから完全になくなる3秒前くらいだろうか。よく死ぬ前は感覚ないってネットとかでも言うのでそれを信用しよう。


 次に走ってくる彼女は、誰なのかはわからないが、「リン」という名前なことだけは覚えている。りん、という知り合いがいたことを思い出すとこれまた頭痛がひどくなってくる。それに鼻より上のところを思い出そうとするとまた頭痛が……。

 頭痛は命を感じるほど痛みが強いため、これ以上彼女のことを思い出すことができなかった。


 地面の様子や近くの瓦礫とかを細かく見つけられればいいのだが、記憶上では老眼になったようにぼやけて見えなくなってしまっていた。


 なので以上で考察をを終わりにする。思っていたより短くなってしまったが仕方ないだろう。


 事故の発端と「リン」の正体が不明で悩みどころだが、ヒントが少なすぎていくら考えても納得出来そうにないので考えをやめた。



 後やることは、今の現状を確認することだろう。


・声は、さっきも言ったが出ない。思考できるだけだ。

・息を吸えないし吐けない。まずそれ用の穴が口元にない。だが苦しくはない。そのかわりどこかから勝手に空気が体の中に注がれ、その後献血のように抜かれていくような、普段じゃあ絶対感じないような不思議な感覚が常に続いている。これが呼吸だろう。

・全く動けないほど狭い空間に押し込まれ閉じ込められている。その壁はスライムのように体全体にぴっちりと吸着してくる。

・四足の感覚がない。図形で俺の体を表すなら、「球」だ。

・つねに頭痛がする。だがそれらを不思議と嫌に感じなくなってきた。


 というくらいだ。

 

 俺は一言では言葉には表せない、シュレディンガーの猫を見ているかのような不気味で味気のない気分が心の中で渦巻いている。一言で表すなら、戸惑いだろう。


 とにかく、俺は自分自身に何が起きているのか全くわからない。


 それだけがわかった。



「んでどうすればいいんだよ!」



 虚空に向かって俺はない口を使い叫ぶ。

 

 黙っている間は生きている心地が全くしない。死霊になったかのように自分に生気が全く感じられないのだ。なのでずっと黙っていると気が狂いそうだ。


 俺は考えをとにかく連ねていた。

 大好きだった家族のこと、嫌いだったあの子のこと、不思議だったり吸い込まれたりして中毒となったあの曲のメロディーや伴奏、歌詞、機械音声、まるで操られているかのような、自分が人間だと思えないでいたあの感情。

 

 などなど、哲学的なことからどうでもいいことまですべてを繰り返し考え脳内で発声した。


 さて、これはいつまで続くのだろうか……



 

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