第9話 ちょっと羽目を外しただけなのに【後編】~ジェファーソン視点~

事が済んだ瞬間、猛烈な後悔に襲われた。僕はなんて事をしてしまったんだ。僕が愛しているのは、マーガレットだけなのに…それなのによりによって、マーガレットの親友に手を出してしまうだなんて…


ショックでその場に座り込んでしまった。そんな僕に、そっと近づくマリン嬢。


「ジェファーソン様、そんなに落ち込まなくてもいいのですよ。それに多くの令息が、こうやって経験を積んでいるのです。だって、初夜で失敗したら恥ずかしいでしょう?ですから、気にしなくてもいいのです」


マリン嬢が笑顔で呟く。


「それに私、ジェファーソン様の体、気に入ってしまいましたわ。大丈夫です、マーガレットは鈍いので、気が付かないでしょう」


確かにマーガレットは気が付かないかもしれない。それに他の令息たちもこうやって経験を積んでいるのなら…


それでもやっぱりマーガレットを裏切ったことが、どうしても気になる。金輪際マリン嬢には、近づかない様にしよう。そう決めていたのだが…


僕の体が、マリン嬢を無意識に求めてしまう。彼女の体は本当に魅力的だったのだ。その欲望につい負けてしまい、何度も何度も彼女と体を重ねる。ちなみにマリン嬢は僕だけではなく、色々な令息と関係を持っている様だ。


他にも同罪がいると思うと、少しだけ心が軽くなる。それでも、マーガレットの顔を見ると、どうしても罪悪感が生まれるのだ。もしマーガレットが僕とマリン嬢の関係を知ったら、どんなにショックを受けるだろう。


そう思いと、やはりこのままこの関係を続ける訳にはいかない。今日こそマリン嬢に関係を終わらせると伝えよう。そう決意するのだが、どうしてもマリン嬢の体を見てしまうと、欲望に負けてしまう。


そんな日々を送っていたある日、最悪な事態が僕を襲った。


何と、外で体を重ねている姿を、マーガレットに見られてしまったのだ。ショックを受け、完全に僕を拒絶するマーガレット。


どうしよう…


不貞行為は立派な婚約破棄理由だ。このままだと本当に、マーガレットを失ってしまう。完全に動揺していた僕とは裏腹に、証拠がないといくら訴えても意味がないと吐き捨てるマリン嬢。


この女、自分の事を親友だと慕ってくれていた友人に、よくこんな酷い暴言が吐けるな!そう思ったものの、確かにマリン嬢の言う通り、証拠がなければマーガレットがいくら訴えても意味がない。


正直こんな姿を見られた今でも、僕はマーガレットを愛しているし、傍にいたい。こうなったら、証拠がない事をいい事に、僕とマリン嬢の関係はなかったことにしてしまおう。


それに誠心誠意謝れば、きっとマーガレットもいつか許してくれるはず。ただ、真っ青な顔をして馬車に乗って帰って行ったマーガレットが心配で、居てもたってもいられず、その日僕はマーガレットの家を訪ねた。


急に訪ねて来た僕を、快く屋敷の中に招き入れてくれたマーガレットの両親。やはりマーガレットの体調が良くない様で、医者の診察を受けているとの事。


マーガレットの両親と一緒に、僕もマーガレットの部屋へと急いだ。医者の話では、大したことはない様だが、顔色が悪くベッドに横になっていた。そんな彼女に近づくと…


「ジェファーソン様…どうしてあなたがここに?勝手に部屋に入らないで下さい…」


小刻みに震え、僕に向かって必死にマーガレットが訴えている。その姿を見た瞬間、胸がズキリと痛んだ。さらにマーガレットは、僕と婚約破棄をしたいと涙ながらに訴えたのだ。


嫌だ…


僕が愛しているのはマーガレットただ1人だ。誰が婚約破棄なんてするものか!そんな思いで、必死に僕が愛しているのはマーガレットただ1人だと訴えた。ただ、マーガレットを刺激してしまった様で、今日見た話しを涙ながらに伯爵たちに訴えている。


どうしよう…このままだと、本当に婚約破棄されてしまう…いやだ、絶対にそんな事はさせない。


そんな思いで、僕はしらを切りとおした。そこまで僕とマリン嬢が不貞行為を働いたと言うのなら、証拠を見せろと迫ったのだ。その結果、マーガレットの意見は聞き入れられることがなかったどころか、逆に父親でもある伯爵に怒られていた。


正直マーガレットには少しかわいそうな事をしたが、この国では証拠が全て。これで僕とマリン嬢の不貞が理由で婚約破棄をされることはないだろう。


それでもやはり、あのような姿を見せてしまった事は、マーガレットの心を深く傷つけてしまった事には変わりない。これからは、今まで以上にマーガレットを大切にしよう。きっとまだ大丈夫だ。


時間が経てば、マーガレットも気持ちが落ち着くだろう。そう思い、その日は家路についたのだった。

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