第18話 ローイン様は素敵な方です
マリンに向かってつい叫んでしまったが、これじゃあまるで、私もローイン様が好きみたいじゃない。
「あの…そう言う意味ではなくて…その…」
「マーガレット嬢、やっぱり君は、あの時とちっとも変っていないのだね」
ローイン様におもいっきり抱きしめられた。ちょっと、私は令息に抱きしめられた経験なんて無いのよ。元婚約者のジェファーソン様にだって、抱きしめられたことがないのに…
「ロ…ローイン様、どうか落ち着いて下さい」
「ごめん、つい嬉しくて。さっきのセリフ、初めて俺たちが会った時に、君が俺に言ってくれた言葉そのものだ。まさかまた、あの言葉が聞けるだなんて思わなかったよ」
「それはその…あの時は馴れ馴れしく話し掛けてしまい、申し訳ございませんでした。ただ、あまりにもお美しい瞳をしていらしたので、つい。私は今でも、あなた様の瞳はこの国一、いいえ、世界一美しいと思っておりますわ。空と海、両方の色を持っていらっしゃるだなんて」
「君は空と海が大好きだと言っていたからね。“あなた様の瞳の色は、私の大好きな色。2色とも持っていらっしゃるだなんて、羨ましいですわ”そう言って目を輝かせていたね。俺はあの時の君の嬉しそうな顔が、今でも鮮明に残っているのだよ。あの日から俺は、君の事を思い続けていたんだ」
確かにあの時、そんな事を言った様な。ローイン様がとても魅力的で、正義感溢れた令息だと言う事は分かった。でも、やはり私は今さっき婚約破棄をしたばかりだ。はい次!と、すぐに心を切り替えられるほど、器用ではない。
「あの、ローイン様。私は今さっきジェファーソン様と婚約破棄が成立したばかりです。正直今は、別の殿方をとは考えられません。申し訳ございません」
深々とローイン様に頭を下げた。
「マーガレット、なんて事を!ローイン殿、申し訳ございません。ただ、マーガレットはこの1ヶ月、物凄く辛い思いをいたしまして。本人にも、心の整理をする時間が必要かと」
「ええ、分かっていますよ。ただ、マーガレット嬢の顔を見たら、どうしても気持ちを伝えたくなったのです。マーガレット嬢、ただでさえ混乱している中、余計に混乱させてしまってすまなかった。それでも俺は、マーガレット嬢と未来を歩みたいと考えている。どうか、その事は覚えておいて欲しい。これからは自分の気持ちに正直に生きたい、君に振り向いてもらえる様に、精一杯頑張るよ」
ローイン様はそう言うと、にっこり微笑んでいる。まさかローイン様が、私にそんな感情を抱いていただなんて。
「マーガレットをそんな風に思って下さり、本当にありがとうございます。それに今回の件、あなた様が色々と証拠を集めて下さったお陰で、真実を知ることが出来ました。全てローイン殿のお陰です」
「ローイン様、私からもお礼を言わせてください。マリンとジェファーソン様の不貞を証明してくださった上、私の名誉まで回復してくださり、本当にありがとうございました」
彼が居なかったら、今頃きっと、修道院に行きたいと両親に泣いて訴えていただろう。この世の理不尽さに絶望し、もしかしたら生きる希望さえ失っていたかもしれない。そんな中、ローイン様が真実を全て明るみに出してくれた。そう、私の無念を、一瞬にしてはらしてくれたのだ。
ローイン様には、感謝してもしきれない程の恩がある。
「俺は当たり前の事をしただけだ。それに何より俺自身も、あんな尻軽女と結婚なんて、絶対に御免だったしね。さっきも言ったが、これからは俺自身の幸せの為に行動しようと思っている。マーガレット嬢、助けるのが遅くなって本当に申し訳なかった。本当はあの時助ければよかったのだけれど、色々と準備があってね」
「あの…お話し中申し訳ございません。ですが、どうしてもマーガレット様に謝罪がしたくて…マリン様の大嘘に騙され、あなた様に酷い事をしてしまい本当にごめんなさい。自分の婚約者を寝取られているとも知らずに、マリン様に肩入れした自分が恥ずかしいですわ」
「私も、まさかマリン様があのような方だっただなんて…マーガレット様、本当に申し訳ございませんでした。私達にこんな事を言われても不愉快に思われるかもしれませんが、ローイン様は私たち被害女性にも配慮してくださりました。わざわざ私たちの元に訪れ、婚約者が不貞を働いている事、自身の誕生日パーティーで悪事を公にしたい事をお話ししてくださったのです。そのうえで、私たちの同意を求めてから、今回の件を公表されたのですよ」
不貞行為の公表は、貴族の義務。証拠を持っているにも関わらず公表しない場合は、協力者とみなされることもあるため、不貞行為の証拠を掴んだ時点で、公表する必要があるのだ。その為、今回のローイン様の公表は、ある意味貴族の義務を果たした事になる。
それでもローイン様は、被害令嬢たちの事を考え、予め報告に行っていただなんて…
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