第49話 ローイン様に気持ちを伝えたい

次の瞬間、体中に激しい衝撃が走る。


「イタタタタ…」


体中に激痛が走るが、どうやら生きている様だ。


「マーガレット!何てことだ、今すぐ馬車を止めろ」


私が馬車から飛び降りた事に気が付いたジェファーソン様の叫び声が聞こえる。まずい、馬車から飛び降りた事に、気が付かれてしまったわ。


ここで捕まったら、元も子もない。必死に動かない体を動かす。幸い辺りは真っ暗だ。前も後ろも横も何も見えない。必死にはいずりながら、少しずつ進んでいく。とにかく、どこかに隠れないと。


すると、人1人が隠れられるような小さな穴を発見した。周りはどうやら草に覆われている様だ。


ここなら見つからないかもしれない。そう思い、必死に穴の中に入った。少しでもバレない様に、周りの草で体を隠す。


「マーガレット、どこにいるのだ。マーガレット」


静まり返る森の中、ジェファーソン様の声が響き渡る。お願い、こっちに来ないで。


「クソ、暗くて周りが見えにくい。もしかしたらもっと遠くに逃げてしまったのかもしれない」


バタバタと走る音が聞こえるが、その音はどんどん遠ざかっていく。よかった、見つからなかった様ね。でも、このままここにずっと隠れている訳にはいかないだろう。


それに朝になって明るくなったら、ジェファーソン様に見つかってしまうかもしれないわ。何とかしないと!


そう思い、移動しようとしたのだが、体が痛すぎて動く事が出来ない。


きっと今頃、家族は必死に私を探しているだろう。お母様、また泣いているかしら?お兄様やお父様、お義姉様もきっとものすごく心配しているだろう。


ローイン様もきっと、私を必死に探してくれているだろうな…ローイン様…


ローイン様の優しい眼差しが脳裏に浮かぶ。私がマリンとジェファーソン様に裏切られ、家族やクラスメイトにも信じてもらえず、絶望に打ちひしがれている時、救いの手を差し伸べてくれたローイン様。


美しい瞳で私を見つめるそのお姿。私の気持ちを最優先に考え、私の為に色々と動いてくれたローイン様。彼の優しさに触れるたびに、傷つきボロボロになった心が癒えていくようなそんな気持ちになった。


いつしか彼と共に歩む未来を夢見る様になった。あと少しで、その未来が手に入るはずだったのに…


「結局私は、自分の気持ちすら言えなかったわ…」


なんだか頭がくらくらする。あれほど酷い痛みに襲われていたのに、痛みもあまり感じなくなってきた。ああ、そうか…私はこのまま…


こんな事になるのなら、ローイン様に気持ちを伝えておけばよかったわ…今更後悔しても遅い。


私っていつもどこか抜けているのよね…もしも願いが叶うなら、もう一度ローイン様に会いたい。もし会えたら私、今度こそ自分の気持ちを伝えるわ…


て、今更こんな事を言っても遅いわよね。


なんだか無性に眠くなってきたわ…


「…レット嬢、マーガレット嬢!」


ついにローイン様の幻聴まで聞こえてきた。


「ロー…イン様…」


無意識に彼の名前を呼んだ。すると


「マーガレット嬢の声が!マーガレット嬢、どこにいるのだい?もう一度返事をしてくれ」


どんどんローイン様の幻聴は大きくなっていく。最後に神様が、私に素敵な夢を見せてくれているのね。


「ローイン様…私は…ここに…」


「マーガレット嬢!何てことだ。酷い怪我ではないか」


覆われていた草がどけられたかと思うと、ローイン様の幻覚が。私、幻覚まで見られるのね。


さらにローイン様に抱きかかえられた。


「すぐに医者に見せるから、安心して欲しい。可哀そうに、こんなにも酷い怪我をして…すまない、全て俺の責任だ」


暗くてよく顔が見えないが、どうやら泣いている様だ。せっかくの幻覚なら、私は笑顔のローイン様が見たいわ。


「ローイン…様、なか…ないで…笑顔が…見たい」


「もう話さない方がいい。とにかくすぐに医者に見せないと」


私を抱きかかえたローイン様が歩き出したのだ。これは本当に幻覚?よくわからないが、私はもうきっとダメだろう…それなら…


「ローイン…様…愛しています…どうか…お幸せに…なって…」


ちょうど月明かりに照らされたローイン様の瞳が大きく見開くのが見えた。最後にお顔が見られてよかったわ。それに気持ちも伝えられた。


伝えたい事を伝えた私は、そのままゆっくり瞳を閉じたのだった。



※次回、ローイン視点です。

よろしくお願いします。

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