第7話 白花、溶け出す

七月に入った。

梅雨はまだ続いていて雨の日が多いが夏が近づくとともに気温も上昇。

六月辺りで夏服の子がぽつぽつ出だしたが私は今日から夏服を着用する。

半袖にリボンとシンプルな装いは好みだ。

今年初の夏服にうきうきしている私は雨が降ろうが、気分は上々だった。


今日の朝食は和食。シンプルにご飯と味噌汁とほうれん草の胡麻和えに焼き鮭。


夏も近い。私は夏も近いねなんて話をして「ついに夏服にしました」と話をふる。黒蜜さんはいいねと言ってくれた。ただそれだけでうれしかった。

黒蜜さんはその後「夏休みはどうするの? 朝ごはん…」と聞いてきた。


「夏休みは…来ないかな。」と答える。

特に何も考えてなかったが、夏休みまでお邪魔になるのはどうだろう。

「え?」

「流石に夏休みまで邪魔になるわけには…。」

「い、いやいや、邪魔じゃ…ないよ。」

焦りながら答える黒蜜さんをみて私はなんだかうれしくなる。

「そう…。」

「…初めて会った日のこと覚えてる?」

「確か、ガラス割った犯人だと疑われて…。」

「その前にも一回会ってる。」

はて? 私は顔を傾げ思い出そうとする。

黒蜜さんは近くの本棚から大事そうに祀られている(?)本を一冊手に取る。

表紙を私の方へ向けて顔を隠す。

なんだろう。照れてる。


「自分本位」


そのタイトルを口にしたとき、私は思い出した。

「それ、あげた奴?」

「そう。」

「それが…? なに?」

「これ私のモットーにしたんだ。」といいながらタイトルをなぞる黒蜜さん。

「自分本位に生きるってこと?」

「そう。でもそれがどれくらい難しいことか、最近痛感しているんだよね。白花はなんかクールに物事をこなしててさ、かっこいいなぁって思ったんだ。」

「…。」

照れる。顔を描いて横目で時計を確認。そんなに時間は経っていない。

結構長く朝食タイムを取っているかと思ったが…。


「そんな白花がさ、毎朝私と一緒に朝食作って食べて…なんか、こういうのいいなぁって思ったんだよね。」

「…それは…、」と一回言いかけて止める。恥ずかしさから言いだせなかった。

上を向いて叫びたくなる恥ずかしさをこらえ、向き直り言い直す。

「それは、私も同じ。最近黒蜜さんと仲良くなれた気がする。毎朝楽しい。」


思えば、朝から上機嫌なのは私の人生史上珍しいことだった。感情の起伏が少ないと言われがちな私がうきうきしている瞬間など、宝くじに当たるがごとく確立の低いことだ。だが、今日は違う。なぜうきうきしたのか。なぜ上機嫌だったのか。

夏服を着用したから? 夏服が好きだから?


違う。


夏服を黒蜜さんに見せたかったからだ。そして似合っているかどうか聞こうと密かに思っていた。黒蜜さんに楽しいと告げた瞬間、自身に閉じ込めていた感情がじわじわと溶け、染み出す。


「私、今日から学校行くよ。」


黒蜜さんはさらっとそういうのだった。

衝撃で何が何だかわからないが、よかった。

そう思う心の底に閉じ込めてた感情はふつふつと盛り上がっていく。

なんだろう。


なにかがおかしい。





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