第9話 悪魔は魂を吸い取りその味は甘美であるとされている。

 わたしの『取引』が通用しなかった。それだけじゃない、『取引』の内容を取捨選択しているように見えた。セナちゃんは『亜人の能力そのものが効かない』と主張しているが、どうにも腑に落ちない。


「セナちゃん、一旦別室で話し合わない?」

「……わかった」


 これは話し合わないとと思い、セナちゃんに相談する運びとなった。

 雲原さんには悪いけどこれは亜人の問題だ。


「ごめんなさい、雲原さん。セナちゃんを少し借りますね。冷蔵庫にあるものは好きに飲んでいいので喉が乾いたら利用してください」

「は、はぁ……」

「あと暇でしたらテレビもゲーム機もあるので好きに遊んでください」

「……?」


 雲原さんは困惑していたけどなんとか引き剥がすことに成功。

 正確にはセナちゃんが離れたくなさそうにしていたんだけどね。


 ということで雲原さんをリビングに置いておいて、セナちゃんとわたしは寝室で会議を始めることになったのだった。


「……まず言いたいんだけど」

「……何?」

「男?」

「ハルトくんは立派な男の子だよ!」

「言っちゃ悪いけど誘拐だよね、軟禁だよね」

「全くその通りです……返す言葉もありません……」


 とりあえず事実確認をしてみたら意外と嘘をつくことはなかった。

 さてさて、この誘拐、脅迫、軟禁とかいう犯罪のオンパレードをどう片付けていくかも考えつつ、雲原さんの処遇についても決めないといけない。


「雲原さんはまず少なくとも18歳以上だよね」

「うん、18歳」

「とりあえずこれで未成年淫行した線は無くなるのかな」

「まるで私が犯したみたいな……」

「したんでしょ? 淫魔なんてただでさえ男日照りなんから能力効かなくてそれなりに顔がいいならどうせヤるに決まってんだから」


 肌艶や語気でなんとなく体調が良くなっているのはわかっている。いつもなら気だるい口調で人生の終わりみたいな感じで単位を取るためだけに講義に出席している、自主性が全くないような素振りだった。だから相談相手や話し相手としての関係を持っていたけど今ではもう立派な友人になっている。


 だが、久々の来訪の第一声が『彼氏できました!』はおかしいんじゃないかなぁ!?


「なんで淫魔の友だちじゃなくてわたしなの?」

「えっと……」

「どうせ独占できないとかそこらへんだろうけど」

「だって! ハルトくんは本当にいい子なんだよ!? 私の卑下た感情を毎日受け止めてくれて、ハルトくん気絶するまでやっても『大丈夫です』って安心させてくれて……!」


 まーた惚気てるよコイツ……。

 とはいえ、大まかな現状は理解できた。あとはそれをゴチャゴチャして雲原さんをどうするかを決めるだけだ。


「まずさ、わたしに相談しに来るのはいいんだよ。だったら別に雲原さんは連れてこなくてもよかったんじゃないかな」

「逃げられるの嫌だったし……それに……」

「それに?」

「死にたくないから……」


 セナちゃんは雲原さんの体液以外は受け付けないと語った。

 まあまあまあ、百歩譲って確かに餓死はしたくないのはわかる。絶対苦しいもんね。でもさ、けどさぁ……。


「つまり、わたしの家で……やるってこと!?」

「……ご飯はね、一食でも抜くと集中力や気力が無くなっちゃうの」

「確かに理解できるけど『亜人』は曲がりなりにもヒトだからねぇ」

「でしょ!?」


 けど、それとこれとでは訳が違う。食事ぐらいは提供できるがここはホテルではない。そういうのはそういうことができる施設が自宅で行なってほしい。


「と、脱線しすぎたね。言いたいことは雲原さんわたしとセナちゃんの2人で秘匿にするってことでしょ?」

「そう! 他の淫魔、特に股座またぐらに蜘蛛の巣を張ったような見た目と金だけの年寄りには絶対にバレないようにしたいから」

「とんでもない暴言吐いたね」


 突っ込んでみたけどセナちゃんは話を続けた。


「言っちゃ悪いけど今の私はまだハタチですらない子供だから。淫魔として成熟していて金持ちのおばさん相手には絶対『色気』で負ける。超一流のスーパーモデルと女優が足元にも及ばない、それが年齢を重ねた淫魔なの。そんな存在が自分のためになりふり構わず媚びてくるんだから男には相当効くだろうし──」


 段々と早口に喋る様を見るに相当焦っているみたいだった。最後の方なんて聞き取れないし……。


「内田さんなんてこの間Mカップになったって言ってた、垂れないのに長いとかいう矛盾を抱えてる彼女に迫られたら……って聞いてる!?」

「あー、はいはい」

「ちょっとぉ!? とにかく! 信用できるのは貴女しかいないってことなの!」


 あの後も色々話し合った。そうして得た結論は……。


「仲間を増やそう」


 雲原さんには申し訳ないけど、ハーレムを作ってもらうことにした。


【あとがき】

 週刊ラブコメランキング59位!(5月13日現在)

 祝・星100!!! 嬉しい! とりあえず目標の値になりました!

 これからも応援の程をよろしくお願いします!


 淫魔は流行に合わせて身体の成長が違う特性があります。

 なので、内田さんは昨今のインフレの被害者だったりします。なお内田さんは今作には登場しません。



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