悪霊屋敷打毀すぜ!!!!!


 空……夜空が壊れてゆく。

 上空から落ちようとしている砲弾は夜空の崩壊と共に煙のように消えていった。

 ……砲弾の雨は止んだ。

 青空が、夜空の崩落と共に垣間見える。

 夕刻……もうそんなに時間が経っていたのか。

 崩落する瓦礫は融けた肉のようなものに変わり、落ちてくる。

 肉片はおれたちの立つ三メートルほど上で音をたて、煙を立てて消失してゆく。

 ――この屋敷の全てはまやかし。幽霊だったのだ。見えているものすべてが虚構。ずっと呪いがここに根を張ってのさばっていた。


 「……終わったようだな……クルップ以外に重傷者は居ないか? 応急処置はできる」


 米山が地面の紋章に触れる。紋章の輝きが若干変化した。彼はそのままクルップの腹部へ手を当てている。その手は朗らかな光が見える。


 「……あー。じゃ、おれの拳を診てくれないか、多分割れてる」


 免田さんが両手を米山に差し出す。米山は片手を免田さんの手に交互に当てて行く。


 「外傷を塞ぐことと骨を固定することまでしかできないからな。後で病院に行けよ……幸い治りは早くできるから1、2週間程度で完治する」


 「――あ、狭霧さんは大丈夫? 怪我は?」


 日隈さんの声が聞こえる。

 狭霧さん……。

 ――そういえば、狭霧さんはこの屋敷に入る前……あの場に居ただろうか?

 ――記憶がない――

 おれは免田さんが何かに気づき、日隈さんの方へ振り替えるのを見る。


 「日隈、そいつから離れろ!」


 「え?」


 「ありがとうございます、日隈さん。いただきます」


 日隈さんの目の前で狭霧さんだったものはあの女の霊に変貌していく。女の霊の身体から赤子が落ちて行き、日隈さんを覆わんとしていた。


 「日隈さん!」


 おれは女の霊に向かいバットを食らわせようとする。

 ――間に合わない!

 赤子たちが日隈さんにかみつく。日隈さんは灰と聖水をすかさず投げ落とし、周囲に撒く。

 だが、赤子たちの勢いは止まらない!

 日隈さんは赤子に食いつかれ、皮膚を食いちぎられている。おれの方にも……。


 「くらえ! クソッタレ!」


 米山が黄色い液体を先程のクルップのように噴出。赤子は炎に包まれるがそれでもなお無尽蔵に放出されてゆく。炎の勢いも先程よりずっと弱い。


 「くっそがああああ!」


 免田さんも必死に赤子を殴り殺して行く。

 赤子たちの中には今までの顔ぶれの他、ジョーンズの顔も見える。

 ――これまでか。

 おれは、負けたのか。

 これで、おれは、日隈さんは、免田さんは、米山は、クルップは、皆死ぬのか。

 おれたちが弱いから――


 ――なら最後まで足掻く。

 この馬鹿に人間の必死の恐ろしさというモノを教えてやる!

 恐怖するのはこっちじゃない!

 お前の方だ!

 おれは咄嗟に聖水の入ったプラスチックタンクを懐から取り出し、バットで思いっきり殴り壊す。


 『パァン!』


 タンクは破裂する。

 バットは聖水に濡れ、より一層赤子共の処理に役立つ。


 『ジュウウウウウッ!』


 「ああああああ!」


 バットで掻き回し、奥へ。


 『ぐちゃっぐちゃっぐちゃっ!』


 「アアアアアアアアアアア!」


 赤子の悲鳴が煩い……。

 だが、おれは、あの女に、何としても食らわせてやらねばならない!


 『バチャッバチャッバチャッ!』


 「アアアアアアアアアアアアア!」


 恐怖を思い出させてやらねばならない!


 『グチャチャッ』


 「あああああああああああああ!」


 殺す、殺す殺す!


 『ビチャビチャァッ』


 「ああああああああああ!」


 湧き出る赤子の量は減っている。一矢報いれる! 

 殺せる!


 『ビリッビリリッ』


 「クッ……くくくく……」


 おれの身体はびりびりと裂かれ、かみちぎられてゆく。

 くくく……そんなものは知らない!


 『バチャチャチャッ!』


 「おあああああっ!」


 燃えた赤子が叫びをあげ、火をこちらに押し付ける。


 『ジュウウウウウッ……』


 「くくく……ははははは!」


 はははは! 知ったことではない!


 『バチャァッ!』


 「あああ!」


 掻き分ける。


 『バチュッ!』


 「ああっ!」


 殺す。


 『ドチュッ!』


 殺す!

 見えた!

 ――あの女の顔。

 奴は振り返り、おれを見る。


 「あ、あああ……」


 赤子の放出が止まりかけている!

 奴はそれもあってか、おれを見て、恐怖を覚えた表情を見せる。


 「ああ、あああああ!」


 「はははははは! 死人ごときがいっちょ前に、怖がってんじゃねぇええ!」


 おれはズタズタに裂けた頬を歪ませ、満面の笑みでバットを振り上げる。


 『ドチャアアアアアッ!』


 霊の脳天にクリーンヒット。だが。


 『ドチャッ!』


 「足りない……」


 『ドチャッ!』


 「足りない!」


 『ドチャッ!』


 「こんなものではない!」


 『ドチャッ!』


 「何人殺した!」


 『ドチャッ!』


 「何人食った!」


 『ジュッ!』


 「何人だっ!」


 『ドガッ!』


 「死人ごときがっ!」


 『ドガッ!』

 

 「生きてもいない奴がっ!」


 『ドガッ!』


 「生きている奴を馬鹿にするなぁああっ!」


 『ドガッ!』


 「やめろ! ハク!」

 バットを掴まれる。

 振り向く。

 日隈さん。左腕をかなり食いちぎられているが、止血されている。


 「もう終わった。もう跡形もない……落ち着け……」


 見ると、殴っていた所には抉れた土があるだけだった。それ以外は何も無い。

いつの間にか、おれは土を殴っていた。


 「ハァ……ハァ……ハァ……みんなは?」


 「免田はボロボロだが何とか。今、ガス爆発ってことで警察を呼んでいる。……だが、あの二人組が居なくなっている……名前は、ええっと」

 二人組……そうだ、あの……二人組?

 よく思い出せない……。


 「……とにかく助かった、深くは考えるな、身が持たん」


 「はい……」


 日隈さんは痛みからか、少し寂し気な顔でそう語った。

 おれたちは救急車で運ばれた後、慣れ親しんだ事情聴取が為されたが、結局老朽家屋のガス爆発事故という事で無罪放免となった。


――


 結局おれたちは仕事の報酬は前金のみで二週間ほどの通院を必要とした。割に合わない仕事。

 だが、この経験は今後に活きる。そしてもっと多くの怪異を殺す原動力になる。そんな意思がおれの中に今ふつふつと燃え上がっている。

 悪霊を打毀してやらねばならない。この街から……理不尽な死を取り払ってやる。


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