第18話 JSAに呼び出されるようです。
さて。
高校から帰宅し、一日が経過した。つまり今日は土曜日。
『
そんな事があったんだから、今日はゆっくり休もうという事で、僕はリビングでコーヒー片手に読書をしている真っ最中。
久々にゆっくりとする事が出来て、『やはり読書はいいな』という思いと、『やはり面倒事は大嫌いだ』という思いが同居している。もうこのまま何も起きないで欲しいと切に願う。
『続いてのニュースです。先日、高校生探索者の
……うん。僕は何も聞いていないし、何も見たりしていない。
……はぁ。
この手のニュースを見ていつも思う事だけど、何をそんなに取り上げる必要があるのか。
『
僕が両腕と胴体の骨折だけで済んだ為か、皆は『
アイツは、テレビで言われているような『たまたま発生した突然変異』や『超深層からはモンスターの知性が上がるが、危険度はさほど変わらない』なんてレベルじゃない。
【深層】と【超深層】では世界滅亡や天地
深層に
それほどの差があるモンスターの事を、『危険度はさほど変わらない』なんて言える学者の皆様は随分とおめでたい頭をしているらしい。
一応、『超深層なんて階層にいるモンスターの危険度が、そのままな訳が無いだろう』という意見を唱えるまともな人達も多くいるが、その意見の多くは若い学者やまともな老学者達。
むしろ少数派であるはずの"おめでたい人達"の意見が、学者達の総意と世間には
と、僕が面倒事の気配によって多少情緒不安定な所があるからか、世間に対して毒づいていると【
「もしもし鏡花さん。どうしたんですか?」
『あぁ久遠くん。知っていると思うが、WSAとJSAが君に話を聞こうとしているだろう?
その件で、準備が整ったから呼ぼうと思ってね。予定は君に合わせるらしい。空いてる日はあるかな?』
なるほど。
どうやら僕に話を聞くための準備は整ったらしい。何を準備したのかは知らないが。
うーん……とはいえ、予定かぁ。
ここ一週間前後は何の予定も入れてなかったはずだから、基本は大丈夫だと思うけど。
普段から僕は、こういう面倒事はなるべく早く終わらせるようにしている。先延ばしにしてたら大変な事になった、とか笑えないからね。
まぁだとしても、今回のは流石に先延ばしにしたいという思いが結構強い。だって絶対色々聞かれるし……。答えるのが面倒。
でも……仕方ないか。今回ばかりはね。
今日中に終わらせてしまうとしようかな。
ここで先延ばしにしたら、後で後悔するのは未来の僕自身だし。
「直近では
『それは本当かい?いや、別に今日中に来てくれるなら、こちらとしてはありがたい限り何だが……。まぁ分かったよ。それなら、午後二時にJSAの本部受付まで来てくれるかい?』
「ん、OKです。了解しました」
さてと。
午後二時までにJSA本部の受付ってことは、まだ四時間くらいはあるな。
んー……気晴らしに、ダンジョンにでも行こうかな。隠密系の
久々に深い所にでも潜るとするかな。
─────────
──────
───
配信をする訳でもなく、昔のように僕自身が潜りたいから潜ったダンジョンは、久々に潜ったからかとても楽しかった。
そもそも、配信をしているのがイレギュラーなのであって、僕にとってはこれが普通だ。
ここ連日、僕の話題で世間が騒いでいたから結構ストレスにはなっていた。
それのほとんどは発散することが出来たし、やはりダンジョンは良い。
ストレスが溜まったら、とりあえずダンジョンで魔法をぶっ放してれば自然とストレス発散になる。
物騒だって?
まぁ許して欲しい。それくらいストレスが溜まっていたんだ。
……関係無い話はここまでにしておいて。
現在時刻は午後一時50分。
鏡花さんに言われた通り、午後二時からのJSA本部での予定を済ませるために、少し早めに来た次第だ。
少し早いけど、もう受付はしちゃっても多分大丈夫……のはず。
僕の事を呼び出したのが鏡花さんという事を考慮しても、彼女なら先に部屋で待っているだろう。そういう人だ。
JSAの人がどうなのかは分からないけど……まぁ、とにかく問題は無いと思う。
という訳で、さっさと受付を済ませてしまおう。
「すみません。東京都第二
「……はい。はい。午後二時から予定が入っている
「ありがとうございます」
そう言って、受付の女性は席を立って僕を先導し始めた。
彼女の後ろに着いて移動している内に、最初は様々な人でごった返していたJSAには、徐々に人気を感じられなくなって来た。
それに、何だか立場の偉い人しか使わなさそうなフロアへと辿り着いた。
「こちらの部屋です。既に、鏡花様と
【
「分かりました。ありがとうございます」
……嘘ぉ。
まさか、JSAの中で一番偉い人が出てくるとは……。流石に想像してなかった。
うーん……怒らせたりしたらどうしよう。
もしそんな事になれば、立場的にはあちら側の方が上なのは明白。
僕としては力でねじ伏せるくらいしか、取れる方法が無くなってしまう。
……いや流石にそんな事はしないけども。
僕だって、無闇矢鱈に力を使ってはいけない事くらい分かるため、そうなると実質的に取れる手段は無い。
まぁ気をつけるしかないか。
……絶対気疲れする気がする。
はぁ……。めんどくさい。……めんどくさいけど、割り切って進めるしかないよね。
そんな割と失礼な事を考えつつ、目の前にある扉を開けて、中に居るであろう鏡花さんや神凪さんへ挨拶をする。
「失礼します、
挨拶しながら部屋に入れば、部屋の中心に配置されている対談用のソファーの前方右側に鏡花さんが。そしてその左側に、恐らく【
「おお。君が久遠くんか。初めましてじゃな。【
「さっきぶりだね、久遠くん。神凪さんは良い人だから、そこまで緊張しなくてもいいよ?」
「……ありがとうございます」
それだけならいい。先程述べた二人だけしかこの部屋には居ない、それだけならいいんだけど……。
どこぞの忍者か?って言いたくなるけど、天井裏にもう一つ、神凪さんより少し下位の強さを持つであろう人物の気配が感じられた。
……これはどういう事だろう?
僕の実力を試されているのか。
はたまた単純に、僕に何かしらの危害を加えようとしているとか。
それか、二人しか居ないと油断させた上で、これから話す内容についてもっと詳しく聞き出そうとしているのか。
色んな可能性を考えてみたけれど、結局はもう一つの気配が怪しい事には変わりない。
これが神凪さんや鏡花さんの差金ならまだいくらか納得出来るけど、別の組織や他国のスパイ的な存在なら放っておく訳には行かない。
相手が相手の為、今からする行いが失礼だと分かってはいるけれど。
───『
僕がそう呟いたのと同時に、天井裏からは一瞬、悲鳴のようなものと何かが引きずり込まれる様な物音が聞こえた。
同時に、僕の周囲に半径二メートル程の影が波打つようにして現れる。
───解除。
一連の魔法を心の中で呟き、それらを解除すれば。
半径二メートル程の影は消え失せ、それと同時に影があった場所からは、黒装束に身を包んだ男が地面に投げ出されるようにして現れた。
「……さて。二人がいる手前、こんな事はしたくないけれど。……君は誰だい?」
そう言って、
殺すつもりも、傷付けるつもりも毛頭ないけれど、あんな所に隠れていたんだ。自分は怪しい者ですと自白しているようなモノ。脅すくらいはさせてもらう。
「ちょっ!?ストップ!タンマタンマ!!俺無実!!あいむ一般シーカー!!あーゆーおけー!?……助けて神凪さぁん!!!」
僕が切っ先を向けた瞬間、直ぐ様焦り出す目の前の男。
多少大袈裟だけど、僕を怖がっているのか
更に口振りからすれば、どうやら目の前の男は神凪さんと知り合いであるらしい。
「えー……っと。とりあえず神凪さんの知り合い、って事で良いんですか?」
「うむ。すまんかったの、久遠くん。ワシの癖でな、対談する時は相手の力量を見ておくようにしてるんじゃよ」
なるほど、どうやら目の前の男は僕の力量がどれくらいの物か、それを見極めるために配置されていたらしい。
つまり、試されていたという訳だね。まぁ、僕が心配していた他国や別組織のスパイなんかでは無くて良かったよ。
……にしても、まさか本当に忍者みたいな格好をしているとはね。もしかしたら本当にどこぞの忍者なのかもしれない。
「そういう事なら……まぁ。納得出来ます。それと、手荒な真似をしてすみませんでした」
「い、いや……。良いんだ。君からすれば、俺な怪しかったのは事実だし。君の実力を知る事が出来て良かったよ。……あ、自己紹介していなかったな。俺は『
目の前の忍者風探索者の男性は、どうやら山科さんと言うらしい。
なんでも神凪さん直属の部下らしくて、隠密行動や諜報なんかが得意だそう。
それで今回は、『
「……それと久遠くん。君は、入室した時から俺の存在に気が付いていたよな?これでも、現Sランク探索者の、全員を騙せるくらいの実力はあるんだが……」
「……まぁ。はい。普段から、気配にはかなり気を付けているので。それに、神凪さんほどの人物なら試す様な真似もしてくるだろう、と思っていたのもありますね」
実際これは本当だ。
【
そんな人が、伝え聞いた情報だけで相手を判断するとは思えないし、実際に一目見るまでは信用しないと思う。
まぁ、今はそういう事は割とどうでもいい。
この前の配信で『
しかし、他のダンジョンの魔力異常は未だ続いている。
その事態について考える方が、僕を試していた事よりも余程重要だと思う。
それらの問題を解決しないとなれば、ダンジョンに潜って生計を立てている人達からも批判が相次ぐだろうし、死者や怪我人も増え続けるだろう。
それに、ダンジョンに潜れないという事は"ダンジョンから取れる資源が減る"という事でもある。そうなったら、物価や電気代なんかも上がってしまうかもしれない。
『魔力異常』。この事態を解決しない事には、日本は結構なピンチに陥る事になる。
そんな訳で、『
「まぁ、雑談はここまでにしましょう。それよりも、今は魔力異常や『
「それもそうじゃな。鏡花くん、メモの準備はあるかの?」
「ええ、勿論。こちらで推測している内容が合っているのか、久遠くんに確認する必要もあるでしょうし」
「うむ、そうじゃな。では久遠くん。早速じゃが、あの化け物について聞いてもいいかの?」
「僕がアレについて知っている事なら、全てお話しますよ。知っておいた方がいい事でしょうしね」
そうして。
山科さん、神凪さん、鏡花さん、僕の四人で魔力異常や『
─────────
──────
───
話し合いが始まってから約二時間後。
僕を除いた三人は、僕から聞いた情報に大小の差はあれど、全員驚いている様だった。
「はぁー……。もしかしてとは思っていたけど、やっぱりあの化け物は私の想像よりも余程危険なんだね……」
「……そのようじゃな。よもや、肉を吸収して巨大化するなんて言う性質があるとは。やはり、久遠くんに聞いて正解じゃったな」
「しかし……これどうしますよ?俺は絶対コイツと戦いたくないですが、また現れる可能性も十分にある。何かしらの対策はしておくべきでしょう」
三人が、僕から聞いた情報を元にこれからどうするべきか話し合っている。
……正直僕からすれば、多少の労力は必要でも、全然『
ただ、それを他の探索者も出来るかと聞かれたら、首を傾げざるを得ない。
それを加味して考えると、万が一再び『
それこそ、全国各地でそんな事態になったなら、まさに大災害になるだろう。
今回の『魔力異常』というイレギュラーな事態は、それだけの危険性を孕んでいる。
故に、一刻も早く原因を突き止めて解決する必要がある。
「んー……、『
「うむ……確かに、このモンスターに対処出来るのは恐らく久遠くんだけじゃろうな。なれば、Aランク以上の探索者達に探してもらうよう頼むとしようかの。
「任せて下さいよ。こういう時こそ、隠密行動が得意な俺の出番です。なる早で今回の魔力異常の原因、突き止めてみせますよ!」
そんな訳で、対策としてはAランク以上の探索者達に司令を出して、原因捜索に協力して貰うという形になった。
また何かしらのイレギュラーが発生するかもしれない以上、僕もダンジョンに潜る頻度を増やした方がいいか。
今回の自体の原因を見つけた時に、『
僕なら、何かに巻き込まれても余程のことじゃ無ければ問題無いだろうからね。
とりあえずは、神凪さんと鏡花さんとマメに連絡を取りながら、原因解明に向けて動いていくほか無いだろう。
……はぁ。
これ以上、何も起きないといいけど。
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