「おはようございます、マーガレット様、ローイン様。朝学院に来たら、既にあのような状況でして…なんだか教室に入り辛くて」

私に話しかけてきたのは、私と同じく婚約者に不貞を働かれた友人の1人、ミシェル様だ。

「確かに教室に入り辛いですわね。どうしましょう…」

周りを見ると、同じように教室に入れないでいる令嬢や令息たちの姿が。当事者の令嬢はもちろん、全く関係のない令嬢や令息たちまでも、教室に入るのを躊躇しているのだ。

「ローイン様、もうすぐ授業が始まります。どうか教室にお戻りください。私は先生がいらしたタイミングで、皆様と一緒に教室に入りますので」

隣にいたローイン様に声をかけた。このままだと、ローイン様が授業に遅れてしまう。

「でも…」

「ローイン様、マーガレット様は私たちが見ているので大丈夫ですわ。それにしても、本当に見苦しいですわね…他の令嬢と不貞を働き婚約者を裏切っておいて、あの様に泣いて縋るだなんて…あり得ませんわ」

「本当に…マーガレット様、ミシェル様、大丈夫ですわ。私たちが付いておりますから」

被害にあっていない令嬢たちが、私たちの元にやってきてくれたのだ。

「皆様もこうおっしゃってくれておりますし、私は大丈夫ですわ。また休憩時間に、来てくださいますか？」

「ああ、もちろんだ。それじゃあ、マーガレット嬢の事を頼んだよ。また休み時間に来るから」

まだ少し心配そうな顔のローイン様も、教室に戻って行った。ちょうどそのタイミングで、先生がやって来たのだ。

「君たち、教室の外で何を…ああ、そう言う事ですか」

先生が教室の中の状況を見て、ため息をつく。そしてそのまま先生が教室に入って行ったので、私たちも後に続いて入って行った。

「君たち、席に着いて下さい。それから、今日から強制労働施設に行っていた令息たちが帰ってきました。彼らも随分反省している事かと思いますが、あまり令嬢たちに迷惑をかける様な行動は慎んでください。それでは、授業を始めます」

先生がいつもの様に授業を始めた。ふと周りを見ると、強制労働施設に行っていた令息たちは、皆かなりやつれている。それに何人かの令息たちは学院に来ていない様だし…

“マーガレット様、皆様随分とやつれていらっしゃいますね。中には罰期間中に家から勘当された令息もいる様ですわよ。私の元婚約者も、どうやら勘当された様で、学院には来ていない様ですわ”

こっそりと教えてくれたのは、ユア様だ。確かにユア様の元婚約者は、来て居らっしゃらない様ね。それで席がぽつぽつと空いているのか。という事は、もしかするとジェファーソン様も…

そう思い、こっそりとジェファーソン様の席を確認すると、なぜかバッチリと目が合ってしまった。急いで視線をそらした。一瞬見ただけだが、茶色い髪はかなり短くなっていて、随分とやつれていた。

よく見ると、他の令息たちも皆短髪になっている。もしかしたら、髪を短く切るというルールがあるのかもしれない。あまりにも見た目が貴族っぽくないから、これだと誰が不貞を働いた令息か、彼らを知らない人たちにも一目でわかるだろう。

とにかく彼らには関わらない様にしないと。

無事授業が終わり、休み時間になった。すると、再び令息たちが元婚約者だった令嬢への謝罪タイムが始まったのだ。これは気まずい。急いで教室の外に出ようとしたのだが…

「マーガレット、久しぶりだね。元気そうでよかったよ。今回の件、本当にすまなかった。僕の意思が弱かったばかりに、君を酷く傷つけてしまった。この３ヶ月、君を忘れた事なんて一度もない。君はきっと、僕の顔なんて二度と見たくはないだろう。でも、どうかもう一度チャンスをくれないかい？もう二度とマーガレットを裏切ったりはないし、一生をかけて償いをする。僕は君が傍にいてくれるだけでいいんだ。だから頼む、どうか傍にいてくれ」

ジェファーソン様が、ものすごい勢いで話しかけてきたのだ。

「ジェファーソン様、私はもうあなた様を受け入れる事は出来ません。どうか他の令嬢と幸せになってください。それから、悪いと思っているのでしたら、もう二度と私に話しかけてこないで下さいませ。それがあなた様が出来る、私への唯一の償いですわ」

ジェファーソン様に向かって、はっきりと告げた。私はもう、ジェファーソン様を忘れ、前に向かって歩いているところだ。

それにしても、ジェファーソン様までそんな事を言い出すだなんて…