第6話

休みの日、ルナはぐったりしていておやつをあげても食べようとしない。

すぐに動物病院へ連れて行くと、検査の結果、膵炎すいえんをおこしていることと肺と肝臓に影があることがわかり、まずは膵炎の治療のため入院することになった。

ぼくが帰ろうとすると寂しそうな瞳で見つめてくる。だけど起き上がる元気はないらしく、横になったまま少しだけ頭を上げている。

明日も来るからと言って頭をなでると、ルナは安心したように眠ってしまった。

昨日まで元気に走っていたし、ご飯もおやつももりもり食べていたのに...

ほんのわずかでもきっとなにか異変があったはずなのに、気づいてあげられなかったことがとても悔しい。


平日は母が毎日様子を見に行ってくれて、入院から1週間後、ぼくも一緒に面会に行った。

「血液検査の数値は入院時と変わらず、治療の効果はほとんどみられません。このまま続けても回復の見込みはないと思います」

「それは...」

「飼い主さんが治療を望むなら私たちもできる限り尽力します。ですが、ルナちゃんはこのまま入院していても...もしかしたら一人で最期を迎えることになるかもしれません」

ぼくは頭の中が真っ白になった。でもルナをひとりぼっちにはさせたくないと思った。

「もし連れて帰ったら、あと...あとどれくらい一緒にいられますか?」

「それはルナちゃんの体力次第です。短ければ数日かもしれません」

そんな...

ルナはまだ生きたいと思っているかもしれない。

ぼくのわがままかもしれない。

だけど最期は家で、みんなと一緒に過ごさせてあげたかった。

寂しそうな瞳を見たら、ここにおいていくなんて考えられなかった。

「ルナ、おうちに帰ろうか」

尻尾をピクピクと動かし、頭を上げて起き上がろうとしている。

『一緒に帰る』って言ってるみたいだ。


家に帰りしばらく横になってぐったりしていたけれど、ちょっとづつもぞもぞ動いて、そのうちゆっくりふらふらと歩きぼくにくっついてきた。

膝に乗せると安心したように眠ってしまった。頭や体をなでていると、たまに尻尾を振っているようにぴくぴく動く。


父とぼくが仕事に行っているあいだは、母がずっとみていてくれた。

ぼくはできる限り定時で帰り、少しでも多くの時間をルナと過ごすようにしていた。


もうほとんど動けなくなっていたある日、みんなが揃ったタイミングでルナが頭を上げ『クゥーン』と小さく鳴きゆっくり瞳を閉じた。

退院から2週間後のことだった。


ルナがいなければぼくは元気になれなかったかもしれない。もしかしたら、もうここにいなかったかもしれない。

ルナは幸せだと思ってくれていただろうか。

今までの思い出が頭の中を駆け回り涙が止まらなかった。

「ルナは最期までがんばったのよ。奏太が『よくがんばったね』って笑顔で送りだしてあげなきゃ」

「そうだぞ。奏太が泣いてたらルナは心配でゆっくり休めないだろ」


母がルナの体を拭きブラッシングをし、遺髪をとっておいてくれた。

ぼくは葬儀の手配をし、一睡もできないまま翌日の葬儀を終えた。

片手に乗るほどの小さな骨壺をかかえ、なにも考えられずひたすら泣いていた。

しばらくは気持ちの整理ができず、本当に苦しかった。

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