第40話 ローイン様にも心配をかけました

結局話に熱が入りすぎて、ほとんど昼食をとることなく教室に戻ってきた。私達が教室に戻ると、待っていましたと言わんばかりに、令息たちが近づいてきたが、皆で令息をギロリと睨む。


さらに


「アリア、どこで昼食を…」


「アリア様に気安く話し掛けないで下さいますか?」


「そうですわ、もうあなた様は婚約者でも何でもないのでしょう?いつまでも婚約者気取りでは困りますわ」


「「「「そうですわよ!!」」」」


令嬢に話し掛けようものなら、一斉に他の令嬢たちで反撃した。あまりの気迫に、令息もそそくさと自分の席に戻って行った。とにかく私たちは、1人にならない事、元婚約者が話掛けやすい状況を作らない事を徹底する事にしたのだ。


私達はやっと前を向いて歩き出した。これ以上乱されたくはない。そんな強い信念のもと、元婚約者にも毅然とした対応を取る事にしたのだ。


放課後も令嬢たちで集まり、元婚約者たちが近づけない状況を作り出した。中には既に恋仲になっている令息たちが、令嬢を心配して迎えに来る一幕も見られた。


「さあ、皆様、あの人たちが近づいてくる前に、急いで帰りましょう」


残った令嬢たちと一緒に、馬車が停まっている学院の門を目指していると、元婚約者たちが一斉にこちらにやって来たのだ。その中にはジェファーソン様もいる。


それぞれの元婚約者が令嬢たちに話しかける。あまりにも一斉に話しかけてくるので、お互いを守り合う事が出来ない。


「マーガレット、お昼はどこに行っていたのだい?色々と探したけれど、全然見つからなくて。今日は君の好きな食べ物を、沢山持ってきたのに」


「私がどこで昼食を食べようと、あなた様には関係ないでしょう。そもそも、私はあなた様の顔などもう見たくはないのです。どうか私には話しかけないで下さい」


本当にしつこいわね。あれほどまでの裏切り行為をしておいて、どうして私に話しかけてこられるのかしら?腹が立って仕方がない。


「マーガレット、僕は…」


「マーガレット嬢!!」


この声は、ローイン様だ。心配そうにこちらに走って来る姿が目に入る。そして私を庇う様に、ジェファーソン様の前に立った。


「ジェファーソン殿、いい加減マーガレット嬢に話しかけるのは控えて欲しい。この際なのではっきり言おう。俺とマーガレット嬢は、いずれ婚約を結ぶ予定だ。既に親同士の話し合いも終わっている。君に入り込む余地なんて、一切残されていない。いい加減、諦めてくれ。マーガレット嬢、行こう」


私の手を握り、早歩きで進みだしたローイン様。後ろでジェファーソン様が何か叫んでいるが、振り返らずにローイン様に付いていく。そしてそのまま、侯爵家の馬車に乗せられた。


「ローイン様、お助けいただきありがとうございました」


「こっちこそ、いずれ婚約を結ぶなんて話をしてしまってすまなかった。でも、どうしても我慢できなくて…」


申し訳なさそうにローイン様が俯いた。そんな彼の手をそっと握る。


「どうかその様なお顔をしないで下さい。実際家の両親とローイン様のご両親がお話をされた事は事実ですし…」


私もローイン様と婚約を結べることを、楽しみにしておりますわ。とはさすがに恥ずかしくて言えない。


「ありがとう、マーガレット嬢。そう言えばお昼休み、マーガレット嬢の姿が見えなかったから心配していたのだよ。他の令嬢たちもいなかったけれど、一体どこに行っていたのだい?」


「実は校舎裏で、皆で打ち合わせをしていたのです。このまま元婚約者たちに言い寄られ続けるのもストレスなので…それで皆で考えた結果、お互いを守り合うという形で話がまとまったのです。でも、向こうも一斉に話しかける作戦に出た様で…」


「そうだったのだね。校舎裏は思いつかなかったな。それじゃあ、お昼は令嬢たちだけでいたのだね。よかった」


「もしかして、私をずっと探していて下さったのですか?心配をおかけしてごめんなさい。私もローイン様の事は気にはなっていたのですが…」


やっぱりローイン様は、私を探してくれていたのだわ。


「君が謝る必要はないよ。そうか、マーガレット嬢は他の令嬢と協力して、上手くジェファーソン殿をかわそうとしたのだね。ただ、やっぱり向こうも一筋縄ではいかない様だ。マーガレット嬢が心配だから、せめて朝と帰りは俺に送らせてくれるかい?お昼や休憩時間も、極力君のクラスに顔を出すようにするよ」


「ええ、もちろんですわ。私もその…ローイン様が傍にいて下さった方が安心ですので…でも、どうか無理をしないで下さい。ローイン様の負担にはなりたくないので」


私ったら何を言っているのかしら?恥ずかしいわ。つい俯いてしまう。


「マーガレット嬢を守る事が負担になんてなる事は絶対にないよ。逆に嬉しいくらいだ。マーガレット嬢、本当にもう、ジェファーソン殿の事は…すまない、野暮な事を聞いて。今の事は忘れてくれ」


「ローイン様?」


ローイン様はもしかして、まだ私が心のどこかでジェファーソン様の事を思っていると考えているのかしら?


「私は…」


「伯爵家に着いた様だね。少し君の父上や兄上と話がしたいのだけれど、いいかな?」


「ええ、もちろんですわ。きっと父も兄も喜びます」


「ありがとう、それじゃあ、お邪魔させていただくよ」


そう言って笑ったローイン様。でも、なぜだろう。なんだかすごく不安そうな瞳をしていた気がする…


とにかくあまりローイン様の負担にならない様に、私も頑張らないと。



※次回、ローイン視点です。

よろしくお願いいたします。

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