第8話 兄からの依頼
「不思議な夢を見始めたのは、半年くらい前のことです。その頃、その夢に悩んでいたんでうっかりドアを開けっぱなしにしてしまって…飼い猫が逃げてしまい、それで望月さんに探してもらうためにここに来たのが望月さんとの出会いでした」
「不思議な夢…?」
「はい、19世紀末のロンドンに実在していた男性に転移してしまったというような夢でした」
「それって…」
「実際は、実在していた男性ではなく…実在している男性というのが正確な表現でしたし、夢ではなく現実でしたが…」それに気付くことができたのは、望月さん… つまりは、妹さんのお兄さんが同じ経験をされていたからでした」
「えっ、ちょっと待って。同じ経験て… お兄ちゃんも?」
「はい、お兄さんとは、あちらの世界でも何度かお会いしています。僕は、向こうの全てを夢だと思っていたのですが、そうではないと…リアルな世界なのだと教えてくれて、色々勉強させてもらってました」
途中まで、それとなく聞き耳を立てている様子だった隆太郎くんが、それを聞いて足早に歩み寄って来た。
「話の途中にすまない。望月拓海の幼馴染の横峯という者だ。君は、最近も拓海と連絡を取っていたのかい?」
「はい。向こうの世界では直接会ったりもしていました。なかなかお互いが同じ世界にいるタイミングが合わなかったりするので、そういうときは、手紙で連絡事項を伝えあっていたんです」
「和戸… 早雲。手紙がきてた」
「そうです、早雲は僕の名前です」
「向こうの病院にいるときに尋ねてきてくれたのは、たしか… ワトソン」
「はい、ワトソンは僕の向こうでの名前です。望月さんにお嬢さんのサポートをして欲しいと頼まれて、あれこれコンタクトを取ろうとしていたのですが、なかなかお会いできなくて…」
「お兄ちゃんは、今どこに?」
「話すと長くなるので、それは今度会ったときに詳しく説明します。どうやら、僕はそろそろ向こうに戻らないといけないようなので…」
「…どういうこと?」
「向こうで会いましょう。先ほども言いましたが、面会できるように手配をお願いします」
そういうと、和戸くんは全身の力が抜けたように脱力し、そのまま仰向けでソファに倒れ込んだ。
「和戸くん!?」
慌てて和戸くんを仰向けにすると、隆太郎くんが即座に呼吸と脈を確かめる。
「大丈夫、寝てるだけみたいだ」
「向こうに戻るって言ってた。私のときと同じように、今頃向こうで目を覚ましてる頃なのかな?」
「ちょっと待って、ヒカリちゃん…状況がよくわからないんだけど… 向こうっていうのは、何処? 19世紀末とかロンドンとかって…」
「隆太郎くんは、心当たりない?」
「よくわからないけど、拓海はそこに行ってるってこと?」
「うん、そうみたい… 私も詳しいことはわかってないから、今度和戸くんに聞いてみる。わかったら、隆太郎くんにも詳しく説明するから…」
「あぁ、そうしてくれると助かる」
隆太郎くんはそう言って、和戸くんが寝ているソファの反対側に腰を下ろして、溜息を吐いた。
「何にしても、拓海の居所に繋がるかもしれない情報がわかってよかった…」
「そうだね… ありがとう。隆太郎くんも少し休んで」
その後、私は隆太郎くんと携帯番号を交換し、何かわかったら電話で連絡しあうことと、もし連絡がつかないときは、和戸くんと兄がしていたみたいに、ここに置手紙をするか郵便で送って連絡を取り合うことにして、私はシェアハウスをしているマンションの部屋に戻ることにした。
隆太郎くんは、和戸くんが意識を取り戻すまで事務所にいてくれるらしく、自分でも調べたいことがあるからと、もうしばらくここで兄のパソコンを使って情報を集めをしていくということだった。
何かに巻き込まれてしまっているらしいことだけは、感じていた。どうやら、私と兄と和戸くんは同じ事態に巻き込まれているようで、隆太郎くんは違うみたかったけれど、もしかしたら他にも同じような経験をしている人がいるのかもしれない。
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