悪役領主に転生したので一芸特化のかませキャラたちと黒幕倒してみる
空野進
第一章 黒幕をたおそう
プロローグ
プロローグ
黒幕側の味方をしているにも拘わらず序盤にあっさり殺されるキャラがいた。
かませ犬と呼ばれるそのキャラの名前はクルト・アントナー。
辺境に領地を持つ子爵であった。
そんなクルトが殺される襲撃イベント、『悪役領主の尻尾切り』。
暴動が起き、それを鎮めるために悪役領主クルトが下級悪魔を召喚した。
だが、逆にその悪魔によってクルトは殺されてしまう。
主人公たちが悪魔を討伐するのが目的のイベントなのだが、チュートリアルで発生するために必ずクルトは序盤に殺されるのだった。
まさに主人公たちのかませ犬と言っても他ならない。
原作が始まる五年前。
両親が命を落とした十歳のときに、そのショックで転生前の記憶を思い出したのだ。
慌ただしく引き継ぎを行いながら、色々と調べていくうちにここがシミュレーションRPG『アップスターファンタジー』の世界であることと自分がかませ犬キャラのクルト・アントナーであることを知る。
「くそっ! なんでよりによってクルトなんだよ!?」
机を思いっきり叩くと側に控えていたメイドがビクッと肩を振るわせていた。
いや、クルトにも悪いところはたくさんある。
そもそも黒幕の味方をしているところがまずダメ。
とはいえ、相手は大公爵である。
同じ貴族である以上、完全に拒むことはできない。
幼くして貴族の地位に就いたクルトが後ろ盾を得るために、大公爵を頼るのはおかしいことでもない。
いくらその大公爵が国家転覆を狙う黒幕でも、生きていくためには必要な事なのだ。
しかし、今回のクルトは違った。
なにせ転生前の記憶を持っているし、このゲームは前世で大ヒットしクルト自身もかなりやり込みイベントの詳細まで記憶している。
この事件の黒幕は主人公に過去の事件の証拠を突きつけられ、そこから逃れるためにラスボスである魔王を呼び出す。
今のクルトでもその証拠が隠されている場所はわかるために、黒幕を批難することはできる。
「でも、それをやるとラスボスと戦わないといけないんだよな……」
自慢ではないが、かませ犬である俺の能力は低い。
どうあがいても自分一人で魔王を倒すなんてことは不可能だった。
それなら倒せるまで自分を鍛える?
いや、原作が始まるまではたった五年しかない。
始まってしまうと即チュートリアルが始まって、クルトは殺される。
ゲーム知識を得た今、自分から悪魔を召喚することはない。
それでもおそらく未来は収束するようにできている。
そうでないとゲームが始まらないのだから。
「とにかく今は力を付けるときだな。それにゲーム通りなら領主を引き継いだ今、黒幕である大公爵が俺に接触してくるはず。倒すべき相手の顔を拝める良いチャンスだ」
クルトは不敵な笑みを浮かべる。
すると、まるでタイミングを図ったかのようにメイドが一枚の手紙を持ってくる。
「く、クルト様、お手紙が届きました」
少し怯え気味のメイド。
その理由はクルトの両親が見た目からして真っ黒な悪役子爵だったためだ。
ブラックさながらの環境で働かせている上に薄給。
そんな状況では怯えても仕方ないだろう。
「ありがとう。早速読ませて貰う」
「えっ!? あっ、は、はいっ……」
お礼を言われて困惑しているメイドから手紙を受け取る。
――お礼一つでここまで驚かれるのか……。
クルトは思わず苦笑を浮かべる。
そして、手紙の封蝋を見てニヤリと微笑んでいた。
送り主は大公爵、カステーン・バルミット。
このゲームの黒幕であり、国王の弟でもあった。
封筒を開き手紙を読む。
するとそこには両親の死を悼む内容が書かれており、最後に『いつでも私を頼ってくれ』という内容が書かれていた。
おそらくこの手紙を読み、原作のクルトはカステーン大公爵を頼ってしまったのだろう。
――でも、俺はそんな間違いは犯さない。かませ犬になる人生なんてまっぴらだ!
クルトは口を吊り上げ、笑みを浮かべると早速手紙の返事を書くのだった。
◇◇◇
ルミナ王国の王都にあるバルミット大公爵邸。
おおよそ王城を除けば一番大きな館であるそこは贅のかぎりを尽くした豪華絢爛な内装をしていた。
そこの執務室にて、クルトから届いた手紙を読んで高笑いをしているのが大公爵であるカステーン・バルミットであった。
オークにも見間違いそうな巨大な体型をし、特注の椅子もメキメキと不穏な音を鳴らしていた。
「はははっ、アントナー子爵め。この私の助けを拒んでくるか」
笑ってはいるもののその手で手紙を握りしめ、怒りを露わにしていた。
「所詮は子ども。誰に付くべきかもわからないのでしょう。しかし、ここで恩を売っておけばすぐになびくのではないでしょうか?」
そばに控えていた若い男が恭しい態度をとりながら言う。
「なるほど、道理も知らぬ子どもならそういったこともあるやもしれんな。よし、それなら
「いえ、それよりももっと。喉から手が出るほど欲しがりそうなものがございます」
「ほう。それは一体なんだ?」
「もちろん領地経営をよく知る人物でございます」
男がほくそ笑むとカステーン大公爵も楽しそうに笑みを浮かべていた。
「助けだと思ったら実は領地の生命線を握られていた、と言うことだな。よし、それでいく。良い人物を見繕え」
「はっ、かしこまりました。早々に手配させていただきます」
こうして後ろ盾を拒んだせいで原作にはない、黒幕の息のかかった人間がクルト子爵領へと送られることになったのだった――。
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