第10話
「主、起きるモッ」
「ひゃっ……⁉」
顔全体にひんやりとした感触がして、僕は飛び起きる格好で目を覚ました。枕元では、クロムがぴょんぴょん飛び跳ねているところだ。
「ク、クロム……? いきなり何するんだよ」
「もう時間だモ、いい加減目を覚ますモ」
「あ……」
そうだ、そうだった……。
いよいよ今日、まさに生死を賭けたサバイバルゲームが始まるんだった。まさか、遅刻しちゃった? ハッとなって端末で時刻を見ると、ゲーム開始の6時まで30分を切ったところだった。
「なんだ、まだ時間があるのか。よかった……。ありがとう、クロム」
「お礼はいいモ。早く支度するモッ」
「うん」
僕は用意しておいた卵サンドを食べて『無限の水筒』で流し込み、寝間着から学生服に着替えたあと、自分のステータスを確認することにした。
今まで、訓練したあとは疲れ果ててすぐ寝てしまったのもあって、しばらく確認してなかったからね。どれくらい成長してるか楽しみだ。
ステータス
名前:『白石優也』
年齢:『15』
性別:『男』
称号:『Gクラス』『ラッキーマン』『マッチョマン』『狙われた男(NEW)』
レベル:『30』
腕力:『31』(+11)
俊敏:『32』(+13)
体力:『29』(+14)
技術:『22』(+19)
知力:『17』(+16)
魔力:『30』(+16)
運勢:『30』(+14)
MP:『0』
DP:『420』
スキル:『合成マスター』『鑑定眼レベル2』『異空間レベル2(+1)』
従魔:『クロム』
武器:『ゼリーソード』
防具:『水の鎧』
道具:『無限の水筒』
素材:『神秘の羊羹』
まず称号から見ていこう。お、『いじめられっ子』っていう称号が消えてる! まあさすがにもう隠しきれないよね。その代わりのように『狙われた男』っていう新しい称号が増えていた。なんかヤバそうな雰囲気だけど、大丈夫かな……?
ちょっと気になるけど、まあいいや。さて、気持ちを切り替えて次は腕力等の数値を見てみよう。
おー……全体的にかなり上がってるけど、気になる点もあった。どうやらレベル30だと各ステータスは30までは訓練すればすぐに上がるものの、そこからは上がりにくくなるっぽいね。
ここからも頑張って上げようと思えば上げられるかもしれないけど、ガチャでレベル30以上の水準を獲得しないと、これ以上の成果はあまり期待できそうにない。
最後に確認するのはスキル欄。『異空間』スキルは、昨日寝る際にこの空間を普通の部屋に変えたときに上がったんだ。これで一つ余分に空間を置けるのは大きい。
「主、急ぐモッ」
「あっ……」
っと、そうだった。クロムの言う通り、急がないと。いつまでものんびりとステータスを見る余裕なんてないのに。
というわけで、僕は『異空間』スキルを使って光る入口を出現させて中に入ると、そこは真っ暗な場所だった。
当然だ。ここは布団の中なんだから。一応、寝る前は大部屋で寝た振りをしてから、布団の中で入口に入っているのでバレてないはず。以前のままちゃんと横たわった体勢なのでありがたい。
僕がいない間は、ちゃんと代わりに枕とかクッションとか入れてるから問題ない。寝込みを襲われても、どこかに出かけてるだけだって思われるだろうし。
布団からそっと顔を出してみると、大部屋にはみんなの姿はなかった。なんか布団に引っかき傷や刺したような痕跡が幾つもあって本当に怖い。『狙われた男』っていう称号がついたのも納得だね。
大部屋から廊下に出て、目的地へとダッシュする。もちろん、懐いたこともあって従魔のクロムも一緒だ。
本来の形だと大騒ぎになっちゃうのもあって、僕の命令で形を変えて、黒いバンダナとして僕の額に巻き付いてる形だ。これと水の鎧で防御力も上がるからお得な上、クロムが小声で喋ってくれれば僕だけに聞こえて周りにはバレない。
「オッホン……どうやら時間内に全員集まったようだな」
そこは目的地の校舎裏。僕を含むGクラスの生徒が全員集まっているのもかかわらず、異様に静まり返った中で猪川先生の言葉が重く響いた。
校舎をバックにした僕たちの前には、そんな先生と重苦しい空気のほかに、鬱蒼とした竹林が存在した。
学園の敷地には年中竹林があり、そこの木々は素材の力を借りた特殊な品種であるため、成長速度が異様に速い。また、頑強なだけじゃなく火にも強いという驚異の竹なので、マッチ一本あれば勝利みたいな展開にもならない。
この竹は半日経てば3メートルを超え、一日で全部生え揃うといわれるほどなんだ。なので、サバイバルでいくら木を燃やそうが切り倒そうがまったく問題ないってわけ。
竹は高く、密集して生えるため、容易く隠れられるという意味でも最適だからね。サバイバルゲームをやるにはまさにうってつけの環境といえるんじゃないかな。
逆に考えれば、事故死に見せかけて相手を殺したり、再起不能にしたりするのも持ってこいの場所といえる。
「あー、これからいよいよサバイバルゲームを始めようと思う。えー、こういうものに事故死はつきものだが、おー、くれぐれもやりすぎないようにな」
「……」
殺気立つ空気の中、空しく響く猪川先生の淡々とした声。この時点でもうやりすぎる気満々だ。
称号にもあるように、クラスメイトたちは、とにかく誰よりも僕を狙うと思う。それこそ、やらなきゃ絶対にやられるくらいの覚悟で。
「では、お前たち。えー、10分間だけ猶予をやるから、それぞれ竹林の中に隠れなさい。あー、その間は攻撃をやめるように。10分経って笛が鳴ったらサバイバルゲームの開始だ。おー、制限時間は、笛が鳴ってから6時間とする。さあ、大いに羽ばたくのだ。フライハイッ!」
「「「「「ワーッ……!」」」」」
猪川先生が叫ぶように発した言葉で、同級生たちが一斉に竹藪の中へと姿をくらましていく。
「青野さん、タクヤ、マサル、僕たちも行こうか」
「う、うむ、いよいよじゃな!」
「あいよ、優也ちゃん。げへへっ、狩りの時間だぜぇっ……!」
「おうよ。優也。ぶちのめしてやる!」
「う、うん……」
僕は一瞬身構えつつ、四人で竹林の中に入ったわけだけど、依然としてタクヤとマサルに対する疑念を引きずっていた。
当たり前だよね。二人とも、つい最近までいじめっ子として僕の天敵だったわけだから。
ただ、僕の力は知ってるだろうから、迂闊には手を出してこないはず。あえて隙を見せるのもありだけど、多勢に無勢な以上それはこっちにもリスクがあるので、大方片付いてからでいいかな……。
あれから僕たちは足元に気をつけながらも、薄暗い中を大分進んだと思う。広大な竹林の奥は、本当に夜のようにどんよりとしていて気味が悪かった。
さらに頭蓋骨が幾つも転がってて、その中の一つがこっちを恨めしそうにじっと見てるのがまた怖い。多分というかほぼ間違いなく本物なんだろうし。
そうだ。一体なんのつもりなのか、いじめっ子の二人に一応聞いてみてもいいんじゃないかな。っていうか聞くべきだよね。こっちだけ余計に警戒する手間を背負わされたようなものだし、そう考えると腹が立ってくる。
「……ちょっといいかな。タクヤ君、マサル君。二人とも、一体どういうつもりなのかな?」
「へ? 優也ちゃん、どういうつもりだってぇ?」
「ああ? 優也、どういうつもりって、そんなの決まってんだろ。勘違いしてんじゃねえよ!」
「……そっか。やっぱり、君たちはスパイなのか……」
「あ、いや、待ってくれぇっ! そんなに怖い顔でファイティングポーズ取るなよぉ! た、頼むから聞いてくれって。優也ちゃんをいじめるのはよぉ、あくまでも俺たちなんだって思ってんだよおぉ」
「そ、そうそう。あいつら、優也を殺そうとしてるけど、俺たちは優也をいじめたいから殺害まではしたくないってわけよ!」
「は、ははっ……」
いじめたいから生かしたいって、なんなの、この人たち……。僕は呆れてしまって、青野さんと苦笑し合うしかなかった。
「主、こいつら怪しい! ……モッ……」
「な、なんじゃ今の声は⁉」
「すぐ近くからだぜぇっ⁉」
「気をつけろ!」
「……そ、そうだね……」
殺気立った様子で周辺を探し回る青野さんたち。今頃、大声を出してしまったクロムは猛省してると思う。とはいっても、失敗は成功の母だと思ってるので叱るつもりはない。
とにかく、タクヤとマサルに関しては、裏切ってきたら叩きのめせばいいんだ。警戒心だけは解かないように。
「「「「あ……」」」」
そのとき、ちょうどいいタイミングで開始の笛が鳴った。こうして、いじめっ子と元いじめられっ子の僕、それに年配男性の青野さんによる、奇妙な共闘が始まったのだった。
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