オコジョ隊

表スライム山を登って山頂でソーセージを食べよう 1




 一週間ほど費やして、ようやく遺品の整理がほぼ終わった。


 所有者不明の物品もあった……というかそれが半分ではあったが、後は保管期限を過ぎてこちらの資産になるのを待つばかりだ。


 幸か不幸か、貴重な魔道具は『夢幻の短剣』のみで、他はほとんど一般的な武器防具ばかりだ。一応、指輪やネックレスなどの宝飾品もあった。


 ちなみに『夢幻の短剣』については、魔石だけを取り出してザックやベルトに付ける計画をしているが、カピパラの大叔父さんが「あなたの無殺生攻略に合わせたものにカスタマイズしましょう」といって色々と考えてくれている。詳細はまだ伏せられているが楽しみだ。


 そんなわけで、サイクロプス峠の収入が確定したので、今度はパーティー内でそのお金をどうするかを決めなければいけない。


「報酬の分配の話をしよう」


「いやいや、そういうわけにはいかないでしょ。護衛らしい護衛ができてないんだから」


「そう? ありがとう。やったぁ。もーらい」


「いやいや、ちょっとくらいもらってもいいぞ?」


 などと冗談を交わしながら、ギルドのすみっこのテーブルで打ち合わせをすることとった。


「とりあえず巡礼者と冒険者のパーティーの慣習としては、リーダーであるオコジョが管理する。そこから護衛料なり何なり払ってもらう」


「うん。でも一つ、決めてなかったことがある」


「遺産を現金化したものの分配だな」


 ツキノワの言葉に私は頷いた。


「『夢幻の短剣』をもらっちゃったようなもんだし、私としては二人の報酬をちゃんと払いたい」


 金額が一つだけ飛び抜けているので、扱いに困るのだ。

 今のところ『夢幻の短剣』については「全員で共有する資産」みたいな扱いにしておこうと思ったのだが、二人は「扱いが面倒だしヤダ。責任が重い」、「細かいことは言わん。お前のもので良いよ」といって断られていた。


「どのくらいになる?」


「現金化できたのは400万ディナ」


「魔道具一つに負けてるが、それでもすげーな……感覚がおかしくなりそうだ」


 ツキノワが驚いているが、私が一番驚いている。

 親の遺産を切り崩して節約生活していた今までが嘘のようだ。


「しかもコレットちゃんに聞いたんだけど、無殺生攻略には特別報酬が出る。100万ディナ。だから合計500万ディナの収入」


「マジで?」


「あら、無殺生攻略ってけっこう儲かるんだね」


 二人とも「やったぜ!」くらいの感じだ。

 嬉しそうだが、目の色を変えるほどの喜びでもない。


「もしかして、巡礼の報酬としてはそこまで高くない?」


「まあサイクロプス峠での祈祷が成功すれば、悪くない報酬が出るしな。確か今の算定だと……」


「70万ディナだね」


 なるほど、このくらいの差になるのか。

 それなら最初から魔物と戦う方が効率的な稼ぎ方だと考える人がいるのも無理はないかもしれない。


「で、500万の使い道とか分配について相談したい」


「オコジョ。忘れてない? あんたは博打に勝ったのさ。こいつが、『戦闘が起きなきゃ報酬はいらん』なんて余計なこと言ったから」


「おまえがそれ言うかぁ!? ああしなきゃ話がまとまらなかったじゃねえか!」


「あっはっは、冗談だよ」


「まったく。オコジョ、こいつには報酬やらなくていいぞ」


 ツキノワがやれやれとアメリカンな仕草で肩をすくめた。

 だが私と二人の間に、ちょっと認識の相違がある。


「一つ訂正。サイクロプス峠で戦闘は起きた」


「……まあ、起きたと言えば起きたな」


「足止めしただけだよ。戦闘なんて言えないさ」


 ニッコウキスゲには風の魔法を使ってサイクロプスを食い止めてもらった。

 私としては、それを抜きには語れない。


 ニッコウキスゲに着いてきてもらっていなければ、焦ることなく冷静に巡礼を終えることができたかどうか怪しい。足がすくんでいたかもしれないし、祈りの言葉をちゃんと言えなかったかもしれない。


 そしてツキノワが話を纏めてくれたからニッコウキスゲが来てくれた。


 それを思うと、彼らに報酬を渡すのが筋だと思う。

 彼らがいなければ、私は今、ここにはいない。


「二人には150万ずつ。私はいらない……と言いたいところだけど、生活費用とか出費が色々あるから50万ほしい。残り150万は、装備を調えたり職人に支援したりすることに使いたい。あと、まだ現金化できてないものもあるから、そこは二人に優先的に分配する形にしたい」


「そこは現金化できたタイミングで改めて相談しようぜ。意外に高い金額になると揉めるしな」


 ツキノワの大人な言葉に、ありがたく頷く。

 とはいえ先に一千万分の道具をもらっちゃったから、彼らに譲りたいところではあるが。


「ありがとう。でも覚えておいてほしいのは、これで終わりじゃないってこと。行きたい山、行きたい聖地はたくさんある。もらうものはもらって、次もいい仕事をしてほしい」


「……あたしらを指名してくれる、ってことでいいんだね?」


「私はこれからも無殺生攻略にチャレンジする。だけど、下見として普通の攻略をすることもけっこうあると思う。二人なら心配ない。組んでほしい」


 私の言葉に、ニッコウキスゲとツキノワがにやっと笑った。


「冒険者稼業もちょっと飽きてきたところだったけどさ。こういう面白いことがあるから辞められないね」


「それじゃあオコジョ隊(仮)じゃなくてオコジョ隊(正)ってわけだな」


 あ、そうそう、パーティー名の問題もあった。

 正確には、なし崩し的にパーティー名決まっちゃった問題だ。


「ていうかオコジョ隊ってなに」


「勝手に決めるんじゃないよ、まったくもう」


 私とニッコウキスゲの冷めた目に、ツキノワがそんなの知らんとばかりに笑う。


「いいじゃねえか。じゃあ他に何かよいアイディアあるのか?」


「そ、それを言われると、困る」


 パーティー名なんて全然考えていなかった。

 オコジョ隊以外に適切な名前があるかというとめちゃめちゃ悩む。


「に、ニッコウキスゲ、何かある?」


「……え、えーと」


 ニッコウキスゲの目が泳ぐ。


「なんならニッコウキスゲ隊にするか?」


「あー、私はそれでもいいけど」


「それはダメ」


 ニッコウキスゲが強い言葉で否定した。


「パーティー名に誰かの名前を冠するならリーダーのものに決まってんでしょ。つまりオコジョ。リーダーから降りようったってそうはいかないよ」


「ええー」


「冒険者がリーダーになるパーティーだって珍しくはないけど、そうなると巡礼じゃなくて冒険が目的になるよ。でもオコジョは行きたい場所、やりたいこと、あるんでしょ。だったらリーダーの座を降りちゃダメ」


「確かにそうだな。オコジョがオコジョらしい巡礼をするなら、それが一番だ」


 ニッコウキスゲとツキノワが真面目な表情を浮かべて私に諭す。

 確かにその通りだ。

 私の巡礼についてきてくれた上に、こうまで言ってくれる。

 ならリーダーとして、存分に振り回してあげようじゃないか。


「……わかった。ふたりとも、ついてきてほしい。オコジョ隊、正式発足」



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